外食産業での起業、フランチャイズとの出会いと成功の原点

代表取締役会長 兼
社長 CEO 渡邉 美樹 氏
私は22歳のとき、ニューヨークのライブハウスで人々が音楽と食事を楽しむ姿に衝撃を受けました。おいしい料理と良いサービスがあれば、人はこんなにも幸せそうな表情をするのかと感動し、多くの人にふれあいや安らぎの場を提供したいと強く思ったのです。そこで私は外食産業での起業を決意し、24歳の4月1日に社長になるという目標を掲げ、実現に向けて歩み始めました。
最初の半年は経理会社に入り、財務や数字を学びました。次の1年間は佐川急便のドライバーとして起業資金を稼ぎ、最後の半年は外食産業で働いて店舗運営を実践。段階を踏みながら準備を進め、24歳での独立を目指しました。
しかし、当時はバブル期で家賃も保証金も高騰し、なかなか出店に踏み切れない状況でした。何とかして開業したいと考え、家賃が高額で立地の悪い店舗を借りたのです。しかし、3、4カ月で経営が行き詰まる見通しでした。
そんなとき、「つぼ八」の創業社長と出会いました。起業資金集めや外食産業での独立をお話したところ、初対面にもかかわらず、「見上げたものだ、直営店を譲ってやる」と言っていただき、さらに融資までつけるという話でした。最初は詐欺ではないかと疑いましたが、本当にそうしてくれると分かり、この機会を活かして「つぼ八」のフランチャイズに加盟することを決めました。
当時の私は、フランチャイズより自分の店を持ちたいと考えていました。しかし、実際にフランチャイズとして店を開くと、仕入れや食器の手配、販売促進、メニューなど、あらゆる仕組みが整っており、営業に専念できる環境が用意されていたのです。その結果、売上は500万円からすぐに1,500万円に達し、利益も30万円だった店が300万円、400万円と順調に増えていきました。
これをきっかけに次々にお店を出店していきました。「つぼ八」というフランチャイズに出会えたことは、最大の幸運だったと思っています。
サブウェイ買収の理由と成長戦略
ワタミは、再生可能エネルギーを利用した1次産業(農業)、2次産業(食品加工)、3次産業(外食・流通)を統合した6次産業のビジネスモデルを構築しています。風力や太陽光などのエネルギー発電事業と有機農業を基盤に、自社工場で食品加工を行い、それを外食や宅配事業につなげる、ワタミ独自の循環型ビジネスです。世の中を変えるには、企業の売上を上げることよりビジネスモデルを作ることが必要です。このワタミモデルをさらに発展させ、日本全国、さらには世界へと広め、人々からありがとうをいただき、未来の子どもたちの笑顔を作りたい。そのためには世界で認められねばなりません。それには1兆円規模のビジネスモデルが必要だと考えています。
現在、ワタミの事業は順調に成長し、国内で2000億円、アメリカで3000億円の売上を作るストーリーがあります。アジア展開も進めており、シンガポールの食品会社買収などを通じて2000億円規模に成長させる計画です。しかし、国内の外食事業で3000億円を達成することが、ワタミモデルを完成させる上での最大の課題でした。
そこで注目したのが、サブウェイです。サブウェイは世界に3万7000店舗を展開するブランドですが、日本国内ではまだ180店舗ほどしかありません。一方で、マクドナルドは国内に3000店舗以上を展開しており、この差を考えると、サブウェイには大きな成長の余地があると判断しました。
サブウェイの最大の強みは、低コストで出店できる点にあります。通常のハンバーガーチェーンは広い敷地を必要としますが、サブウェイは7坪ほどのスペースで出店可能なため、日本の商業施設や都市部の駅周辺でも展開しやすいのが特徴です。
実際に、大手ショッピングモールの運営事業者からも、すべてのモールにサブウェイを入れたいというお話もいただいています。ハンバーガーや牛丼、コーヒーチェーンはすでに多数展開されていますが、サンドイッチ業態は競争が少なく、フードコートなどにもスムーズに導入できるからです。
こうした市場環境を踏まえ、サブウェイの成長ポテンシャルを最大限に活かすことで、日本の外食市場に新たな価値を提供できるのではないかと考えています。
サブウェイのブランド価値と商品戦略
サブウェイは、世界的に見ても非常に強いブランドです。特にアメリカやアジアでは、その土地の食文化に合わせたメニュー開発が進んでおり、高い評価を得てきました。たとえば、インドネシアでは甘辛い味付けがベースのサンドイッチが人気を集め、韓国ではキムチを取り入れたメニューが販売されています。こうした各国の市場に適応した戦略によって、サブウェイは成長を続けてきました。
