ホテル業界マネージャーが考える、若手の人材育成・キャリア形成に必要なこと

セミナー・イベントレポート2025.03.18

ホテル業界マネージャーが考える、若手の人材育成・キャリア形成に必要なこと

2025.03.18

ホテル業界マネージャーが考える、若手の人材育成・キャリア形成に必要なこと

  • bnr_v-manage_300_photo2.png(汎用)
  • bnr_menu-plus_300(汎用)

2025年2月に東京で開催された国際ホテル・レストランショーのセミナーの中で、ホテル業界従事者の人材育成やキャリア形成やについてディスカッションされた。

登壇者は、ザ・カハラ・ホテル&リゾート横浜・総支配人 阿部泰年氏、リーガロイヤルホテル大阪・総支配人 中川智子氏、ザ・ペニンシュラ東京・執行役員ピープル&カルチャーディレクター 本間聡氏の3名。ファシリテーターは東洋大学国際観光学部の徳江順一郎准教授が務め、各社の経験や事例が紹介された。

目次

マネジメント職を目指したきっかけ

【Q】マネジメント職を目指したきっかけは何でしょう?

ザ・ペニンシュラ東京 執行役員 ピープル&カルチャーディレクター 本間聡氏
ザ・ペニンシュラ東京
執行役員 ピープル&
カルチャーディレクター
本間聡氏

ザ・ペニンシュラ東京 ピープル&カルチャーディレクター 本間聡氏 私のキャリアはヒルトン東京のレストランから始まりました。マネジメント職を意識しはじめたきっかけは単純で、当時、ホテルのマネジメントのスタッフたちがレストランを私用で利用している姿を見て、自分もそのレベルになったらホテルを使えるのか、かっこいいな、自分もそうなりたいと思ったこと。年齢とともに自分の成長に限界を感じていたこともあり、20代後半には約1年半かけてホテルの全部署を回り、管理職を目指す『マネジメントトレーニープログラム』を受けました。そこからコンラッド東京に研修担当として着任。多くのスタッフと関わり、経験を積んでいく中で、より深く人材育成に携わっていきたいと考えるようになりました。

ザ・カハラ・ホテル&リゾート横浜 総支配人 阿部泰年氏(以下、阿部氏) 私は対照的で、もともとコンシェルジュのスペシャリスト志向でした。マネージャーになりたいと思ったことは一度もありません。お客様を喜ばせることに全力を尽くす中で、どうしても自分1人でやるには限界があり、仲間やチームをまとめる役割を身に着けていったというのが実情です。とはいえ3年前に総支配人になってみると、見える景色がまったく違って、これはこれで非常に面白い。スペシャリストとゼネラリストの両方を経験したからこそ、本気でやるべきことをやればどちらも楽しいとわかりました。

リーガロイヤルホテル大阪 常務執行役員 総支配人 中川智子氏(以下、中川氏) 入社当初はフロントで接客業務をしていました。数年後、会社がゼネラリストを育成する方針に変わり、そのタイミングでゼネラリストの選抜講座に参加したのです。論文を書いて、数名のメンバーと一緒に役員会議にも参加し、経営の進め方に触れました。そこで感じたのは、お客様にもっと良いサービスをしたいと思っても、上層部にいかなければそれは難しいということです。だからこそリーダーになりたいと思いました。それがゼネラリストへの最初の第一歩です。

自身のキャリアを見つけることの大切さ

【Q】ホテル業界に入った者は、キャリアをどのように進めるべきでしょうか?

中川氏 入社後3年目くらいまでは、スペシャリストとしていくべきか分からない人も多いでしょう。業種やポジションによって見える世界が違うので、いろいろ体験しながら、自分にぴったりなものを見つけて進む方向を決めてほしいです。ソムリエやシェフになりたい人はその道から外れたくないでしょう。しかし、実際にソムリエをしながらレストランのマネージャーをしている人もいますし、元総料理長が総支配人をしているホテルもあります。いろんな経験を積んで、自分に合った道を見つけて進むことが大切ではないでしょうか。

ザ・カハラ・ホテル&リゾート横浜 総支配人 阿部泰年氏
ザ・カハラ・ホテル&
リゾート横浜
総支配人 阿部泰年氏

阿部氏 モチベーションは人それぞれです。タイトルを与えることによって成長するスタッフもいれば、徹底的にお客様のことのみ考えるスタッフもいます。それぞれの価値観を大切にしつつ、キャリアアップしていくのが一番です。当社では、最低でも1年間に4回の面談でスタッフが将来どうなりたいかヒアリングする機会を設けています。

