伝統的な魚食におけるエイ類の歴史と食用の可能性
藤原 昌高 氏(ぼうずコンニャク)
日本の魚食文化の歴史を踏まえると、エイ類をはじめとする未利用魚の活用には大きな可能性がある。水産生物の分析結果として、3800種類以上の水産生物のうち200種類が未利用魚として分類されている。
1950年代の高度経済成長期以降における食生活の簡便化に伴い、伝統的な魚食文化が衰退した背景がある。江戸時代の飢饉が多かった時期、アカエイは貴重な夏のタンパク質供給源であった。西宮の廣田神社においてアカエイが神の使いとされる歴史も、その地域貢献に由来する。江戸時代にはエイの「切絵売り」(身を切り分けて販売する手法)が人気であり、1950年代まで魚市場で多く流通していた。
北日本におけるカスベ(ドブカスベ、マカスベなど)の食文化も存在する。水分が多いドブカスベも、あらかじめ市場で皮を剥ぎ、ヒレ肉の形に加工することで、簡便に調理できる食材として流通している。
アカエイ、ホシエイなどのエイ類は、現代においても活用可能な以下の強みを持つ。
- 優れた食味
肝の刺身は濃厚な味わいがあり、身は煮付けや煮こごりとして調理される。特にホシエイの頭部は、お湯をかけて皮を剥ぎ、唐揚げに調理することで、香ばしさと軟骨の食感が得られる。 - 高い保存性
お湯をかけて皮を剥いで小分けにして冷凍すれば、家庭用冷凍庫で1年間保存しても劣化が少なく、安定した在庫として扱える。
また、魚に対する先入観を持たない若い世代の購買行動は、新たな市場を開拓する力となる。一部地域ではエイは価値がないという固定観念から廃棄される一方、小田原では活魚として流通し、実際に販売されている事例がある。メディア情報のみに頼るのではなく、小売店や飲食店が店頭で食べ方などを直接提案することが重要だ。
水産流通の産地・加工・小売段階における広報、商品開発、対面販売
産地、加工、小売のそれぞれの現場において、低・未利用魚の学校給食への導入やスナック菓子開発、対面販売が活発に行われている。
産地~岡山県のクロダイ活用
かつて郷土料理「チヌ飯」などで親しまれ、2021年度の「おかやま旬の魚総選挙」で秋の1位に選ばれたこともあるクロダイは、マダイの流通などの影響により市場単価が一時1キロ100円以下に下落し、漁業者が漁獲しても放流する状況が生じていた。これに対し、価格低迷からの脱却を目指す取り組みが進められた。岡山県が「食べないのは人生もったいない」という広報活動を展開し、実施した取り組みは以下の通りである。
- レシピカードの配布
家庭での調理を容易にするための情報提供 - 商品の開発
なめろう丼などの加工品開発と販売 - 販路の開拓
学校給食への導入、新宿高島屋や省庁の食堂での販売
これらを4年間継続した結果、市場価格と県内漁獲量の上昇が見られ、漁業者の手取り向上に寄与した。
加工~おやつカンパニーの取り組み
製造過程におけるもったいない精神を背景に、魚肉を練り込んだ「素材市場」シリーズの一環として、気仙沼産のモウカザメを使用したスナック菓子が開発された。サメ肉はアンモニア臭の先入観があり喫食経験が17%と低いが、実際は臭みが少ない。この認知の差をお菓子を通じて解消するとともに、以下の地域連携が行われている。
- イメージの払拭
手軽なスナック形態による喫食のハードル低下 - 地域への貢献
水産業への理解を深める小学校での出前授業の実施
小売~角上魚類の対面販売
新潟では主力であったスルメイカやサケが減少し、サワラやマグロが急増するなど海洋環境が変化している。この変化に対応するため、馴染みの薄い魚であっても対面販売により調理法を提案して販売を行っている。独自の対面販売体制とこだわりは以下の通りである。
- 親切係の配置
豊富な知識を持つスタッフが、調理や食べ方の提案を店頭で直接行う。 - 生きた知識の習得
スタッフ自らが魚を捌いて食べることで提案力を養う。
漁業者が存在しなければ食文化の継承はできないため、生産現場と連携して魚食文化を維持することが重要だ。










