一度は断念した、改正電子帳簿保存法への対応
【Q】御社の事業内容と、木下様の略歴について教えてください。
ファイブグループは今年で設立19年目になり、関東を中心に国内外26業態、125店舗を運営しています。近年は子ども食堂の運営など地域貢献にも力を入れています。「関わるすべての人が楽しくなれる環境を作ること」を理念として、健康経営に努め、近年はアルバイトも含めた全社員をつなぐ社内コミュニケーションツールの開発も行っています。
私自身はイタリアンのシェフや料理教室講師を経て、11年前に経理業務未経験の状態で当社に入社しました。
経理は3名体制で運営しており、私は経理の基本業務に加え、経営システムのリプレイスなどシステム構築に携わっています。(株式会社ファイブグループ 経営管理部・経営企画部 課長代理 木下 真由美氏 以下、同)
ネットバンキングへの入力作業に丸2日
【Q】電子帳簿保存法への対応は、いつ頃から始めましたか?
最初に話を聞いたのは約3年前、電子帳簿保存法の要件が緩和された時期でした。しかし当時はタイムスタンプの付与条件が厳しかったり、対応できそうなシステムがなかったりと、ハードルが高く断念した経緯があります。2回目は約1年前、要件が再び緩和されるタイミングが近づき、経理システムの営業の方からも情報が入ってくるようになったのがきっかけで取り組みました。
当社は関連会社と合わせて毎月約500通の請求書を扱っていますが、紙が9割で、メールでのPDFが1割でした。PDFは紙に印刷して経理処理していたので、結局すべて紙で処理していました。
請求書の内容を経費の承認システムに入力し、仕訳の作成をします。仕訳作業も、AccessやExcel、過去の仕訳条件を引っ張ってくるなど色々な作り方をしていて属人化している状況でした。それを会計ソフトにインポートするのですが、月次決算が締まっても、今度はネットバンキングへの入力をしなければなりません。紙の請求書から、振込先や振込金額を1件ずつ入力する作業に丸2日かかっていました。毎月同じ振込先ならまだいいのですが、工事などで単発のお取引のある業者さんもいらっしゃったので、間違いのないよう気を遣いました。
最も負担だったのは、費用の承認確認です。当社は店舗と事業部の責任者がLINEや電話、口頭などで完結していることが多く、本部が経理承認を把握できないケースがありました。そのため月初の忙しい時期に、承認されているかを現場に確認し、経費の承認システムで申請を出すよう呼びかけて、再びシステム上で申請が来ているかを探すという作業が発生し、多くの時間がかかっていました。決済者の承認が下りていなくても支払いはできてしまうので、どれだけ管理できていたかというガバナンス上の課題もあったと思います。
また「過去の請求内容がきちんと払われているか確認したい」と言われたときに、仕訳データにはそこまで詳細な情報がないため、膨大な紙の束から探さなければならないのもストレスでした。
9割紙だった請求書が、1割まで減少
【Q】現在の請求処理は、どうされていますか?
PDFの請求書から経理データを抽出するシステム『invox』を導入し、3ヶ月で電子帳簿保存法に対応できました。半自動で処理された仕訳内容を確認し、各事業部の責任者が承認します。金額によってはさらに上の本部長や執行役員が承認して、すべての承認が完了したら会計ソフトにインポートする流れです。
時間的な削減効果が最も大きかったのは、インターネットバンキングへの入力です。これまで丸2日かけていたのが30分になり、作業時間が95%も減らせました。仕訳作成にかかる時間も30%ほど削減でき、毎月のルーティンで請求される分はほぼ自動化できた印象です。
【Q】取引先にはどのように案内をしましたか。
請求書は紙でなくPDFで発行していただきたいと、直接、電話をかけて依頼しました。なぜデジタル化するのか疑問を持たれる方もいましたが、その場でご説明すると思いのほか多くのお取引先が快諾してくださいました。これまで何となくの慣習で紙を発行していただけで、きっかけがあればすんなり切り替えてくださる取引先様が多かった印象です。それまでは紙の請求書が9割、PDFが1割でしたが、今では9割がPDFです。
請求書を紙からデジタル化したことで予想していなかった効果もありました。これまでは請求書を探すのが大変で、経理部への「どこにあるのか」という質問も多かったのですが、今では検索すればすぐ出てくるので、問い合わせ自体がほぼゼロになったのです。紙での管理をやめたことで、こうした細かな対応が思いのほか負担だったことに気が付きました。
また、請求書をPDFでやり取りするようになると、メールで先方の経理担当者と直接繋がることができます。アップロード漏れなどで支払いが遅延してしまった際も、営業担当者を通さずに直接、先方の経理担当者に確認ができますから、やり取りにかかる手間が減らせました。これも副次的な効果だと思います。
請求書のデジタル化は、経理業務のストレスから開放してくれる
【Q】外食産業が請求書をデジタル化するメリットは何でしょう?
電子帳簿保存法の対応は、3ヶ月でできました。私も当初は諦めかけていましたが、やってみれば案外うまくいきました。半年あれば十分余裕を持って対応できると思います。取引先様にも、電話でお伝えしてみると意外とスピーディーに紙の郵送からPDFのメール添付に切り替えていただいたほか、実はすでにシステムを使っていたというケースもありました。
まだ電子帳簿保存法に対応していない企業も、2023年12月31日まで猶予があるとはいえインボイス制度への対応もあるので、今のうちに対応した方がよいと思います。 請求書のデータ処理システムは、経理担当者がストレスに感じている業務を改善してくれます。デジタル化によるメリットや、そこからの副次的な効果も思いのほかあるので諦めずにチャレンジしていただきたいです。
株式会社ファイブグループ
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-5-10 いちご吉祥寺ビル7F
設立:2003年6月30日
事業内容:飲食事業(居酒屋・ダイニング等)の経営・企画・運営店舗プロデュース事業
代表者:代表取締役 坂本憲史
公式HP:https://five-group.co.jp/