2030年問題とは?
2030年問題とは、国内の人口比率が大きく傾くことで深刻な影響を及ぼしかねない社会問題のことを指している。その主な要因として挙げられるのが、少子化や高齢化、長寿化などだ。
例えば令和3年10月時点のデータでは、65歳以上の人口は3,621万人となり、日本の総人口の28.9%となっている。そして2030年頃には、高齢者の割合が1/3を占めると想定されており、その後もさらに増えていく一方だ。
また、2030年の推計値で出生数の減少や死亡数の増加、平均寿命なども延びていることが伺える。これらの様々な要因が複合的に影響することで、15歳~64歳までの「生産年齢人口」が減少してしまうのが2030年問題の大きな課題だ。
労働人口が減ることは、すなわち多くの企業で人材不足に陥り、現場の労働力や採用活動などに関連した様々な問題に繋がることが考えられる。もし仮に今後日本の出生率が高まることで状況が好転したとしても、その子供世代が社会に出るまで十数年の月日が必要だ。しばらく生産年齢人口が増えないことを考えると、飲食業界でも早急に問題解決に向けて取り組まなければならない。
2030年問題と2024年問題、2040年問題の関連性
2024年問題とは、同年4月から施行の働き方改革関連法などにより発生する様々な社会問題のことである。具体的には、トラックドライバーの時間外労働の上限(休日を除く年960時間)が規制されることだ。ドライバーの労働時間が短くなることで1日の輸送量が減少し、「荷物が届かない」「事業者の売上やドライバーの収入が減る」といった様々な問題が発生する。
現状の輸送能力を維持するには働き手を増やさなければならないが、2030年問題で挙げたように労働人口は年々減少しているため、運送事業では人材の確保が難しくなっている。
また2040年問題は、人口の多い団塊ジュニア世代と呼ばれる1971年~1974年生まれが65歳を超え、より高齢化社会が進むことで発生する諸問題のことである。同年には高齢化率が35%を占める予測となっており、医療や介護、年金等の社会保障制度などで現役世代の負担がより増大してしまう。
つまり将来的により大きな問題が迫っており、国や企業は2030年問題だけでなくその先に向けて、長期的な対策や改善に取り組まなければならないことが伺える。
2030年問題による飲食業界への影響
2030年問題は、飲食業界にどのような影響を及ぼすのだろうか。先んじて対策する上でも、起こりうる事態を把握しておくことはとても重要になるため、その具体的な内容について見ていこう。
2030年問題により、さらに深刻な人手不足に陥る
慢性的な人手不足となっている飲食業界では、2030年問題でより深刻化してしまう恐れがある。例えばパーソル総合研究所の「労働市場の未来推計 2030」によると、2030年における「サービス業」の不足人数は400万人、「卸売・小売」が60万人にも上る結果だ。
他の業界と比べても割合は高く、多くの飲食企業で人手不足に陥る可能性が高い。
加えて飲食店などでは、パートやアルバイトなどの非正規雇用の人材が多い。現場の業務は未経験や資格なしでも始めやすく採用ハードルは低いが、2030年問題による生産年齢人口の減少で、即戦力となる人材の確保がより難しくなってしまうことも問題だ。
例えば帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2023 年 10 月)」では、非正社員の人手不足割合の中で「飲食店」が82%と最も高い結果に。他にも「旅館・ホテル」は73.5%、「飲食料品小売」が50%と多くの関連企業で人手不足が問題となっている。
参照:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年10月)」
人材獲得に対するコストや負担の増加
飲食市場の働き手が減少して多くの企業で人材不足に陥ると、競合他社との人材獲得の競争が激しくなり、優秀な人材を確保するために競合より良い待遇を用意する企業も増えてくる。結果的に、職業斡旋所や人材募集サイトなどに採用情報をただ掲載するだけでは、新しい人材の確保が難しくなってしまう。
そこで、他社に負けないように給与や福利厚生などを充実させ、自社で長く働いてもらえるようスキルの上達やキャリアアップにつながる研修など、将来性のある制度を作ることが重要となる。しかしこれらの施策を実行すると、1人当たりの人件費も高くなってしまう。給与などの直接的な費用だけでなく、設備や研修の導入などにかかる出費もコスト増につながる。
また2030年問題では、少子高齢化により労働者1人当たりの社会保障費が増える懸念もある。すると企業側で負担する従業員の健康保険料や厚生年金額などが増えるため、積極的に人材採用をしていない企業でも人件費の高騰は免れない。
例えば厚生労働省の資料によると、1990年の社会保障に関する国民負担率は10.6%だが、2024年は18.4%となっている。単純に労働者を増やせば良いわけではなく、人材雇用に対するコスト増やリスクなども考えて採用活動に取り組まなければならないのだ。
2030年問題で飲食業界が抱える課題
労働人口の減少により上記のような様々な問題が発生すると、企業にとっていくつもの課題が出てくる。具体的には以下のようなものだ。
・業務過多による生産性の低下
・厳しい労働環境や待遇による従業員満足度や定着率の低下
・人材の入れ替わりによる商品やサービスの品質低下
