商品の品質向上と価格転嫁の限界。現場を取り巻く構造的課題
生産・物流の現場では、各種コストの高騰や気候変動による供給不安定が重なり、経営環境は厳しさを増す一方だ。しかし、「商品が高品質であれば高価格で売れる」という単純な構造は崩れつつある。サプライチェーンを担う各事業者が、最近の課題を語った。
小山水産(生産)当社は愛媛県で真鯛などの養殖業を営んでいます。数年前と比較して海の環境が大きく変化しており、生産コストの上昇が続いています。高水温や赤潮による魚の大量死など、正常な生産維持自体が困難な環境になりつつあり、我々生産者はいかに持続的に生産できるかに注力している状況です。
マルミ(産地流通)当社は生産地と消費地をつなぐ物流を担っています。近年は魚価の高騰が続いており、養殖魚の定番品種でも小売業では特売が組めません。そのため、かつてはトラック1台の積み荷を1~2社で分けていましたが、現在は5~6社に細分化して配送しています。小ロット化による販売の難しさが現場の大きな課題です。
大都魚類(市場)当社は豊洲市場の水産卸として流通を担っています。大消費地である東京では魚全般の引き合いが強く、非常に活気があります。市場の立場から見る付加価値とは、顧客のニーズに応え評価される商品をお届けすることです。ここ10年ほどで養殖魚の品質は底上げされ、活け締めや神経抜き、冷やし込みといった基本レベルの仕立てだけでは、高い評価を得ることが難しくなっています。
生の体験が付加価値を生む。消費地における新たな提案
商品の品質だけでの差別化が難しくなる中、消費者の接点となる店舗では食材としての提供にとどまらない価値創出が進んでいる。活魚の強みである“生きている状態”を活かし、体験やエンターテインメントとして提供する動きが目立つ。
ハーバーホールディングス(店舗)博多発祥で創業40年を迎え、釣りができるレストラン「釣船茶屋ざうお」を国内に約11店舗運営しております。店内には約150トンの海水を入れた生け簀を設置しており、仕入れの約9割を活魚が占める点が特徴です。
養殖魚の最大の価値は生きていることです。漁場での取り扱われ方や輸送方法の向上により、生け簀での生存率が上がり価値を強力に支えています。鮮魚と活魚では刺身にした際の歯ごたえや身の透明感が異なります。活魚の良さを引き出す調理工程を組み、お客様に釣る楽しさと食体験を提供しています。
日建リース工業(消費地流通・物流)仮設足場やパレットのレンタルを手掛ける他、社内ベンチャーとして水産事業を立ち上げ、活魚輸送用“魚活ボックス”のレンタルや卸売りを行っています。小山水産様が育て、マルミ様が届ける真鯛を、魚活ボックスを用いて生かしたまま店舗へ納品する役割です。
ざうお様の場合、単に生きて届くだけでなく、お客様が実際に釣れる状態で届ける必要があります。そのため、水槽の状態や輸送方法に工夫を凝らしています。活魚で届けることで、鮮魚になった後に旨味を伸ばす適切な処理も施せます。
ハーバーホールディングス(店舗)客席から見える調理場で、お客様が釣った魚を調理スタッフがさばく様子を公開しており、強い興味を持っていただいています。活きアジを一緒におろし、寿司にして食べていただく体験なども実施しています。また、店舗スタッフを生産地に訪問させ、魚が育てられる背景を学ばせる取り組みも行っています。背景を知ることで、お客様との会話を通じて価値をお伝えすることにつながるのです。
大都魚類(市場)東京では活魚よりも、締めてから時間を置いて熟成させた、ねっとりとした食感が好まれる傾向にあります。このため、東京まで活魚の状態で運び、信頼できる問屋が適切な処理を施して締めた魚を寝かせて提供することが、付加価値のある流通形態とされています。
小ロット輸送と演出で挑む、活魚物流のイノベーション
大量輸送から、必要な時に必要な量を届ける物流への変化が進んでいる。小回りの利く輸送手段と店頭での工夫を組み合わせ、新たな商機が開かれつつある。
マルミ(産地流通)スーパーの新店オープンなどの際に活魚車を手配し、真鯛の活かし売りを行っています。生きたお魚をお客様の目の前で締め、神経抜きを施して販売する取り組みです。また、鮮度の特徴となるぬめりや色味などをお子様に伝える体験も作っています。
日建リース工業(消費地流通・物流)魚活ボックスは主に天然魚の市場間輸送で使用されてきました。従来、少量の天然魚輸送は発泡スチロールに水と電池式エアーポンプを取り付ける重労働が必要でしたが、魚活ボックスを使えば作業時間を大幅に短縮できます。現在はこれを養殖魚へ展開し、鮮魚トラックに混載して小ロットで届ける取り組みを進めている段階です。
マルミ(産地流通)大型活魚車での店舗納品は、駐車場所や騒音に関する課題を抱えていました。しかし魚活ボックスを活用することで、新幹線輸送や鮮魚トラックへの混載が可能となり、小型店舗や遠方でもイベントを実施できるようになります。