本間氏 私は自分のキャリアは自分で作るという原則がとても大事だと感じています。海外資本の当社では、各ポジションの募集が掲示板にリストアップされていて、本人が応募して面接を受ける形式です。ただ、日本人はなかなか自分から応募しないことが多いです。特に管理職を目指すなら、言われてからではなく、自分からなりたいという意識を持って進むことが大切です。自分がやりたいからやるという意識があれば、キャリアチェンジもスムーズになります。外資系のホテルでは、自分で応募して昇格していけるチャンスが多くありますし、それはスタッフのモチベーション向上にも役立っていると思います。

中川氏 当社では、公募制の人事プロジェクトが昨年から始まりました。新しいプロジェクトのチームリーダーは、年齢や等級に基づいて誰でも手を挙げられるようになっています。以前の日本のホテルでは、異動したい、何かやりたいとを言いづらい風土があり、部門長が優秀な人材を異動させないことも多くありました。それではいけないということで、若手も自分がやりたい職種にどんどん立候補できるような土壌を作ろうとしています。最近では、マーケティング部門での公募が始まり、少しずつ変わってきたと感じています。

マルチタスクは会社都合か成長のためか

【Q】近年のホテル業界ではセクションをまたいだマルチタスクな人材が求められつつあります。

阿部氏 ホテルはスペシャリストが集まり、肩を組んでお客様の笑顔を作ることが魅力だと思います。マルチタスクだと、どうしても専門性が浅くなってしまうのではないでしょうか。当社もコロナ禍で人員削減を余儀なくされましたが、私は基本的にスペシャリストを重視して運営していきたいと思っています。ただし、マルチタスクを希望するスタッフもいますから、今年から運営戦略部を立ち上げ、様々な部門を経験させる体制を作る予定です。

本間氏 私も阿部さんと同じで、マルチタスクは基本的に会社都合の側面があると感じています。正直に経営的な考え方を申し上げると、1人が様々な業務をできたほうが人件費は削減できます。しかし、採用段階である程度のポジションは分けられていますから、突然『マルチタスクをやって』と言っても難しい方も多いでしょう。スタッフが求めていないことをさせるのは会社の本意ではないと同時に、スタッフが気持ちよく働けるようサポートすることが会社にとって大切なことだと思います。

リーガロイヤルホテル大阪 常務執行役員 総支配人 中川智子氏
リーガロイヤルホテル大阪
常務執行役員 総支配人
中川智子氏

中川氏 当社ではマルチタスクを推進しています。最初はコロナで新卒採用をストップし、限られたメンバーで回す必要があったため、みんなで協力して仕事を回していこうという考えから始まったのですが、今ではスタッフがいろいろな部門を経験することでスキルが向上し、円滑な運営ができていると感じています。マルチタスクは、宴会の乾杯時など瞬間的に忙しくなる場面で非常に役立つとも思います。

本間氏 当社もコロナ禍にはマルチタスクになる機会がありましたが、スタッフにとって学びになった側面もあります。自発的に挑戦したいというスタッフには、成長の機会を提供するべきだとも考えています。会社として、ときにはフレキシブルになる体制も必要です。

中川氏 スペシャリストはホテルにとって必要不可欠な存在です。でも自分のスペシャリティに気づくまでに、ある程度の年数は必要です。だからこそ最初から『この道で行く』と決めつけず、できれば2年くらいのターンでいろんなことを経験しながら、上司からのサジェスチョンも得つつ、自分にとってベストな方向性を探っていくのが良いと思います。それを支えるのが良い会社ではないでしょうか。

若手はどんどんチャレンジし、新たな景色を見てほしい

【Q】最後に若手スタッフに求めることは何でしょう?

阿部氏 特に言いたいのは、上司の機嫌を伺いながら仕事をしないこと。お客様に喜んでいただくために仕事をしてほしいです。そして、周りのスタッフはそのためのサポートを惜しまないでほしいと思います。

中川氏 若い方たちには、いろんな景色を見るためにどんどん新しいことにチャレンジしてもらいたいです。皆さんは、お客様の喜びや楽しみを実現したくてホテルマンになったと思います。それぞれの場面でお客様をどう喜ばせるか、経験を積んでほしい。ポジションによって見える景色は違います。私もGMになって、また見える景色がガラッと変わりました。

本間氏 以前は『将来、総支配人になりたい』という若い人材がいましたが、残念ながら、最近はほとんどいない印象です。しっかり大学で勉強して外資系ホテルに入ったのに、最初からキャリアアップを遠慮しがちな人が多いと思います。一方、海外でホテルマネジメントを学んできた学生は、1年目からマネジメント志向でリーダー職に就く傾向にあります。総支配人になりたいという海外出身の若い人材も多く、人材によっては2~3年後にはマネージャーレベルにまで成長します。日本の若者も常に上を目指してほしい。そういう思いをぜひ伝えたいです。

注目のキーワード

すべてのキーワード

業界

トピックス

地域