ホテル・旅館に義務付けられている法定点検一覧と実施方法

飲食・宿泊2025.01.27

ホテル・旅館に義務付けられている法定点検一覧と実施方法

2025.01.27

ホテル・旅館に義務付けられている法定点検一覧と実施方法

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ホテル・旅館事業者には、エレベーターやボイラー、温泉の水質など設備に応じた定期点検が義務付けられている。多くの場合は点検業者へ委託することになるが、管理者の退職や新たな設備の導入などがあった際は点検が漏れないよう注意が必要だ。また、万が一事故を起こしてしまった場合に備えて点検記録を保管する必要がある。法定点検の種類をまとめ、もれなく実施・記録管理する体制の構築方法を解説する。

目次

ホテル・旅館事業者が施設ごとに実施義務がある法定点検

消防設備点検(消防法)

点検頻度6カ月ごと
報告義務1年ごとに消防署へ報告
主な点検内容消防用設備等の設置状況、機能維持を確認するための点検。
●自動火災報知設備:感知器、発信機の動作確認(煙や熱への反応、手動通報)
●消火器:設置場所・表示、外観(腐食、損傷)、安全栓・レバー、圧力計、重量
●スプリンクラー設備:ヘッドの劣化・詰まり、配管・制御盤・ポンプの状態、散水試験
●避難誘導灯・非常照明:点灯状態、電池の劣化状況、照度
●非常放送設備:放送設備の動作と音声の明瞭度
●連結送水管:送水圧力試験と接続口の状態

 

防火対象物点検(消防法)

点検頻度1年ごと
報告義務必要に応じて消防署へ報告
主な点検内容建物の構造、防火設備、避難経路など、防火に関する総合的な点検。火災発生時の被害を最小限に抑えるための点検である。
●防火管理者の選任状況
●避難訓練・消火訓練の実施状況
●防炎物品の使用状況
●消防用設備等の設置状況
●避難経路の確保状況
●防火区画の維持管理状況

 

防火設備点検(消防法)

点検頻度1年ごと
報告義務自治体の規定により消防署への報告が必要な場合あり
主な点検内容防火扉や防火シャッターなど、特定の防火設備の性能を維持するための点検。消防設備点検に含まれる場合もある。
●防火扉:閉鎖装置の動作、損傷の有無
●防火シャッター:火災感知器との連動性と感知器自体の動作
●耐火クロススクリーン:外観検査と作動試験
●ドレンチャー:放水試験とヘッドの劣化状況
 

 

連結送水管耐圧試験(消防法)

点検頻度3年に1回
報告義務防署へ報告
主な点検内容消火活動に不可欠な連結送水管の性能を維持するための点検。高圧での試験となるため、専門業者への委託が一般的。
●連結送水管の耐圧試験

 

建築物定期検査(建築基準法)

点検頻度特定建築物(ホテル、旅館など)は1年ごと、その他は3年ごと
報告義務特定行政庁へ報告
主な点検内容建物の安全性確保のための点検。専門の検査資格者による実施が必要。
●外壁・屋根:ひび割れ、剥離、雨漏りなどの劣化状況
●換気設備:動作状況と換気量
●非常用照明:点灯状態と照度
●排煙設備:煙排出機能
●給排水設備:水漏れ、配管の劣化、排水不良など
●エレベーター:ブレーキ、ドア、巻上機などの安全性と機能性

 

特殊建築物等定期調査(建築基準法)

点検頻度3年ごと(ただし、エレベーター、排煙設備、非常用照明設備等は1年ごと)
報告義務特定行政庁へ報告
主な点検内容特殊建築物の安全性確保のための詳細な調査。個別点検結果を踏まえ、建築基準法への適合性と全体的な安全性を専門家が評価する。
●昇降機:エレベーター、エスカレーターの安全性、定期点検の実施状況
●排煙設備:作動状況、維持管理状況
●非常用照明設備:点灯状況、設置基準への適合性
●避雷設備:設置状況、基準への適合性
●その他:建築物の用途や規模に応じて追加項目あり

 

外壁全面打診調査(建築基準法)

点検頻度3年に1回
報告義務特定行政庁へ報告(特殊建築物等定期調査に含める場合もある)
主な点検内容外壁の落下事故防止など、劣化状況を詳細に調査するための点検。
●外壁タイルやモルタルの浮き・剥離の確認

 

建築設備定期検査(建築基準法)

