かつての現場を覆っていた「なんで私が?」という壁
「新しい衛生ルールを徹底する」。
そう決まった時、現場ではどのような摩擦が起きるのか。店長は、取り組み前のリアルな空気をこう明かす。
「以前は、例えばトイレ掃除を頼んでも「また私?」と嫌な顔をされたり、反発されるのが日常茶飯事でした。結局、頼みやすい真面目なスタッフに業務が偏る。私自身も、指示のたびに強いストレスを抱えていました」
「スタッフに嫌われたくない」「辞められたら困る」。店長が抱える孤独な葛藤により、口頭での注意は「個人的な小言」と受け取られがちになる。この属人化したマネジメントの限界を打破したのが、V-Manageという客観的な「仕組み」だった。
「『私がやれと言っている』のではなく、『V-Manageで決められている会社の仕事だから、自分の名前で完了させてね』と伝えました。V-Manageを使って、指示の主語を「店長個人」から「会社」へと変えたことで、スタッフも『自分の評価につながる業務』として前向きに捉えてくれるようになったのです」
「サボりたい」のではない。彼らは「正解」を知らないだけだった
岩本町店は、スタッフの約8~9割を外国籍人材が占める。ここで店長は、マネジメントにおける重要な視点の転換を経験する。
「彼らは決してサボりたいわけではなく、『何をどこまでやれば正解なのか』を知らないだけでした」
例えば「炊飯器を綺麗にして」という口頭指示。日本人なら阿吽の呼吸で内外を磨き上げるかもしれないが、外国人スタッフには着地点が分からない。曖昧な日本語は「認識のズレ」を生む原因にしかなっていなかった。
これを一発で解決したのが、V-Manageに表示される「正解の写真(お手本)」だ。
同店で働くミャンマー出身のスタッフは、当時をこう振り返る。「マニュアルの文字を読むのは難しいですが、タブレットに『正解の写真』が出ているので目で見てすぐ理解できました。言葉が分からなくても、写真と同じ状態にすればいいので迷いません」

お手本写真が表示されているタスク画面
言葉の壁を越える、写真という共通言語。ゴールが視覚化されたことで、スタッフの実行力は飛躍的に向上した。「やり方が分かれば、みんな驚くほど率先して動きます。空き時間になると、かつて手持ち無沙汰だったスタッフが自らV-Manageを確認し、清掃をこなす姿には感動しましたね。結果として店内が清潔に保たれるようになり、以前あった『お店が汚い』といった口コミでの指摘もなくなりました」(店長)
なぜ、他のツールではダメなのか?『V-Manage』が選ばれる理由
チャットツールやToDoアプリを導入する企業は増えているが、なぜ大阪王将ではこれほど劇的な効果が出たのか。そこには『V-Manage』独自の強みがある。
第一に、「過去写真の使い回しが不可」という厳格な仕様だ。
忙しさを理由にした“やったフリ”による形骸化を防ぎ、その場で撮影した“リアル”しか報告できない。だからこそ現場は確実に手を動かし、本質的な衛生レベルが磨かれる。
第二に、「事実に基づいた的確なフィードバックと臨店指導」だ。
写真報告を通して現場の誤りや勘違いを正確に把握できるため、システム上のコメント機能や臨店時に「どの部分が、なぜ不備なのか」を理由と目的を添えて具体的に伝えられる。日々のデータがあるからこそ、遠隔でも的確な目線合わせができ、店舗でできないことや間違った業務が一つひとつ着実に減っていくのだ。

スタッフごとに写真付きで報告可能な完了タスク画面
この履歴はデータとして残り、SVが臨店した際も「本部と店長が今追っている基準」を遠隔で瞬時に共有できる。
第三に、「店長の指示出しストレスの激減」である。
「『あれやって』と1から10まで言う必要がなくなり、休憩前に『V-Manageの残りをよろしく』と言うだけで業務が回る。自分の時間が作れるようになり、精神的負担が驚くほど軽くなりました」(店長)
減点から「加点」へ。データが証明した組織の変革
取り組みの成果は、確かな「データ」となって組織の空気を変えた。
本部の集計によると、導入当初60%程度だった清掃実施率は、強化月間中に80%~90%へ急上昇。また、提出された写真に対し、本部が「基準を満たしている」と判断した「承認率」も、60%から90%へ引き上がった。「とりあえず撮る」段階を脱し、「本当に綺麗な状態を作って報告する」習慣が身についた証拠だ。
数値以上に大きかったのは、コミュニケーションが「減点方式」から「加点方式」へシフトしたことだ。
「以前の臨店指導は、汚い部分を見つけて『なんでやってないの?』と指摘する減点方式になりがちでした。しかし日々の頑張りが可視化されたことで、本部や店長からの『いつも綺麗にしてくれてありがとう』『完璧だね!』というプラスの声かけが圧倒的に増えました」(本部担当者)

“正当な評価(表彰)”へとつながり、
笑顔を見せる外国人スタッフ
現場にとっても「見張られている緊張感」から、「頑張りを認めてもらえる安心感」に変わった。この承認欲求の充足が強いモチベーションを生み、今ではスタッフ同士で「これが正解の写真だよ」と教え合う自走する組織が生まれている。
言葉の壁を越えた清掃報告が「正当な評価」につながり、誇らしげな笑顔を見せる外国人スタッフの姿。実際に今回の取り組みでは、評価ランキングの上位を外国籍スタッフが独占するほどの熱量が生まれた。 データによる可視化が、国籍を問わない能動的なチームを作ったのだ。
一過性で終わらせない、企業文化への昇華
「今では私がお店を離れても、この綺麗な基準を維持できる自信があります」
と店長は胸を張る。実際に、店舗のクチコミからはかつてあった「お店が汚い」という低評価が消え、劇的な改善効果を見せている。
大阪王将にとって、今回の取り組みはゴールではない。「一過性のイベントで終わらせず、確固たる企業文化として根付かせることが次のステップです。衛生管理を『ニュースタンダード』として業界の先陣を切って引き上げ、お客様への信頼を守り抜きます」(本部担当者)
客観的なモノサシを導入し、孤独な店長を救い、多国籍な現場をひとつの強いチームへと変革した大阪王将。仕組みが人を変え、承認が組織を育てるという挑戦は、外食産業の未来を照らす新たな指針となる。











