人へのアプローチを変えたら、業績も劇的に向上
【Q】2020年にMostfunを立ち上げた経緯は何でしょう?

代表取締役 大崎 拓実 氏
株式会社Mostfun 代表取締役 大崎 拓実 氏(以下同):大学在学中にキャッチセールスの仕事をして、月収50万円ほど稼いでいました。同時期に知人と起業し、飲食店を7店舗まで拡大したのです。しかし、当時の店長の年収は500万円前後で、20代前半の私の収入をはるかに下回っていました。なぜこれほどの差が生じるのかと思いPLを精査したところ、人件費を上げる余裕はないことが分かりました。
アルバイトの社員登用は当時から進めていましたが、労務環境の悪さや低賃金を理由に離職する人が後を絶たず、定着することがほとんどありません。その課題解決のため、私は人事コンサルティング会社へ転職。複数の飲食店の運営に携わる中で、各社が共通の悩みを抱えていることを知ったのです。
飲食店経営では、ヒト・モノ(業態)・カネの3要素が不可欠です。しかし、資金力があり業態が優れている大手企業でさえ、人材不足が原因で店舗展開が伸び悩んでいました。私は資金づくり1年、業態づくり3年、人づくり10年という持論を持っていますが、多くの企業が人づくりでつまずいています。それならば、人を大切にする経営こそが成功への道筋になる。そう確信し、Mostfunを設立したのです。
【Q】創業当初の店舗はフランチャイジーでしたが、現在は自社ブランドにシフトされています。

創業当初は業態開発やブランド構築の負担が少ないフランチャイジーでの店舗運営に注力しました。これにより、従業員の働く環境づくりに専念できると考えたためです。
当時は、ES(従業員満足度)が向上すればCS(顧客満足度)も上がり、業績向上につながると考えていました。そのため、週休3日制の導入や月間労働時間の200時間以下への抑制、週1回のメンタルケア面談など、とにかく働きやすい環境づくりを徹底したのです。しかし結果として、意欲の低い社員が増え、業績はすぐ低下。いわゆるブラックと言われる飲食業界だからこそ、働きやすさを追求すればESが向上し、CSも上がるという想定が必ずしも成り立たないことを痛感しました。
この経験から、ESを高めるために重要なのは、働きやすさよりも働きがいだと考えを改めました。従業員が働きがいを得るには、自ら考え行動できる環境が不可欠です。そのためには業態の自由度が必要ですが、フランチャイジーでは制限があります。そこで、オリジナルブランドの店舗展開へと方針転換しました。
その結果、フランチャイジー店舗で月500万円程度だった売上は、オリジナル業態への転換後、平均20%増となり、繁忙期には月1000万円を達成。1年間で業績は驚くほど伸びました。人材へのアプローチを変えることでこれほど変わるのかと、創業メンバー全員が驚きました。
アルバイトが社員になりたいと思える環境づくり
【Q】従業員の育成方針や取り組みについてお聞かせください。

ヒントにしたのは高校野球です。甲子園常連校は毎年ほぼ同じ顔ぶれです。選手が入れ替わっても強豪校であり続けられる理由は、飲食店でのチームづくりにも応用できると考えました。私なりに分析した結果、重要な要素は、採用時の人材選定、成功体験を積める環境、学び・成長を当前とする文化。この3点が不可欠だと結論付けました。
採用面では、当社では社員はアルバイトリーダーからの登用を原則としています。人手不足を理由に安易な採用をすれば、業績にも従業員にも悪影響が及ぶことは明らかだからです。アルバイトリーダーの選考では性格診断エゴグラムによる一次試験や、月次店舗ミーティングへの参加可否など、店舗運営へのコミットメント度をアンケートで確認します。
この段階で応募者は80%に絞られ、その後、本部での面接や接客ロールプレイングで適性を判断します。面接は2時間以上を要し、最長4時間に及ぶこともあります。これほどの時間をかけるのは、採用時こそモチベーションが最も高く、マインドセットがしやすいからです。最終的に社員採用に至るのは応募者全体の30%程度です。当社ではこの一連の採用方法をカンテラ採用と呼んでいます。
カンテラ採用にこだわる理由は2点あります。まず、採用コストの削減分をES向上に投資できること。そして、アルバイトが社員になりたいと思える会社づくりを実践できることです。実際、社員の80%がカンテラ採用によって入社しています。
【Q】アルバイトが社員になりたい環境はどのように構築していますか?

