年間40万人の来訪客と漁業衰退の波、国境の島が直面した構造的課題
長崎県対馬市の最北端に位置する上対馬地区の比田勝港は、韓国釜山からわずか49.5kmの距離にあり、高速船で約1時間半という地理的優位性を有する。対馬の総人口約2万6000人に対し、年間最大約40万人におよぶインバウンドが訪れる国境の港町だ。一方で、離島特有の課題として水揚げ量の減少や漁家集落の高齢化が進み、高齢化率は41.6%に達している。多くの観光客が訪れながらも水産物の消費や体験の機会が乏しく、通過型観光にとどまり地域経済に還元されないギャップが生じていた。
八島「私は上対馬町漁業協同組合の組合長を務め、海業推進協議会の会長を兼任する八島と申します。対馬は豊かな漁場に恵まれていますが、後継者不足や燃料高騰、魚価低迷によって浜の活力が低下する懸念がありました。幸い上対馬は一定の水揚げを維持できていますが、この海を次世代へ継承するには従来の漁業だけに依存せず新たな挑戦が必要です。観光客は増えているのに地元の元気に繋がっていない歯がゆさがあり、漁業と観光を結ぶ仕組みを作らなければなりません」
こうした地域課題に対し、地元の漁業者や商工業者、UIターンで戻ってきた若い世代からインバウンドの賑わいを地域活性化に繋げたいという声が高まっていった。
小林「私は上対馬で飲食店や宿泊業、遊漁船などを営む久兵衛商店の小林と申します。この地域のポテンシャルを強く感じていましたが、年間数十万人の来訪客が目の前を通り過ぎるだけで地域の経済に循環せず、非常にもったいない状態でした。私だけでなく地元の漁業者さんや若い世代からこの賑わいを地域活性化に繋げたいという声が上がり、海を活用して街を良くしたい熱意が一つにまとまりました」
漁協と民間と行政の三位一体連携、海業推進モデル地区としての始動
こうした課題意識と地域の熱意が融合し、2023年3月に農林水産省から海業振興モデル地区への選定を果たした。協議会では“食べる・遊ぶ・交わる”の3項目を基本方針に掲げ、合計9つの事業コンテンツを整理している。推進にあたっては三者の役割分担を明確化し、漁協が水産資源の活用と海産物の魅力発信を担い、民間事業者が体験コンテンツの運営と雇用の創出を推進する体制の構築に至った。行政は施設の管理や予算の確保、全体の調整役を担うことで、従来の縦割り意識を打破する連携がスタートを切っている。
八島「当初、港は行政の施設であり漁港は漁業者のものという固定観念が強く、観光に活用する発想は広がりにくい状態でした。しかし海業という共通の理念が浸透したことで、漁業と観光は対立するものではなく相互に連携できるという意識改革が地域全体で進んでいます。ゼロから新しいものを作るのではなく、お互いの危機感を共有しながら本格的な三者連携へ踏み出せました」
| 構成主体 | 主な役割と目的 | 実施内容 |
|---|---|---|
| 漁協 | 水産資源の有効活用・魚食文化の発信 | 直営拠点での鮮魚供給・体験事業の協力 |
| 民間事業者 | 魅力的な体験コンテンツ運営・地元の雇用創出 | 屋台・遊漁船・マリンアクティビティの事業化 |
| 行政 | 施設提供・予算確保・関係機関との調整 | 遊休施設の貸与・モデル港指定に向けた調整 |
事業推進に向けた協議の場では多種多様な意見が出されたが、成功体験を早期に創出すべく優先順位の絞り込みが行われた。
小林「最初はあれもしたいこれもしたいという夢物語のような意見が多く出ましたが、協議を重ねることで優先順位をつけて整理していきました。まずは成功体験を作るため、釣り振興やマリンアクティビティ、海鮮屋台を核として引きつけ役を担わせる戦略を立てています。釣った魚を食べ、地域に泊まり、交流を楽しむ一連の体験を作ることで、地域全体に経済効果を波及させる狙いです」










