創業家のトップダウン経営から組織型経営へ転換
【Q】2025年6月に社長就任されました。経緯を教えてください。

代表取締役社長 中川 晃成 氏(以下同):私は生まれも育ちも名古屋で、飲食業界に長く携わっていたこともあり、木曽路の吉江源之会長とは20年ほど前から情報交換するお付き合いがありました。2019年に当時の社長が交代した際にもお声をいただきましたが、その時の私は木曽路と似た和食チェーンを経営していたことから、一度お断りしています。その後、名古屋に本社を構える居酒屋チェーン企業に転身し、6年ほど社長を務めました。これにより吉江会長との距離がさらに近くなり、競合の懸念もなくなって、今回の要請に至った次第です。

木曽路は創業からこれまで創業家が経営してきましたが、後継者の不在と時代の変化に合わせた店舗運営の必要性から、トップダウン型から組織型の会社へ変わらなければならない状況にありました。そこで、内部の生え抜きでない私に次世代を担うチーム体制にしてほしいと要請いただき、社長職をお引き受けしました。
【Q】中川社長の飲食店経営のルーツを教えてください。
私の最初の就職先は大阪のガス会社です。20代後半に新しいことにチャレンジしたいと思って、グループ会社に出向し飲食事業を立ち上げました。企業内起業なので、オーナー型でなく組織型の経営視点が原点です。外食のノウハウはまったくなかったため、ロイヤルホストのフランチャイズ運営から始めて、近畿で80店舗ほど展開しました。
当時はロイヤルの他にも多くの飲食企業の門を叩いて勉強させていただきました。そこで出会ったオーナー社長の方々は本当に強烈でしたね。サラリーマン出身の自分たちが真っ向から勝負しても勝てないと痛感したものです。そのため最初から組織型で運営していく飲食企業を目指していきました。

非効率の維持と木曽路一本からの脱却
【Q】木曽路の魅力と課題は何でしょうか?
一番の魅力は、調理や接客に多大な手間をかける独自のスタイルを、現場のスタッフが60年間守り続けてきたことです。1店舗あたりの社員数が多く、お客様の前でお肉をしゃぶしゃぶするような手厚いサービスは、現代の効率重視・多店舗経営の時代では真っ先に廃止されてしまう非効率な部分です。同様の仕組みをゼロから作ろうと考える経営者もまずおられません。
しかし、このやり方を愚直に継続してきたスタッフの強い思いこそが、木曽路の本質です。チェーン店でありながら個店経営の裁量を持たせるプレミアムチェーン体制が、競合を寄せ付けない強みを生み出しました。
一方で課題はその裏返しであり、一つの形を守り続けているために時代に合わせた変化や新しい制度を取り入れることは得意ではありません。数年前に焼肉業態の大将軍をグループに迎えましたが、その他の新業態の芽がなかなか出ず、現在の売上高は木曽路に依存する状態です。伝統を未来へ繋ぐには、木曽路はもちろん、それ以外の事業が必要であり、その方向性を作ることが私のミッションだと考えています。
【Q】新規事業の展望を教えてください。
焼肉業態の他に、お寿司や天ぷらの専門業態を自社で開発する余地は十分にあります。私は、和のロイヤルを目指すという目標を社内で掲げています。ロイヤルグループは本格フランス料理店から発展し、ロイヤルホストをベースにしながらも、ホテルや空港レストラン、サービスエリア運営、物販など縦横に事業を展開しています。当社も和食分野で同様に展開し、成長するチャンスはあります。
たとえば宿泊業界では、自社で施設を建てずとも、料理や接客サービスの運営に関わる形での進出も考えられるでしょう。物販領域では、コロナ禍の当時、お弁当だけで年間60億円を売り上げた実績があります。お客様から木曽路への厚い信頼をベースに、自店舗以外の量販店販売や通信販売の可能性もあります。
地道な顧客管理と個店経営の仕組み
【Q】どのようにしてお客様からの信頼を得ていったのでしょう?

木曽路 瓦町店
木曽路は2026年に創業60周年を迎え、126店舗を展開しています。この歴史の中で、現場の従業員が脈々と磨き続けてきた結果です。肉の仕入れに関しても、A4・A5等級の和牛の中からさらにサシの量や入り方、スジの処理、脂の厚み、肥育期間などを厳選した独自の基準“木曽路スペック”を規定し、この基準を満たしたもののみ仕入れる体制を徹底しています。
また、約60万人の会員様との関係維持があります。各店の店長や接客長がお客様のお誕生日や結婚記念日などに合わせてDM送付や電話連絡を行う地道なルーティンワークを徹底しています。外商活動がしっかりと刻み込まれ、継続していることが信頼の土台となっています。
【Q】従業員教育はどう行っていますか?
店舗の組織は、トータルマネジメントを行う店長、料理長、接客長のトライアングルで構成される仕組みです。さらに、エリアを統括するマネージャー、総料理長、大接客長を配置して、毎月の会議とは別に調理実習や接客の勉強会、お喜びやお叱りの事例に基づいたケーススタディを何十年も愚直に繰り返してきました。
また、社内用のSNSアプリを導入しており、アルバイトも含めた全従業員がスマホから情報を共有しています。教育コンテンツや業務連絡だけでなく、それぞれの分野の人が日々新しい情報を発信する環境を整えています。
特に人気を集めているのが「感動エピソード」というコーナーです。各店での感動的な場面を投稿していくもので、お客様にお喜びいただいたことや、ご家族様の法要利用の背景などが共有されます。私も読んでいるとうるっとしてしまいます。これらを全従業員が日々目にすることで、サービスへの意識を高めると同時に、マインドの醸成につながっています。
【Q】社内資格制度“お祝いマイスター制度”もありますね。
生後100日を祝うお食い初めや、一升餅、七五三といった伝統儀礼をサポートするため、数年前に“お祝いマイスター制度”を立ち上げました。社員だけでなくアルバイトも儀式の手順を学び、一定のレベルに達したスタッフに資格を付与する社内制度です。少子化が進む世の中ですが、お子様にかける想いに応える施策としてお祝い需要の増加に繋がっています。










