人材不足やコロナ禍を受け、DX推進を迫られる飲食業界
【Q】飲食店のIT活用について、ダイナック様はどのようにお考えでしょうか。
コロナ禍が2年あまり続いて、特に居酒屋業界はたいへんな局面を迎えています。当社もお酒を扱っている業態を持つので、この2年間は常にダメージを受け続けている状況です。情勢が上向きになり業績が少し回復してきたと思ったら、また振り出しに戻ってしまうことを繰り返してきました。
そのため、今後はIT化を通じて従業員一人ひとりの生産性を向上させ、コロナ禍がきっかけで離れていったお客様を呼び戻すために、各々が動ける時間を作ることが重要になってくると感じています。
私はもともとバーなど店舗の現場に出ていたこともあり、当初、店でITツールを導入することに少し違和感があったのが本音でした。しかし、外食産業全体の人手不足に対応するためにも、現在は肯定的に進めています。(営業推進本部 販売促進部 部長 東 隆二 氏 以下、東氏)
【Q】IT活用で生産性が高まった業務はありますか?
マーケティングツールのC-moを導入したことで、各店舗5つ以上もあるウェブサイトの更新作業を一括でできるようになり、すごく楽になったと感じています。
ITツールを使う前は、基本的に各店の店長が各ウェブサイトの更新作業を担当していました。季節メニューなどがあるとその都度更新に時間がかかってしまい、従業員教育やお客様対応の時間が十分に取れない状況が続いていたのです。そのため、このような作業を減らして、店長が本来すべき業務に時間を使おうと考えたのがITツール導入のきっかけです。
現在は本部の販売促進の専門部署が、140店舗ごとに複数あるウェブサイトを一括更新しています。更新メンバーは4~6人ほどで、従来に比べて大幅な効率化を達成できました。ITツールで7割程度の工数を削減できています。季節によっては更新に対応する人員が2~3人で済むこともあるので、手が空いているメンバーはInstagramの更新などにも対応できるようになりました。(東氏)
従業員の生産性向上策は、ITツールを利用する
【Q】そのほかに店舗で活用しているITツールはありますか?
30店舗ほどで、お客様ご自身のスマホで注文できるモバイルオーダーを採用しているほか、卓上にタッチパネルを設置しています。また、AIによる電話の予約対応を近い将来全店で導入する予定です。現在は予約全体の4割程度が電話によるもので、店長が応対しています。電話に時間を取られない体勢を整えていきたいと考えています。
基本的にどのITツールも、店長の負担を削減して、本来の業務に戻すことを目的に活用しています。事務作業の負担を軽減して、お客様や従業員に接する時間を増やしていくべきです。まだ道半ばではありますが、多少なりとも現場はITツールの効果を感じています。
業界全体で人員不足が深刻化しているという課題があるので、人手不足のために一人あたりの負担をできるだけ減らしていきたい考えです。(東氏)
LINE友だちを活用し、小回りのきく情報発信とコストダウンを実現
【Q】ポイントシステムではLINEのミニアプリも導入されています。
当社では20年ほど前から『倶楽部ダイナック』というポイントサービスを実施しています。お客様が店舗をご利用された際、金額に応じたポイントを会員カードに貯める仕組みです。カードとは別に、コロナ禍の2020年夏、LINEでダイナックの公式アカウントを開設し、当社の加盟店で利用できるポイントサービスを開始しました。
それまでは会員登録していただいたお客様にメールマガジンやダイレクトメールの郵送で各店のイベント情報をお届けしていたのですが、郵送料などのコストが高いことや柔軟なご案内ができないなどのデメリットもありました。そこで、SNSの中で最も普及しているLINEで、ポイントサービスを導入したのです。
従来の入会手続きではお客様が申込用紙に手書きで記載いただいていたため、入会のハードルが高かったと思います。これがLINEで公式アカウントと友達になるだけで済むようになり、かなり簡単になったと感じています。コロナ禍で会員数は減少してしまったので、今後また伸ばしていかねばならないという課題があります。そのためには、入会のストレスをできるだけ減らす工夫が必要です。
