【Q】従業員の人材育成は、どのようにしていますか?

まず、飲食業において笑顔は技術です。スタッフ一人ひとりが、どうすれば自分が笑顔でいられるかを考えることが、いい店づくりの土台になります。だからいつもスタッフにはこう伝えているんです。楽しいから笑うんじゃない、笑うから楽しいんだよと。
実務面では、お客様との接点に特化したスキルアップを重視しています。その一環として、「とり田」では水炊き検定を導入しました。

アルバイトを含む全スタッフを対象に、水炊きのこだわりの説明、食べ進め方、サービスの所作などについて当社独自の検定を行っています。資格は三級(基礎知識)から師範(高度なおもてなしスキル)まで4段階に分かれ、ランクごとに手当を設定しています。認定者は制服にバッジをつけるほかメニューでも紹介することで、スタッフの成長をお客様にも見える形にしています。
スタッフに強制するのではなく、挑戦する面白さを感じてもらい、自らランクアップをめざせる環境をつくりたいと思っています。実際、自発的に学び、着実に昇進していくアルバイトスタッフが増えており、それが店舗のファンづくりにもつながると考えています。
【Q】従業員のランクアップのために、どのようなことをされていますか?
技術向上の面では、YouTubeなどの動画ツールを活用しています。所作を含め、より美しく水炊きを提供できる技術など、言葉だけでは伝わりにくいスキルは動画の方が効果的です。また、動画なら1対1ではなく、一度に複数のスタッフと情報を共有できるため、教育コストと労力の両面で効率的なのです。何より、今どきの若いスタッフはYouTubeの操作に慣れているので、吸収も早いですね。
一方で、実践でしか身につかない部分もあります。そこは、社員や水炊き検定師範クラスのスタッフが指導役となり、1対1で丁寧に教えます。技術的なアドバイスにとどまらず、本人が目標を設定し、それを達成するためのサポートまで行うやり方です。育成のスタイルとしては、パーソナルトレーナーに近いと言えるでしょうか。
また、お客様に自分の言葉でメニューの魅力を伝えられるように、食材や飲材の生産現場を訪れ、生産者やメーカーとの交流を深めています。「とり田」でいえば、鶏肉の加工現場や、日本酒の酒蔵、福岡県八女市特産の八女茶の茶園などを訪問。生産者の顔を知り、その思いに触れると、接客の楽しさが格段に増します。
飲食店の従業員にもタレント性が問われる時代
【Q】人材教育で重視していることはありますか?
個人的には人材教育というと大げさで、そもそも人様を育てあげるなんておこがましいことだと思っています(笑)。教える、教えられるという上下関係ではなく、みんなが勝手に学びたくなるような環境を整えてあげることが前提ではないでしょうか。
そのうえで、大切なのはマインドセットだと思います。なぜ、この仕事をしているのか?なぜ、独立しないでこの店で働いているのか? その理由が明確になれば、いま何をすべきかが見えてきます。自分で見つけた課題にチャレンジし、経験や自信を得られれば、その後にしっかりとつながっていくものです。私は、そうやって自立していってほしいと思いますし、その出発点となるマインドセットを大切にしています。
現在は飲食店で働く人にもタレント性が求められる時代です。ひと昔前のように、ほかに働き口がないから飲食業界に進むという時代ではありません。だからこそ、ホールもキッチンも、働くことにしっかりとした理由付けと動機付けが必要と考えています。
【Q】今後の展望をお聞かせください。
飲食店の店づくりはまちづくりに近い、というのが私の考えです。そのため、街の魅力を引き立てるために、どのように店舗を作り、どんな体験を提供できるか?を常に意識して店舗運営してきました。

飲食店は、単に食事を提供する場ではなく、食文化を背負い、守り、育てるという役割も担っています。福岡は、たとえば京都に比べれば気軽に、そして面白く食文化を創造できる場所です。その自由度の高さが、面白さややりがいにつながっています。
私たちは福岡でのみ店舗を展開しているので、今後も福岡にとって必要とされる店であり続けたいと思っています。さらに、この街にとって、この店がないと困る!と言われるような存在を目指します。それこそが、飲食店をやっている意味ですから。