日本でも、サブウェイ独自のメニュー開発を進めていきます。すでに、醤油や味噌を取り入れた日本人の嗜好に合う商品を企画しており、今後は地域ごとに適したサンドイッチの展開を強化していく方針です。サブウェイのメニュー開発に関しては、当社が日本での決定権を持っているため、お客様の好みに合わせた商品をスピーディに展開できます。
また、健康志向の高いブランドイメージも、サブウェイの強みの一つです。フレッシュな野菜をふんだんに使い、注文ごとにカスタマイズできるスタイルは、日本の消費者のニーズにも合致しています。特に近年、健康意識の高まりとともにヘルシーなファストフードへの需要が増えており、サブウェイのブランド価値をさらに高めるチャンスが広がっています。
フランチャイズ展開の課題とQSCの徹底
サブウェイが過去に日本市場で苦戦した最大の要因は、QSC(品質・サービス・清潔さ)の管理体制にあります。実際に店舗ではクレームが多く、大きな課題でした。どれだけブランド力があっても、お客様の期待を裏切れば、店舗の衰退は避けられません。
この問題を解決するため、今後すべてのフランチャイズオーナー選定の際に私が直接面接を行う方針を決めました。特に重要なのは、オーナー自身が店舗に関与することです。フランチャイズビジネスでは、1、2店舗まではオーナーが現場に関わるため、一定の品質が保たれます。しかし、3店舗目以降になると、オーナーが現場から離れ、経営の質が低下するケースが増えてしまうのです。この課題に対処するため、サブウェイではオーナーが継続的に店舗運営に関わり、QSCを徹底する体制を整えていきます。
韓国のサブウェイオーナーとのミーティングでも、同じ課題が指摘されました。1~2店舗までは問題なく運営できても、3~9店舗の経営は難しくなり、オーナーのマネジメント力が試されます。10店舗以上になると組織化が進み、経営の仕組みが確立されるため、安定するとされています。こうした課題を踏まえ、サブウェイではフランチャイズオーナーの教育や支援を強化し、長期的に成功するビジネスモデルを構築していく方針です。
また、QSCを徹底するには、人材教育が欠かせません。現在の直営店では、サービスの質をさらに向上させる余地があるため、従業員の研修制度を見直します。そして、すべての店舗でおいしい料理の提供、気持ちのよいサービス、清潔な環境の維持を徹底し、ブランドの価値を高めていきます。
2048年までに3000店舗へ
ワタミが掲げる目標は、2048年までに国内でサブウェイを3000店舗展開することです。そのためのロードマップとして、2025年から年間50店舗、1000店舗を超えた段階で年間150店舗のペースで出店し、最終的に3000店舗達成を目指します。
この計画の実現に向けて、サブウェイは現在51カ月連続で前年売上を超えており、1店舗あたりの売上も他のファストフードブランドと比較して成長を続けています。今後は、1店舗あたりの月商700万円を目標とし、昼間の売上だけでなく朝と夜の売上強化にも力を入れていく方針です。また、サブウェイのブランド認知度をさらに高めるため、大手商業施設や交通拠点への出店を積極的に進めています。
さらに、フランチャイズオーナーへの支援体制を強化し、経営ノウハウの共有や店舗運営のアドバイスを積極的に行います。サブウェイは設備投資が少なく、高い収益性を実現できるビジネスモデルですが、それを最大限に活かすには、経営者の意識改革も重要です。そのため、オーナー研修や店舗経営のサポート体制を充実させ、長期的に安定した経営ができる環境を整えていきます。
3000店舗展開の実現には、フランチャイズオーナー、従業員、そしてお客様との信頼関係が欠かせません。今後も市場のニーズに応えながら、成長を加速させていきます。
フランチャイズビジネスの本質と成功の鍵
フランチャイズビジネスを成功させるために最も重要なのは、「おいしい料理を提供し、良いサービスを行い、清潔な環境を保つこと」です。これは、サブウェイの創業者であるフレッド・デルーカ氏が繰り返し強調していたことでもあり、マクドナルド創業者のレイ・クロック氏も同じ考えを持っていました。どれだけ優れた経営戦略を持っていても、最終的にブランドの価値を決めるのはQSC(品質・サービス・清潔さ)の徹底に尽きます。サブウェイを日本全国に広めるためには、この基本を守り続けることが不可欠です。
私は、サブウェイというブランドの可能性を信じています。3000店舗展開を実現し、日本に新たなおいしさと満足を届け、サブウェイが人々の生活の一部になっていくことを目指します。