また、LINEで店舗別にこまめに情報を発信しやすく、はがきと比べるとコストは100分の1くらいです。一方で反応率ははがきより下がっており、母数を増やすだけでなくセグメント機能を使ってヒット率を高めていかないといけないという問題もあります。
最近は、自分が欲しい情報しか受け取りたくないと考えるお客様が多くなってきているので、できるだけお客様との親和性が高い情報だけを発信することが重要になってきますね。(東氏)
外食産業は他業種に比べると、DX推進が遅れていると感じる
私は前職がスーパーなどの小売業でしたが、小売業と比べると、外食産業のIT化は比較的進みが遅いと感じています。加えて、外食産業ならではの問題もあります。
例えば小売業は商品一つひとつにJANコードがあり、POSレジを通じて単品分析が容易ですが、外食産業ではJANコードに相当するものが存在しません。そのため仕入れが担当者の経験則で主観的になってしまい、決算で結果を得られればOKというアバウトな管理が主流であったように思います。
このような状況も考えると、近年になってDXやIT化という言葉が取り上げられるようになっただけでも、業界としては大きな進歩だと思っています。
当社は、今では仕入れ管理にインフォマートの受発注システムを使用していますが、以前は社内でプログラムを作り、購買システムとして使用していました。当社が一方的にマスタ登録を行い、受注・決済して終わりというごく単純なシステムでした。本部で主要な取引先を決めてマスタ管理を行い、店舗側でその都度必要なものを発注するという流れになります。この管理が大変だったのです。
特に課題だったのが、レシピのアレルギー情報をどのように担保するかということです。社内で作成した購買システムは、受発注と決済の2つの機能のみで、商品規格書※の情報を記録する方法がありません。このため、商品規格書※を紙ではなくオンラインでデータベース化する必要性に迫られていました。
※商品規格書:食品のアレルギーや原料原産地などを記録した仕様書
そこで、品質管理部と一緒に情報交換しながら、総合的にデータ管理ができるインフォマートの規格書システムが便利そうだということで選定しました。現在は1,000件超の取引先と12万件超の商品マスタを登録しています。サポートが充実している点には助けられていますね。(購買調達本部 担当部長 林 篤 氏 以下、林氏)
システムを刷新して、サポート対応の充実や原価管理の効率化も実現
【Q】仕入れ品の原価は、どのように管理されていますか?
インフォマートの受発注システムから仕入れ実績がCSVなどで出力されるので、これを加工して原価を管理しています。クロス分析などにも使っています。最近はゴールデンウイークやお盆に加えシルバーウイークなど、1年のなかで連休が増えているので、連休部分を抜き出して分析しています。仕入れはもとより、センター在庫の最適化など物流に活用することもあります。(林氏)
また、メニューごとに原価や必要な食材、量、調理手順などを記録できる『メニュー管理機能』も利用して、現在13,000品ほどレシピを登録しています。これまではエクセルの統一されていないフォーマットでレシピを管理していたため、情報共有の仕方も煩雑でしたが、ITツールを活用するようになってからは効率化が進んでいると思います。(林氏)
将来的に目指すのは、お客様とのOne to Oneのコミュニケーション
【Q】ダイナック様がDXで目指すゴールをお聞かせください。
現在はDXを通じて従業員の仕事の効率化、新規顧客を獲得するための販促活動を主軸に進めている状況です。今後は、例えばモバイルオーダーやSNSを使ってどのようにお客様と繋がるか、関係を築いていくかなど、ユーザーコミュニケーションに力を入れていくことが重要だと感じています。
これほどたくさんの顧客情報がありながら十分に活用できていないのが現状なので、積極的にデータ活用していくことが今後の目標です。究極のOne to Oneは、一人ひとりのオーダー情報を細かく分析して、完璧にパーソナライズしたコミュニケーションをはかっていきたいと考えています。(東氏)
株式会社ダイナック
本社:東京都港区台場2ー3ー3 サントリーワールドヘッドクォーターズ内
事業内容:多業態飲食店の経営
公式ホームページ:http://www.dynac-japan.com/