点検頻度1年に1回
報告義務特定行政庁へ報告
主な点検内容建築設備の機能維持を確認するための点検。建築物定期検査と同時に行われることが多い。
●換気設備、排煙設備、非常用の照明装置、給水設備及び排水設備の検査

 

エレベーター点検(建築基準法)

点検頻度毎月の保守点検、1年ごとの定期検査
報告義務特定行政庁へ報告
主な点検内容

利用者の安全確保のために必須の点検。定期的な保守点検と、法定の年次検査が必要。
●運転機能:ドアの開閉、昇降動作
●非常停止装置・安全装置:各装置の動作
●ワイヤーロープ、滑車等:摩耗・損傷

 

 

電気設備点検(電気事業法)

点検頻度月次点検、1年ごとの精密点検(保安規定により異なる場合がある)
報告義務点検結果を記録し、必要に応じて電力保安協会等へ報告
主な点検内容感電や火災事故防止のための電気設備の点検。
●受変電設備:絶縁抵抗測定、遮断器の動作確認
●非常用発電機:負荷運転試験、燃料残量、バッテリーの状態
●配電盤:配線の劣化状況、遮断器の動作確認
●屋内配線:絶縁抵抗測定、漏電遮断器の動作確認

 

ガス設備点検(ガス事業法)

点検頻度1年に1回以上
報告義務なし (※ただし、ガス事業者への連絡が必要な場合もある)
主な点検内容ガス漏れやガス機器の故障による事故を未然に防ぐための点検。
●ガス漏れ検査:ガス配管、接続部分の漏洩チェック
●配管の腐食状況確認:外観検査と腐食度合いの評価
●ガス機器の安全装置の動作確認:自動遮断装置や異常検知機能のテスト

 

浄化槽点検(浄化槽法)

点検頻度浄化槽管理士による保守点検・清掃(月1回以上)、1年ごとの法定検査
報告義務自治体または指定検査機関へ報告
主な点検内容浄化槽の適正な機能維持と水質保全のための点検。専門の浄化槽管理士による点検が必要。
●槽内状態:スカム、汚泥の堆積状況
●浄化槽設備:ポンプ、曝気装置などの動作
●放流水の水質検査:水質基準への適合確認

 

簡易専用水道検査(水道法)

点検頻度1年に1回
報告義務自治体への報告
主な点検内容簡易専用水道の水質基準適合を確認するための検査。
●貯水槽の清掃:内部の清掃および消毒
●水質検査:水質基準の適合確認
●設備の点検:給水設備の動作確認と老朽化状況の確認

 

受水槽・高架水槽の水質検査・清掃・消毒(水道法)

点検頻度水質検査:6カ月ごと、清掃・消毒:1年ごと
報告義務必要に応じて自治体へ報告 (※水道法施行規則により、都道府県知事等への報告が必要な場合がある)
主な点検内容飲料水の安全性を確保するための点検。定期的な水質検査と清掃・消毒が必要。
●受水槽、高置水槽の水質検査:大腸菌群、濁度、残留塩素などを検査
●槽内清掃消毒

 

飲料水水質検査(水道法)

点検頻度水道基準省令に定められた頻度
報告義務水道基準省令に定められた場合
主な点検内容供給する飲料水が水質基準に適合しているかを確認するための検査。
●水質基準項目の検査:水道法に定める基準の測定
●化学的な分析:鉛や農薬などの有害物質の濃度チェック
●残留塩素の測定:消毒の効果と安全性を確認

 

空気環境測定(建築物衛生法)

点検頻度2カ月ごと
報告義務測定結果の記録・保管
主な点検内容室内空気環境の衛生状態を維持するための測定。適切な換気の実施状況を確認する。 
●二酸化炭素濃度
●浮遊粉じん濃度
●温度、相対湿度

 

貯水槽清掃(建築物衛生法)

点検頻度1年に1回
報告義務なし (記録の保管は必要)
主な点検内容貯水槽の衛生状態を維持するための清掃。
●貯水槽内部の清掃、消毒、点検

 

排水槽清掃(建築物衛生法)

点検頻度6カ月に1回
報告義務なし (記録の保管は必要)
主な点検内容悪臭や害虫発生防止の観点から排水槽の衛生状態を維持するための清掃。
●排水槽内部の清掃、汚泥の除去

 

業務用冷蔵冷凍機器・空調設備点検(フロン排出抑制法)

