カスハラ対策、2026年10月から企業に義務化。飲食店事業者がすべき事前準備と事後対応

法令対策2025.08.15更新:2026.07.24

カスハラ対策、2026年10月から企業に義務化。飲食店事業者がすべき事前準備と事後対応

2025.08.15更新:2026.07.24

カスハラ対策、2026年10月から企業に義務化。飲食店事業者がすべき事前準備と事後対応

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2026年10月から、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)対策がすべての事業者に義務づけられる。特に顧客との距離が近い飲食店や宿泊業などのサービス業はカスハラ発生のリスクが高く、明確な対策が求められる。

改めて、事業者が知るべきカスハラ対策の義務化が決定した背景や法改正のポイント、対策について解説する。

目次

義務化の背景

カスハラ対策が企業に義務づけられた背景には、現場での被害拡大と、それに伴う従業員の健康被害・離職リスクの高まりがある。厚生労働省の実態調査によると、過去3年間にカスハラを受けた割合は全業種で10.8%(パワハラに次いで2番目)に上り、特に「宿泊業・飲食サービス業」では16.0%と非常に高い割合となっている。一方で、飲食業において対策を「行っていない」事業者が42.6%に上るなど、取り組みの遅れも課題である。

厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」(2024年5月公表)
厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」(2024年5月公表)

特に接客業では“お客様は神様”とする価値観や、SNSの普及などもカスハラの増加に拍車をかけている要因だ。さらに、企業には労働者の安全に配慮する「安全配慮義務」があり、カスハラを放置して従業員が心身を病めば、企業が損害賠償責任を問われる可能性もあるため、対策は急務である。そこで2025年6月、労働施策総合推進法が改正され、すべての企業に組織的なカスハラ対策の実施が義務づけられることとなった。

カスハラとは何か?定義と判断基準

カスタマーハラスメントの定義

カスタマーハラスメント、いわゆる“カスハラ”は、理不尽な要求や暴言、暴力などをイメージするが、その行為の内容や程度がさまざまである。

厚生労働省の指針では、カスハラを以下の ①から③の要素をすべて満たすもの と定義している。

① 顧客等(取引先なども含む)の言動であって、
② その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるもの

ポイントは社会通念上不相当であること、労働者の就労環境が害されることの2点だ。東京都のカスハラ防止条例でも、カスハラを「顧客等による著しい迷惑行為が就業者の人格又は尊厳を侵害する等就業環境を害し、事業者の事業の継続に影響を及ぼすもの」と定義している。

カスハラの判断基準

カスハラは、社会的に見て伝え方や内容が受け入れがたいと判断される場合に該当するとされる。

【カスハラの判断基準となる2つのポイント】

① 言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの(要求に理由がない、対応不可能な要求など)
② 手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの(暴行や脅迫、長時間・繰り返しの要求など)
※「言動の内容」と「手段や態様」の一方のみが社会通念上許容される範囲を超える場合でもカスハラに該当し得る。

【飲食店におけるカスハラの代表的な7つの類型】

・暴力(身体的な攻撃)
・侮蔑・暴言(失礼な言い方や人格否定)
・恐怖・威圧(SNS投稿のほのめかしや土下座の強要など)
・無関係・不当要求(業務と無関係な要求や過剰な要求)
・長時間化(適切な対応をしても長時間続く)
・繰り返し(お断りしても同じ内容を繰り返す)
・コミュニケーション不成立(話を全く聞かない、非協力)

このような言動が繰り返されれば、従業員の心身に深刻な影響を及ぼす可能性もある。事業者はこれらの基準をもとに、店舗での具体的な対応方針を明確にしておくことが求められている。

飲食店経営者が知るべき法改正のポイント

施行日

改正法は 2025 年 6 月に成立し、2026年10月1日からの施行が決定している。

事業主が講ずべき具体的な措置とは

カスタマーハラスメント対策として事業主が講じるべき具体的な措置は、厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)において明確に示されている。事業主は、以下の措置を必ず講じなければならない。

・事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
・相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
・併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)
・対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置

特に、悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処方針をあらかじめ定めること、労働者に周知すること、対処できる体制整備を行うことが求められている。

罰則

今回の義務化に関連して、企業が対応を怠った場合でも、直ちに刑罰上の罰則や罰金が科されるわけではない。しかし、労働施策総合推進法に基づき、厚生労働大臣による助言や指導、勧告が行われる場合がある。企業がこの勧告に従わなかった場合には、その旨が公表されることが法律で明確に定められている。いわゆる「公表措置」と呼ばれるものであり、社会的信用に影響を及ぼすリスクがある。

また、従業員への言動が暴行や脅迫といった刑法に触れる内容であれば、個別に刑事責任が問われる場合もあるため、十分な注意が必要だ。

今すぐできる!飲食店におけるカスハラ対策

従業員の心身の安全を確保し、持続的に安定した事業運営を行うためには、組織として計画的な対策が求められる。厚生労働省の資料に基づき、企業が取り組むべき対策を紹介する。

