日本の水産資源買い負け・タンパク質危機を救う、未利用魚の紹介と活用事例

セミナー・イベントレポート2026.08.28

日本の水産資源買い負け・タンパク質危機を救う、未利用魚の紹介と活用事例

2026.08.28

日本の水産資源買い負け・タンパク質危機を救う、未利用魚の紹介と活用事例

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世界人口の増加に伴うプロテインクライシス(タンパク質不足)が懸念される中、日本では円安や国際的な購買力低下に伴う水産物の買い負けが現実のものとなっている。

この課題解決の一つとして挙げられるのが、市場であまり利用されてこなかった未利用魚・低利用魚だ。2026年8月に開催された第28回ジャパン・インターナショナル・シーフードショーの「未利用魚セミナー」では、現状の課題整理や未利用魚を活用しているメーカーや小売事業者の事例が紹介された。

目次

未利用魚の定義と世界的なタンパク質危機への対応

大日本水産会 魚食普及推進センター センター長 早武 忠利 氏

水産資源を無駄なく利用することは、世界の人口問題と購買力の現状から極めて重要な課題だ。2065年には世界の人口が100億人を超え、深刻な水やタンパク質の不足が予測されている。陸上の食料供給のみでこれを賄う場合、南米大陸に匹敵する広さの畑を開墾する必要があると試算されており、四方を海に囲まれた日本が魚食を通じて貢献できる余地は大きい。

しかし現在、日本は国際市場で水産物の深刻な買い負けに直面している。水産会社での調達実績があるイカゲソを例に挙げると、中国での取引価格はかつて1トン500ドルであったが、現在は5000ドルを超え、ドル建てで10倍に高騰した。為替レートも当時の1ドル70円台から160円近くまで円安が進んだため、円貨換算では23倍の価格となった。主要魚種の価格高騰が進む中、国内独自の強みを活かすため、これまで利用されてこなかった水産資源の有効活用が急務となっている。

日本の市場には年間600~700種類もの魚介類が並ぶが、消費者が認知し、自身で調理できる魚はそのうちの一部である。それ以外の、認知度が低い、あるいは流通や加工に手間がかかるため敬遠されてきた地魚が未利用魚・低利用魚に分類される。これらは効率性や採算性を重視した結果、流通から外れてしまった魚である。さらに、温暖化に伴う海水温の上昇により、サケやイカが北上して漁獲されなくなるなどの海洋環境の変化が生じており、多様な魚種の活用が解決策となる。

未利用とされる魚にはそれぞれ固有の課題があるが、調理や加工の工夫によって食用としての活用が進んでいる。代表的な魚種とその特徴、および食用のための工夫は以下の通りだ。

魚種敬遠される理由や課題食用に活用するための工夫と事例
ツバクロエイ毒針があるため敬遠される傾向にある。身は食用に適している。
サメアンモニア臭が懸念される。鮮度管理を行うことで臭みがなくなり、軟骨を活かした学校給食での導入実績もある。
トクビレ(ハッカク)独特な見た目から敬遠される。脂が乗り、甲殻類のような風味を持つ。
アイゴ背鰭などに毒棘があり、漁獲後に変色しやすく、海藻を好むため磯の香りが強い。毒棘を除去しヅケ丼やフライに調理する。三重県などで学校給食や自治体食堂への導入実績がある。
ギマ強固な棘が網の中で他の魚を傷つけるため、棘の処理に手間が必要となる。ヌメリと棘を処理することで、刺身や煮付けとして食べられる。
ハリセンボントゲと皮の処理が必要となる。沖縄ではトゲと皮を適切に処理した上でアバサー汁に用いられている。
ハクレン15キロに達する巨体で、土の香りが極めて強い。辛い味付けで土の香りをマスキングするなどの加工技術が求められる。
小型サバサイズが不揃いで通常の流通に乗りにくい。ミンチ状に加工することで、学校給食に横浜市内で200万食が納入された実績がある。

【未利用魚の活用の推進と工夫】

  • SDGsへの貢献
    未利用魚の活用は、SDGsにおける「海の豊かさを守ろう」や、無駄な陸地開墾を防ぐ「陸の豊かさも守ろう」、地域活性化を通じた「住み続けられるまちづくりを」の達成に直結する。
  • 資源保護と部位活用(アラの利用)
    資源量が不明な状態での乱獲は枯渇のリスクを伴うため、食害等の原因となるアイゴのように対象を絞ることや、漁獲量を増やさずにタンパク質供給量を増やす手段として未利用部位(アラ)を活用することが重要である。例えば、アジを刺身にする場合の可食部は50グラム程度であるが、アラまで活用することでタンパク質の供給量は約1.5倍に拡大する。
  • 学校給食への導入実績
    埼玉県などの小学校において、ボラやアカマンボウといった魚の導入事例が広がっている。
  • 加工品による調理負担の軽減
    現場での調理負担を軽減するため、骨まで食べられる缶詰やレトルトなどの製品化も極めて有効な手段となる。

クロダイの食害と活用、および水産庁による魅了ギョ・プロジェクトの取り組み

水産庁 漁政部加工流通課 課長補佐 吉川 千景 氏

地球温暖化による水温上昇により魚種の北上が進み、漁獲される産地や時期に変化が生じている。また、磯焼けの拡大によって小魚を育む藻場などの環境が悪化する中、低・未利用魚の有効活用が重要だ。

その一つがクロダイ(チヌ)である。近年、ノリやカキへの食害が問題視され、駆除の対象とされることもあるが、実際は食用に適した魚である。春先は脂の乗りが少ないが、カルパッチョなど油を足す料理や、フライにすることで美味しく食べられる。クロダイの食用利用は、以下のように関係者すべてに利益をもたらす四方よしの仕組みを構築できる。

  • 漁業者
    新たな漁獲対象としての収入向上
  • 流通・小売
    新規商材による収益の確保
  • 消費者
    食卓における選択肢の拡大
  • 環境
    食害の軽減による藻場や養殖環境の保護

2025年6月には「クロダイのおいしさ認知向上プロジェクト」が開始され、賛同機関とともにPRや商品化が進められた。新宿高島屋などでのなめろう丼の販売実績もある。一方で、春先のクロダイは美味しくないという先入観の払拭が課題であり、生産・流通・小売を繋ぐ持続的な仕組みの構築が必要だ。

また、水産庁は「さかなの日」の取り組みとして「魅了ギョ・プロジェクト」を開始した。これは、厄介者や食害魚とされるなど認知が不十分な魚の魅力を発信する取り組みである。供給量や、家庭や外食店舗における調理法・加工商品の提案を基準に選定を行っている。

【魅了ギョ・プロジェクト第1弾選定 4魚種】

1.アイゴ
食害を及ぼすが、適切な処理と調理法次第で幅広く活用可能

2.ボラ
認知度の低さから敬遠されるものの、本来は食用に適する

3.アカエイ
伝統的な食材としての高いポテンシャルを持つ

4.シイラ
供給量が豊富で、多様な料理メニューに活用可能

現在、約1100の賛同メンバーと連携し、商品開発やマッチングを通じて、消費者が知る、食べる、選ぶ機会を作る方針を打ち出している。

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