中小青果卸が置かれた厳しい現状

代表取締役社長 宮澤 信一 氏
中小の青果卸売事業者は、構造的な課題に直面しています。まず、新規取引の減少があります。需要は大手の仲卸に集まる傾向が強く、地方都市ではその偏りが顕著です。加えて、青果商や独立系の飲食店の減少が続き、中小事業者に回る新規の取引機会が減っています。
人手不足も深刻です。求人を出しても応募が集まらず、広告費用だけが増えるケースが目立ちます。根本原因は、労務環境や待遇、魅力的なPR不足といった点にあると考えられます。これが解消されないため過重労働が常態化し、それに見合う高い報酬ではないため離職率が高まる悪循環が見られます。
特に、長時間労働に見合う賃金が得られず、家族を養えないという理由で、30代の中堅社員の転職が増加しています。結果として、職場は60代のベテランと20代の若手という世代間の格差が開いています。
大田市場の仲卸の経営状況を見ても、規模による格差は明白です。売上高が3億円未満の事業者は営業赤字で、1人当たりの人件費も低く、後継者が現れにくい状況です。
変化する市場環境への対応
青果卸を取り巻く小売・流通の環境は大きく変化しています。小売の形は様変わりしました。2024年度の販売額は、スーパーマーケットが16兆円で最大、コンビニが13兆円、ドラッグストアが9兆円と伸びています。ドラッグストアでは飲食料品の構成比が33.2%に達し、上昇傾向です。無店舗小売業は13兆円まで拡大し、コンビニの規模を上回りました。小売全体の販売額は増加傾向(165兆円)ですが、市場が広がる中で個別の企業の売上が伸びないのであれば、個別の課題が原因と考えられます。一方、八百屋や果物店の店舗数は、ピーク時の昭和51年(6万6195店)から1万4000店余りにまで大幅に減少しました。
野菜の流通を見ると、重量ベースで58%が業務加工用に回っており、家庭での調理(スーパーや八百屋での購入)は4割強に過ぎません。世帯構成では単身世帯が34.6%、65歳以上の高齢者世帯が31.4%を占め、今後も増える見込みです。また、2020年から2024年にかけて、食料の支出増加以上に、調理食品や外食への支出が大きく増えました。外食の需要は増加し、回復傾向にあり、2024年はすべての業態で前年を上回り、インバウンド効果も追い風になっています。
改革を阻む要因と打開策
中小の青果卸には変革が求められていますが、実行を妨げる要因がいくつもあります。まず、早朝からの長時間労働が常態化し、従業員が定着しにくい状況です。加えて、アナログ作業が残り、現場の改善提案が受け入れられにくい風土も見られます。さらに、取引先の都合に過度に合わせ、交渉や断る判断を避けてきた経緯があります。これは競合が多く、取引減少への不安が根底にあるためです。
次に、新規取引の獲得ノウハウが不足しています。紹介による顧客獲得が中心で、自ら仕掛ける営業の方法を持たないのが現状です。一方、大田市場の200億クラスの大手仲卸とは対照的に、多くの中小事業者は需要減や新規取引の少なさに悩まされています。また、ベテラン社員は知識が豊富ですが、個人営業の色合いが強く、新しい仕組みに抵抗を持つことも多いため、若い経営者の指示が現場に届かないケースも散見されます。
収益面も厳しく、中央卸売市場の青果卸の営業利益率は0.36%(仲卸は0.37%)と、飲食料品卸売業全体の1.0%と比べても低水準にとどまります。このため、人材投資や設備投資が難しくなっており、最低賃金の上昇にも対応しきれません。
人材を集めるには、求職者の関心が高い分野、例えばITやAI、商品企画、商品開発といった部門を立ち上げ、力を入れることが欠かせません。PRで「ITに力を入れる」「AIを使う」と示せば、検索で見つけてもらいやすくなります。そして、書類やゴミが散らかる職場環境を改善することも重要です。これでは若い世代、特に女性の応募は見込めません。さらに、賃金水準の見直しも避けて通れません。都内の大手卸では大卒営業の初任給を引き上げており、地方の最低賃金に近い例とは対照的ですが、社会インフラという意義ややりがいだけで人が来てくれる時代ではないのです。