第一に、企業理念の浸透を重視しています。理念の浸透には、知っている・言える・語れるという3段階があります。
まず、店舗ミーティングや勉強会で企業理念を3分程度にまとめた動画を繰り返し視聴し、知っている状態をつくります。次に、月1回の店舗ミーティングで企業理念やビジョン、行動指針などを記述式で回答する理念テストを実施し、言える状態にします。最後に、店舗ミーティングで毎回2名程度が企業理念を自分の言葉で語る理念バトンという機会を設け、語れる状態へと引き上げます。この3段階を経て、企業理念は現場に浸透し、やがて組織文化として根付いていきます。
また、働くことは我慢ではなく、自己実現の喜びのひとつであるべきと考えています。その具現化として、本気のドッジボール大会や大乱闘MF(モストファン)大運動会など、20種ほどの社内イベントを企画。楽しみながらチームワークを醸成する場となっています。
特に年1回のプレゼン大会では、社員やアルバイトが壇上で自らの成功体験を発表します。プレゼンターは前日深夜まで資料作成に取り組み、「社長マジきついっす」とこぼす人もいますが、本番では堂々と発表します。その経験自体が想像以上の成功体験となり、成長のきっかけとなっています。
どんな組織にも、2:6:2の法則が当てはまると言われます。優秀な人材が2割、標準的な人材が6割、貢献度の低い人材が2割です。私は上位2割に注目しつつ、中位6割の底上げをする仕組み作りを行っています。適応が難しい人材を無理に引き留めることはしません。離職率は、低ければよいというものではないと考えているからです。
【Q】厳しい指導が難しい風潮の中、人材育成の課題は?

当社は従業員満足度日本一を目指していますから、意欲に欠ける従業員には厳しく指摘することもあります。世間の風潮に合わせて基準を緩める考えはありません。
実際、当社の業務負荷は決して軽くありません。特にアルバイトリーダーは、アルバイトの面談、月次の社内勉強会、店舗ミーティングの司会、事前ミーティングなど、多岐にわたる業務を担当します。しかし、その分アルバイトでも一般的な店長や社員と同等以上のスキルを身につけていると自信を持って言えます。
一方で最近は、ホワハラ(※ホワイトハラスメント:パワハラを恐れて適切な指導ができないなど、過度なコンプライアンス意識が業務に支障をきたすこと)という言葉も耳にします。飲食の現場でも同様の揺り戻しを実感しています。
デジタル技術はES向上に欠かせないツール
【Q】ES向上のための時間をどのように確保していますか?
ES向上の時間確保には、店舗のバックヤード業務の削減が不可欠です。当社では4人のエンジニアが在籍し、勤怠システムを自社開発して運用しています。受発注システムの自社開発も検討しましたが、すべての仕入先への導入は現実的ではないと判断しました。
自社ブランド展開以前から、飲食業界でトップシェアを持つインフォマートの『BtoBプラットフォーム 受発注』を活用しています。長年の利用で、受発注システムのない環境に違和感を覚えるほどです。実際、M&Aで買収した飲食店ではシステムが未導入で、すべて電話やFAXによる発注が主流。毎日30分から1時間かけて納品伝票の金額を手計算する従業員の姿を目にしたとき、まさに地獄だと思いました。
ITやAIに任せられる業務は積極的に移行し、人間は本質的で創造的な仕事、言い換えれば楽しい仕事に集中できる環境を整備することが、ESの大幅な向上につながります。
【Q】今後の展望をお聞かせください。
私は現在33歳ですが、40歳までに従業員満足度日本一の達成を目指して取り組んでいます。また、10年以内に出店数を50店舗まで拡大する計画です。
その他にも、新規事業として豊洲市場で仕入れた鮮魚を東京・神奈川・千葉の飲食店に配送するサービスを立ち上げました。独自の仕入れルートを活用した新鮮な魚介類を競争力ある価格で提供できる点が強みです。順調に成長中で、今後は配送ドライバーを増員してサービスの拡充を図る予定です。
株式会社Mostfun
設立 :2022年3月1日
代表者:代表取締役 大崎 拓実
本社所在地:神奈川県横浜市港北区新横浜1-11-4
企業サイト・鮮魚配送お問い合わせ:https://mostfun.jp/