人材が豊富であればそれだけ業務を分担できるが、少ない人員で仕事を回そうとすると従業員1人あたりの負担が増えてしまう。特に飲食店では、仕込みなどの開店準備や終業後の事務作業など営業時間外の業務も多く、長時間労働になりやすい。不規則な休日や深夜のワンオペ業務など、従業員にかかる肉体的・精神的な負担が大きくなると生産性や従業員満足度の低下を招く。
また業務内容に対して報酬や待遇が見合わないと、従業員満足度の低下だけでなく離職の原因にもなってしまいかねない。従業員の離職は、「専門知識やスキルを持った人材の減少」「新たな人材確保のために採用や教育コストが掛かる」「新人教育に時間を割けずメニューやサービス品質の低下」などと大きなリスクになる。
これらの悪循環により無駄なコストや出費が増えれば、それは企業の売上や利益の低下にも直結する。また品質の低下により顧客からの評判が悪くなると、ブランドイメージの悪化にもつながるため、取り返しがつかなくなる前に対策を打ち出す必要があるだろう。
飲食業界の人手不足への対策方法3選
人手不足によって発生する多くの課題を解決するためには、円滑な人材確保や従業員が働く労働環境・待遇の改善、DX推進などによる対策を講じることが重要となる。
ここでは、以下の3つの方法について解説していく。
概要 | メリット | |
---|---|---|
リファラル採用 | 従業員による紹介制度で人材採用を実施 | ・求人媒体に頼らない人材確保を実現 ・採用コストの削減 |
リスキリング | ITなどの新たな領域での専門知識やスキルなどを従業員へ教育 | ・従業員のスキルアップやモチベーション向上 ・デジタル化やDX推進への円滑な対応 |
DX推進 | 管理システムやAIロボットなどのデジタル技術を導入し企業の将来的な利益につなげる | ・業務の効率化 ・人件費などのコスト削減 ・労働環境の改善 |
リファラル採用による雇用ルートの開拓
リファラル採用は、社内にいる従業員の紹介で新たな人材を確保する手段のことを指し、求人媒体を介さずとも人材の雇用につなげられる。広告費用などが掛からないため、採用コストを大きく減らすことが可能だ。
求職者にとっても、知人を介して他の従業員と円滑なコミュニケーションが行え、疑問や悩みを打ち明けやすい。職場に溶け込みやすくなることで、離職する可能性を減らせるなどのメリットがある。こうしたメリットを活かすには、働きやすい職場づくりが大切になってくる。
しかし仕事が辛く待遇が悪いなど、従業員満足度の低い職場環境では離職してしまうだけでなく従業員からの紹介もされづらくなる。福利厚生の充実や新人教育の制度、キャリアプランの見える化など、従業員満足度を向上させる取り組みで、リファラル採用の成功に向けた下地づくりも実施しておくべきだ。
関連記事:飲食店の人手不足対策としてリファラル採用を成功させる秘訣とは?
リスキリングで将来性のある職場環境の構築
リスキリングは、将来的に関わるかもしれない「新たな業務で役立つ知識やスキルの習得」を目指す取り組みになる。単なるスキルアップとは異なり、デジタル技術やクラウドサービスなどの新たな領域での業務を想定して学習するものだ。
近年では、コロナ禍による影響でオンラインや非接触サービスの需要が増え、DXの推進によりITツールを導入する企業も増えている。そうした設備や技術を取り扱うためには、少なからずITなどの専門的な知識やノウハウを持った人材が必要になる。そのための教育プログラムや研修などを整え、従業員に学ぶ機会を与えることがリスキリングとなる。
関連記事:リスキリングとは?注目される背景と飲食業界に必要なDXとの関わり
DX推進による業務の効率化
DX推進は、デジタル技術を活用することで企業の在り方や業務への取り組みに変革を起こす試みのことである。クラウドサービスやAIロボットなどの様々なITツールが発展していくであろう今後の時代に対応できる企業体制を整えることが目的だ。
デジタル技術を取り入れること自体は過程の1つだが、そうしたDX推進への取り組みは2030年問題となっている人手不足への対策にも有効な手段となる。例えば、飲食店との受発注・請求業務を電話やFAXなどで行なっている食品卸やメーカーも少なくない。こうした事務作業には、時間や手間がかかり手入力によるミスも発生しやすい。
そこで受発注をデジタル化できるツールで業務のDXすることで、受注業務のミスを減らしたり請求書作成などの業務効率化ができたりする。取引先がWeb発注に対応していなくてもFAXの発注書を、AIを用いてOCR機能を使ってデジタル化するツールやLINEを用いて受発注できるツールもDXには効果的だ。
また飲食店では、人手不足により新人研修や衛生管理、日々のタスク管理などの様々な業務が滞りやすい。そうした際には、店舗オペレーションツールを導入して従業員への指示や完了報告、業務のマニュアル化などを一括管理することもおすすめだ。これまで手間のかかっていた店舗業務を効率化することで、店長の業務負担を減らし従業員の長時間労働を抑えられるだろう。
先を見据えた人手不足対策で2030年問題に備えよう
2030年問題の要因として、少子高齢化を始めとした労働人口の減少による人手不足が挙げられる。飲食業界では慢性的に同様の課題があったが、そうした問題を完全に解消するのは難しいのが現状だ。今現在でも、有効な手段や対策を模索している企業も多いだろう。
人手不足対策の中でも、人材確保や従業員教育、業務の効率化などは優先して実施しておきたい。とはいえ施策を打ち出したからといって、すぐに効果を得られるわけでないことも多い。働きやすい労働環境の構築や従業員への待遇改善など、まずは社内で見直せる点から取り組んでみてはいかがだろうか。