地元の味こそ、最高のごちそう
【Q】東京から福岡で開業されたのはなぜですか?

株式会社studio092 代表取締役 奥津 啓克 氏(以下同):私が初めて福岡へ来たのは2000年。当時は、東京のフレンチレストランや日本料理店で調理師としてのキャリアを積み、その後、全国各地の和食店の出店支援に携わっていました。福岡を訪れたのも、和食レストランの立ち上げを手伝うためです。
そのとき、博多の飲食シーンに驚かされました。他の大都市部に比べて大手外食チェーンより個人店が街の主役になっている。その活気に圧倒されながら、この地で認められたら一人前だと思いました。そこでこの地に自分の店を持とうと決意し、福岡で独立することにしたのです。
福岡は、歓楽街のそばに一級の漁場があり、山の幸も豊富な食の宝庫です。東京と比べて低コストで質の高い料理を提供できる利点もありました。何より、よそ者でも実力さえあれば受け入れてくれる福岡の人たちの温かい人柄が、独立を後押ししてくれました。
【Q】単一業態でなく多業態展開されている狙いは何でしょう?

現在、5業態6店舗を運営しています。博多水炊きとり田(でん)は、手間暇かけた鍋料理と手厚い接客で付加価値を生み出す業態です。海鮮丼の定食業態となる博多シーフードうお田は、取り扱う魚はおおかた漁港直送で、外国人観光客の来店が多いのでインバウンドにも配慮した店づくりにしました。DXを活用したスタンディングバーのハカタ#092では完全キャッシュレス化して、2024年8月にKITTE博多にオープンした博多鶏そば TORIDENでは注文や会計を無人化するモバイルオーダーシステムを採り入れています。

食はその土地の特色を知る最良の手段です。地元の食材を使うのは、当社にとってごく自然なことです。また、今はどこへ行っても世界の料理を楽しめる時代ですが、逆にいえば、その土地ならではの、地産地消の郷土料理こそ、一番のごちそうといえます。そう考え、最初に着目したのが博多の代表的な郷土料理、水炊きでした。
そして、飲食店は5年、10年と続けるのが難しい業界です。食のニーズやスタイル、価値観が移り変わるので、変化に柔軟に対応できる店舗運営が求められます。だから単一の業態に固執せず、多様な業態を展開する方針は最初から頭にありました。
挑戦を楽しめば、自然と成長できる
【Q】飲食業界では人材不足が深刻ですが、どのように対応されていますか?

飲食業界は人材不足と一括りにされることに、私は違和感を覚えます。人材不足かどうかは捉え方の問題であり、経営者や店長によって感じ方は違うはずです。私は、人材不足なんてないと思っています。
そもそも、飲食業界は景気の波に左右される業界です。不景気になれば客足が遠のき人材が余ります。逆に景気がよくなれば忙しくなり、人が足りなくなるのです。

こうしたシーソーのようなサイクルは今に始まったことではありません。いまは物価高で店舗運営がより難しい局面にありますが、人材不足と嘆くだけなら、それは経営者の怠慢です。
人員が不足しているなら、売上ベースの運営から利益ベースの運営にシフトし、利益目標を確保するように考えればいいのです。人件費が高騰しているなら、その分を売価に転嫁し、価格に見合う付加価値をつける企業努力が必要です。そこで値上げできないというのなら、それは店のメニューやサービスに付加価値を見出せていないからではないでしょうか。