人さえ確保すれば、成長の可能性は広がる
飲食業界における人手不足は深刻な課題となっています。2011年には3割程度だった人手不足を感じている飲食業の割合は、2024年には6割にまで上昇し、今後さらなる悪化が予測されています。
私はコロナ禍の際、会社の衰退は資金不足ではなく、必要な人材を確保できないことが主な原因となると学びました。これを機に、当社は人材確保を最優先課題として取り組んでいったのです。
具体的な施策として、新卒採用を年間5人から20人へと拡大し、中途採用も1、2人から10名程度まで増員しました。出店計画に先んじて人材確保に注力した結果、店舗数は飛躍的に伸び、コロナ禍前の20年間で20店舗だったものが、3年で50店舗にまで成長しました。
この成長は、単なる人員増加によるものではありません。増員したスタッフの活用方法や、チーム作りに重点を置いた結果です。適切な人材確保ができれば、成長の可能性は無限に広がります。特に店長の育成が、当社の最重要課題となっています。
[出所]パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2030」
繁盛店を作る3つの要素と、チーム作りの重要性
人を確保した後、どうやって繁盛店を作っていくか。繁盛店には、業態力×運営力×販促力、の3つの掛け算が必要です。
- 業態力:商品の魅力や店舗価値の競争力
- 運営力:QSC(品質・サービス・清潔さ)の向上能力
- 販促力:時代に適したプロモーション戦略
これらの要素のうち、弱点を把握し改善することで確実に売上向上につながります。
業態力向上には徹底的な市場理解が重要です。例えば、町田商店の田川翔社長のように実際に店舗へ足を運び、商品を味わうことで本質的な理解を深めることができます。CoCo壱番屋を創業した宗次氏も、毎日カレーを食べることで業態の理解を深めていました。
繁盛店の要となるのが店長です。特に重要なのはチーム作りの能力です。優れたチーム力があれば、QSCは自然と向上し、店舗運営も円滑になります。
チーム作りとは、教育と似ているようでまったく異なります。昭和の時代は教育が重視され、嫌われてもいいから徹底させろという風潮でした。しかし、それでは今の若い子には伝わりません。令和の今こそ、教育する以前に、よいチームを作ることが重要なのです。
以前、売上の悪い当社の店舗に優秀なスタッフが新店長として赴任しました。とても頑張ってくれたのですが、結果的にスタッフとの関係性が悪化し、心を病んでしまいました。具体的には朝礼で元気な声を出そうお客様にいらっしゃいませを元気に言おうなど、正しいことを言い続けた結果、スタッフがそっぽを向いてしまったのです。スタッフの心のコップが下を向いているところに、どれだけ正論を注いでも響かないどころか、嫌われてしまうことになりかねません。
だからこそ、チーム作りの最初のステップは仲間の心のコップを上向きにすることです。たとえば店長に赴任してすぐ、店に長く勤めている古株のアルバイトとマンツーマンで食事に行く。そこで会話をしながら、お店をこうしていこうと皆に言いたいんだけど、協力してもらえるかなとお願いすれば、高確率で分かりましたと理解してくれます。最初に根回しをして、スタッフが店長の指示を心から理解し、協力したいと思えるような環境を作るチーム力が大切なのです。
店長に必要な「気付く力」を養う方法
店長の資質としてチーム力の次に必要なのが、気付く力です。優秀な店長は、スタッフの動きや店舗の状態に敏感で、細かいところに気付きます。盛り付けが違う、サービスが甘い、笑顔が足りないといった些細なことにも気付く店長のもとでは、お店がどんどん良くなるのです。
気付く力を身につけるには、揃えることが重要です。私自身、お店の中ではすべてをビシッと整えることを意識しています。とたとえば、ダスターや額が斜めになっているなど揃っていないことが気になるのです。そこに気付けるようになると、料理やサービス、清掃状況などの細かな点にも目が届くようになります。気付く力を養うには、まずは揃えることからスタートするのがいいと思います。
小さなことを徹底することで、生きた店舗になる
最後は徹底力です。よい店長は、一度決めたことを徹底してできる人です。まあいいかで流してしまうと、すぐにQSCは悪化してしまうので、とにかく徹底することが重要です。リーダーがしっかり意志を持って徹底的にこだわりを見せれば、スタッフも見習います。逆にこだわりが弱いと、チーム全体の意識が低くなり、結果として店舗の業績にも影響が出るでしょう。
お店を生き生きとさせるには、ちょっとしたこだわりが重要です。たとえばお客様が入店した際、「お客様です、こんばんは!」と笑顔で言う。小さなことですが、ちょっとした差で店の雰囲気が断然変わってきます。キッチンへのオーダーもただ伝えるだけではなく、「オーダーです!枝豆入ります!」「はいよ!」「お料理出ます!」「はい!行きます!」などと声に出すことで活気が生まれます。お客様が見ている中でスタッフ同士が楽しそうにやり取りすることで、店の雰囲気は格段に良くなります。
他にも、アルバイトや社員の子にお客様と雑談をしようと目標を立ててもらうのもいいと思います。天気の話でも、料理を食べているところにお口に合いましたか?と問いかけるのでもいいです。お客様から美味しかったよと言っていただければ、モチベーションは必ず上がります。その積み重ねがよいお店を作り、よい人材を作り、そして人が辞めにくい会社へとつながっていきます。