事前準備

カスハラへの対応は、発生後の処理だけでなくあらかじめ備えておくことで、問題が起きた際の混乱を最小限に抑えられる。事前準備について解説する。

項目目的主な取り組み内容
基本方針の明確化と従業員への周知・啓発企業の姿勢を明確にし、従業員が安心して働ける環境を整える・経営トップのメッセージ発信
・カスハラの定義や毅然とした対応姿勢の明文化と共有
相談体制の整備と周知従業員が安心して相談できる体制を整える・相談窓口の設置
・相談対応者の育成
・相談内容の範囲明確化
・社内連携体制の整備
・緊急連絡用の専用ルートの設置
・電話応対内容の録音体制の整備
対応手順の策定従業員が落ち着いて対応できるよう備える・想定事例ごとの対応例作成
・複数対応の徹底
・報告・連携のルート整理
社内教育・研修の実施従業員が適切に対応できるよう習熟を図る・全従業員対象の研修実施
・実例を活用した学習
・役職別の内容で実践的に強化
プライバシー保護と不利益取扱いの禁止従業員が不利益を恐れず安心して相談できる環境を作る相談者等のプライバシー保護措置の周知、相談を理由とした不利益取扱いの禁止の規定化と周知
特に悪質なカスハラへの対応(抑止のための措置)悪質なカスハラから従業員を保護し、被害を最小限に抑える過度な要求を繰り返すなどの悪質な行為に対する対処方針の事前の策定・周知、いざという時に警察等と連携・通報できる体制の整備

[参照]厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(PDF)

また、上記以外にも、店内には「ハラスメント行為は受け入れない」という方針を掲示することも効果がある。さらに、会社としての対応の考え方をホームページや求人情報などに明示することで、来店客や応募者に対するメッセージにもなるだろう。

【クレームをカスハラに発展させないための初期対応】

飲食店の現場では、お店のミスに端を発したクレームがカスハラに発展してしまうケースもある。まずは適切な初期対応を徹底することが重要である。ガイドラインでは「クレーム対応のポイント8か条」として以下を推奨している。

1. 待たせないでスピーディに対応!
2. お客様を落ち着かせ、自分も落ち着いて対応!
3. まずは口を挟まず、“言い分”をよく聴く!
4. 正しい態度・言葉遣いで、これ以上気分を害さない!
5. うなずきや復唱を交え、話を聴いていることを表現する!
6. お店の考えを一方的な押し付けと取られない言い方をする!
7. お詫びするべきことについては、それに限って謝罪する!
8. ごね得のようなことを認めないようにする!

カスハラが実際に起きた場合の対応

いざカスハラが発生した場合には、的確かつ冷静な対応が求められる。実際の場面で取るべき行動を説明する。

項目目的主な取り組み内容
事実関係の正確な確認 状況を正しく把握し、適切に対応する・初期対応での冷静なヒアリング
・証拠の収集
・管理者との連携
・顧客への対応措置
発生事案への対応(行為者に対する措置)悪質な行為に毅然と対処し、被害の拡大を防ぐ・カスハラ行為者への説明や退店の要求
・従業員に代わって管理監督者等が対応する
・暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る場合は、警察へ相談・通報する
・必要に応じて法務部門等と連携し、弁護士へ相談する
被害者に対する配慮の措置(従業員への配慮)従業員の安全と心身の健康を守る・労災適用やカウンセリング等、メンタルヘルス不調への相談対応
・被害者行為者の隔離
・カスハラには該当しないが相応の被害にあった従業員のフォロー
再発防止の取り組み同様の被害を未然に防ぐ・判断基準や対応方法の見直し
・研修や事例共有等の再発防止への取り組み
・現場の声を吸い上げ、職場環境や組織風土の改善を図る

[参照]厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(PDF)

また、現場でお客様の言動をカスハラと判断した際には、一人で対応せず組織で連携し、以下の3つのポイントに沿って毅然と対応することが求められる。

・明言する
対応できない場合はその旨をハッキリと伝え、お店に非がない場合は不必要に謝らない。

・お引き取りいただく
繰り返しの要求や質問が続く場合は、退店を求める、電話を切るなど対応を打ち切る。

・繰り返させない
執拗な問合せや不合理な要求が繰り返される場合は、3回目を目安に対応できない旨を伝える。

特に、従業員が安心して働ける職場環境を整えるためには、方針の明確化と日頃からの教育・体制作りが不可欠である。発生時には、迅速かつ冷静な対応に加え、被害者の心身への配慮と再発防止の姿勢が、組織全体の信頼性を高める要素となるだろう。

カスハラ対策は投資

理不尽なクレーム、暴言、威圧的な態度といった行為にさらされる従業員を保護することは、経営者の責務であり、企業の持続的成長にも直結する経営課題だ。職場環境の整備は経営課題であり、離職防止やサービス品質の向上といった経営的メリットをもたらす。

一方で、対策を怠れば人材流出や企業イメージの悪化など、重大なリスクを招くおそれもある。飲食店のカスハラ対策ガイドラインでも、①カスハラは個人の問題ではなく「組織で対応する」、②悪質・不当な要求には「毅然と対応する」、③安全を第一に「従業員をフォローする」の3つの基本姿勢が強調されている。単なる法対応ではなく、将来の安定経営を支える投資として捉え、実効性のあるカスハラ対策を講じることが重要だ。

[参考]
厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために
農林水産省「飲食店におけるカスタマーハラスメント対策

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