 簡易点検定期点検(7.5kW以上の機器)
点検頻度3カ月に1回7.5kW以上の冷凍冷蔵機器:1年に1回
50kW以上の空調機器:1年に1回
7.5~50kW未満の空調機器:3年に1回
報告義務事業者全体で1,000t以上のCO2漏えいがあった場合は国に報告義務
主な点検内容●冷蔵機器及び冷凍機器の庫内温度
●異音、外観(配管含む)の損傷、腐食、錆び、油にじみ、フロン類の漏洩の徴候有無
●定期的に直説法や間接法による専門的な冷媒漏洩検査を実施

 

ボイラー点検(労働安全衛生法)

点検頻度1年ごと
報告義務労働基準監督署へ報告
主な点検内容ボイラーの安全性を確保し、爆発事故などを防ぐための点検。
●蒸気ボイラー、温水ボイラー:圧力計、安全弁の動作確認、腐食の有無
●圧力容器:内部検査、耐圧試験

 

その他の法令に基づく義務

ホテル・旅館の運営には、法定点検以外にも様々な法令に基づく義務がある。これらの義務を遵守することで、安全な施設運営と顧客満足度の向上に繋がる。

旅館業法に基づく衛生管理

点検頻度日常的な清掃、定期的な点検
主な点検内容宿泊客の健康と安全を守るための衛生管理は、旅館業法で義務付けられている。
●客室、廊下、階段、浴室、トイレなどの清掃・消毒
●寝具類の清掃、消毒、交換
●害虫、ねずみ等の駆除
●浴室、洗面所、トイレ等の衛生管理、換気設備の設置と維持

 

食品衛生管理(食品衛生法)

点検頻度日常的な衛生管理、定期的な点検
主な点検内容食中毒予防の観点から、ホテル・旅館内で提供する食品の安全性を確保するための衛生管理は、食品衛生法で義務付けられている。記録の保管は1年以上必要。
●食材の衛生的な保管、調理
●厨房設備の清掃、消毒
●従業員の衛生教育
●HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)に基づく衛生管理

 

事業系廃棄物管理(廃棄物処理法)

点検頻度2年ごとに見直し
主な点検内容事業系廃棄物の適正な処理は、廃棄物処理法で義務付けられている。
●廃棄物排出量の把握
●廃棄物の分別、保管
●許可を受けた処理業者への委託
●マニフェストの交付と管理

 

ネオンサイン、広告塔等の点検(屋外広告物法)

点検頻度自治体の条例で定められている。
報告義務 
主な点検内容事業者の看板や広告塔などは、屋外広告物法に基づき、定期的な点検と安全確保が義務付けられている。老朽化による落下事故などを防ぐため、適切な管理が必要。
●外観検査、構造部材の劣化状況確認、落下防止措置の確認
●表示内容の確認
●許可・届出の確認

このほかにも、消防法、建築基準法、労働基準法、個人情報保護法など、様々な法律が関わってくる。それぞれの法律の規定を理解し、適切な対応をすることが重要となる。

マニュアル整備・実施確認が必要

法定点検を漏れなく、確実に実施するには、点検マニュアルの作成と運用が不可欠だ。マニュアルには、点検項目や点検方法、担当者、記録方法などを明確に記載することで、点検作業の標準化と効率化を図ることができる。また、点検記録を適切に保管することで、設備の履歴管理やトラブル発生時の迅速な対応が可能になる。マニュアルに記載すべき主な項目は以下のとおりだ。

●点検項目:各法令で定められた点検項目を具体的に列挙する。
●点検頻度:各点検項目の実施頻度を明確にする。
●点検方法:具体的な点検手順や使用する機器、確認事項などを詳細に記述する。
●担当者:各点検項目の担当者と責任者を明確にする。
●記録方法:点検結果の記録方法、保管場所、保管期間などを定める。
●チェックリスト:点検項目をリスト化し、実施状況を確認できるようにする。
●緊急時対応:トラブル発生時の連絡先、対応手順などを記載する。

ホテルや旅館の場合、点検する現場が離れていることが多い。マニュアルを従業員に渡し、確実に点検を実施した記録をつけるためにも、従業員の業務管理ツール『V-Manage』などのITツールを使うのも有効だ。

法定点検で築く安全と信頼の基盤

法定点検は単なる義務ではなく、安全性とサービス品質の向上を支える重要な取り組みだ。定期的な点検を通じて施設の劣化や問題を早期に発見・対応することで、顧客の安心感を高め、事業の信頼性を維持できる。法律を正確に理解し、専門業者と連携しながら、法定点検を事業運営の基盤として活用しよう。

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