80%の努力で達成できる目標で、モチベーションを上げる
店長業務は、非常に多岐にわたります。だからこそ店長1人にすべてを任せてはいけません。当社では若手育成のため、新卒でもやる気があれば店長にしていますが、最初は仕込みの手伝い、シフト調整、営業、コミュニケーション、そして何より重要なチーム作りに集中させています。その他の原価管理などは本部やSVが徹底してサポートし、1つできたら次は会議の資料を一緒に作ってみようというように、徐々に教えていく。焦ると人は育ちません。
さらに新人店長にはチームの状態がよい店舗を任せ、その後、売上やチーム作りにやや課題がある店に挑戦してもらいます。最終的には、新店の立ち上げやSVとしても活躍できるように徐々に難易度を上げていきます。箱根駅伝で有名な青山学院大学の原監督によると、選手を育てるには80%の努力で達成できる目標を設定するのがいいそうです。その理由は、120%のパワーで頑張らないと達成できない目標を課すと、達成できなかったときにモチベーションが下がってしまうから。80%なら、少し頑張るだけでうまくいって、褒められてまた頑張れる。これを繰り返し続けることで、結果的に150%くらいの努力ができるようになるのです。店長を育てるためには、達成感が重要です。うまくいったら褒める。そして表彰したり称賛したりしながら、少しずつ成長してもらうのがいいでしょう。
理念経営の前にするべきなのは“大好き経営”
従業員と価値観を共有するために理念経営を重視する企業も多いですが、今の若者に自社の理念の説明や暗記、唱和と言っても、宗教みたいだと思われて心のコップが下を向いてしまいます。経営理念は重要ですが、それは社長が守って実行すべきこと。
離職していくスタッフは、待遇面の問題より、仲間同士が協力し合えてなく不満が積もることが多いと私は考えています。当社でも辞めてしまうスタッフはいますが、協力し合える環境、感謝し合える環境を作って向き合い続けています。たとえば感謝カードでスタッフが皆の前で感謝の気持ちを伝え合う。チームの信頼関係を築き、人として向き合う関係こそが仕事を楽しんでもらうカギなのです。
業務以外のコミュニケーションも重要です。以前、当社のOBがDREAM ONを好きだった理由に、バーベキューが楽しかったことだと話していました。そんなこと?と思いましたが、意外に重要なのです。当社にはフットサルやバスケット、モルック、ゲームなど、さまざまなサークル活動があります。仕事だけでなく趣味を通じて関係性を深めたい、仕事に行くときも仲間に会いに行くと感じられたら毎日が楽しくなる。そんな思いからサークル活動やイベントなどを開催しています。
「仲間が好き、お店が好き、この仕事が好き」。この3つの大好きを集めれば、自然と理念経営になっていくと考えています。
やる気を引き出す評価と称賛のコツ
店舗がよりよいチームに成長するには、楽しい関係作りに加えて適切な評価と称賛が重要です。当社では売上目標を達成した店舗には、皆で焼肉やディズニー、北海道旅行などに行ける制度があります。目標に対するご褒美を明確に設けることで一丸となれます。
また、ラーメン領収書という制度もあります。以前、当社の若手社員に好きな先輩について尋ねると、ラーメンに連れて行ってくれる人と答えました。営業後にラーメンを一緒に食べることで好かれるなんて、素晴らしいじゃないですか。このため店長以上の役職者には、毎月1万円までラーメンの領収書を切れるようにしました。営業後に飲みに行く場合は2時間ほどかかりますが、ラーメンであればビール1杯飲んで30分で帰宅できます。関係性を深めるにはちょうどいいのです。
さらに、店長育成に効果的な、褒めちぎる三者面談という制度もあります。毎年1~2月にかけて、新卒の社員と担当マネージャー、私が三者面談します。まず、新卒社員が自分の成果をプレゼンします。その後、マネージャーがその社員のよいところを紹介します。たとえば早く来て掃除している、勉強熱心で他の業態も学んでいるなど、素晴らしい点をとにかく挙げて褒める。そして私はすごいね、ありがとう!と伝える。悪いことは一切言わず、よいことだけを言って応援します。この面談を最も離職しやすい1~2月に行うことで、新人社員のやる気を引き出し、離職を防いでいます。他にもさまざまな取り組みを通して、DREAM ONではスタッフにお店や会社を好きになってもらう大好き経営を徹底しています。
このような人材育成や店舗改善の戦略は、FC加盟店の募集やコンサルティングを通して紹介していますのでご相談ください。飲食業界の人手不足を一朝一夕で解決するのは難しいでしょう。それでも、飲食店で働きたいと思う若者を1人でも増やし、業界を盛り上げて明るい未来を作っていきたいと思います。
株式会社DREAM ON
本社所在地:愛知県一宮市八幡2-7-1 プレジデント八幡101
設立:2018年(創業1963年)
代表者:代表取締役社長 赤塚 元気
事業内容:飲食コンサルティング、飲食事業
企業サイト:https://dream-on-company.com/
フランチャイズに関するお問い合わせ:https://forms.gle/9B9MdLzNZvYeGmnB6