メーカーと卸で異なる企業買収の目的
このような再編の動きは以前からあったとはいえ、近年特に顕著だ。M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報第五部長の淺野祐典さんに、専門家としての見解を伺ってみた。
「ここ最近の傾向を見ると、食品業界のM&Aの件数は、全業種の中でもトップ10圏内に入ってくるほど増えてきています」
M&Aの事例は、メーカーはもちろん、むしろ卸の業界で顕著に表れているという。
「メーカーと、卸、外食、小売では戦略が違います。メーカーは、技術力や人材力、ブランド力、知名度を手に入れるというイメージですが、卸、外食、小売は、エリアを獲得していくイメージです。ここ最近は特に卸の業界で再編が起きている状況で、ビッグエリアをどう獲得するかが課題となっています。自分たちの手でゼロから開拓するのではなく、既に活躍されている中堅・中小企業を買収してエリアを獲得しようという動きです」
食品業界に関わる各社がそれぞれの戦略で国内におけるエリアの獲得を進める一方で、海外への進出も熱気を帯びている。
「国内での再編が粛々と進められる中、さらなる活路を見出すために海外へ目線を向ける企業も少なくありません。つまり、国内の企業が海外の企業を買収するというケースですね。各企業の考え方や戦略にもよりますが、ターゲットとなるのはジャパンブランドが推奨される国。タイ、インドネシア、マレーシアなどが中心に進出が進んでいる印象はあります。一時、中国への進出が目立ちましたが、カントリーリスクという面で現在では少なくなっています。むしろ、中国から撤退する企業が多くなっている印象です」
オリンピック後を見据えた企業戦略が生き残りの鍵に
国内外ともに、再編の動きは大手が主導する形で進んでいる。これは、もはや特別なことではなく業界として当たり前の現象となっている。
「メーカーでも卸でも、大手は企業戦略的にM&Aを進めています。特に食品業界においては再編が必要な状況にあるという共通認識を持っておられるでしょう。さらに、ここへ来て為替の影響などもあり、海外からの仕入に頼っている部分が大きい材料の価格が高騰しています。それでいて消費者からは価格引き下げの声が挙がっている…。そんな板挟み状態の中で購買力や販売力を付けていくために、M&A戦略を取られているわけです」
中堅・中小の企業にとってはどのような影響が考えられるのだろうか。
「メーカー、卸とも、大手と中堅・中小の差は今後さらに広がっていくでしょう。2年、3年という短いスパンではないにしろ、5年、10年先を見据えた時に再編の波に乗り遅れる企業も出てくるかもしれません」
東京オリンピックを控えた今、爆買いに象徴されるインバウンド需要などによって、景気が良くなりつつあるムードが漂ってはいる。しかし、食品業界としては安穏としている場合ではなさそうだ。オリンピック後には景気が冷え込むという過去の経験も踏まえたうえで、再編の動向にアンテナを張っておくべきだろう。