人口増加時代の経営モデルは通用しない

代表取締役会長 菊地 唯夫 氏
1970年代から本格的な成長期に入った外食産業は、人口増加とGDP成長という追い風の中で発展してきました。当時は、画一性、スピード、効率性を徹底的に追求し、チェーンオペレーション、セントラルキッチン、フランチャイズといった仕組みで拡大する需要に応えてきたのです。
しかし、2008年をピークに人口が減少に転じると、状況は一変しました。生産性の低迷、働き手不足といった問題が表面化し、さらに30年にわたるデフレ経済下での価格競争が続きました。その結果、賞味期限切れ、異物混入、虚偽表示、バイトテロ、過剰勤務といった問題が連鎖的に起こるようになりました。
私は、こうした問題の連鎖を、個別の企業問題ではなく、長期デフレ下でのコスト削減競争がもたらした産業全体の歪みの可能性があると捉えています。利益を確保するために、自社でコントロールできる原材料費や人件費を削り続けたことが、サービス産業全体に様々な問題の連鎖が生じる温床になっているかもしれないという問題意識です。
規模から質へのシフトが求められる
人口が減少するこの時代、私たちは成長の概念そのものを多元的に捉え直さなければなりません。外食産業は、今や市場縮小と供給制約が強まる領域へと移行しつつあります。この新しい領域で成長の道を探るには、もはや規模の拡大ではなく、質の向上こそが競争優位の源泉になると考えています。
ロイヤルホストは、2010年以降、戦略的に赤字店の整理を進め、店舗数を280から220へと圧縮しました。これは、質の高いサービスや付加価値を提供する上で、「規模」と「質」が相反する要素を持ち得るという認識に基づいています。例えば、お客様が付加価値を感じる国産食材にこだわり、国産車海老を使ったフェアを実現しましたが、これは220店舗という規模だったからこそ、安定した供給を賄えた施策だと考えています。
また、2017年までに24時間営業を段階的に廃止し、翌年からは元日を含む年3日間を休業としました。営業時間や営業日数を縮小したにもかかわらず、売上はむしろ増加したのです。店長たちからは「家族と初詣に行けたから頑張れた」という声も聞かれました。これは、規模を圧縮することで、人手不足で失われかけていた現場の余力を生み出す戦略でした。結果として、ランチやディナーといった必要な時間帯に適切な人員を配置できるようになり、サービスが向上し、売上増につながったわけです。
ただし、この規模の戦略的圧縮が万能なわけではありません。例えば「天丼てんや」のような業態では、単に営業時間を短くしても、来店機会の損失が大きくなるだけで、サービスの本質的な価値が高まるとは限らないのです。
テクノロジーで人間の価値創造を支える
人口減少が進む中で手を打たなければ、せっかく立て直したサービス価値も再び目減りし、事業は縮小均衡に向かってしまいます。この下り坂を反転させ、継続的な成長につなげるための推進力は、やはりテクノロジーだと考えます。
ただし、テクノロジーと人間の関係は「or」ではなく「with」であるべきです。グループの従業員には、接客や調理のような価値創造が好きな人が多く、そこにストレスを感じる人はあまりいません。彼らがストレスを多く感じるのは、発注や棚卸し、本部とのやり取り、清掃などです。ここをAIやロボットに任せることで、人間は「感情労働」に集中できるのです。
私は、外食の価値づくりはアートとサイエンスの連続体にあると考えています。ロイヤルホストのような比較的「アート」性の高い業態では、接客はアナログに徹底しつつ、裏側では自動発注やAIといった「サイエンス」で余力を生み出す必要があります。業態ごとにテクノロジーの配置を変えることが、極めて重要なのです。
お客様の満足度も同様です。清潔な食器や時間通りの提供といった「基本的な満足」と、笑顔や臨機応変な対応といった「付加的な満足」があります。しかし、人手が不足すると、その「土台」の維持さえ難しくなってしまいます。ですから、この土台をテクノロジーと運用設計でしっかり支え、スタッフは人にしかできない価値づくりに集中できるようにする。この価値創造こそが、私たちの目指すべき世界観になります。
コロナ後の構造変化に対応する
コロナ禍は外食産業に、2つの大きな構造変化をもたらしました。
一つ目は、外食・中食・内食の境界の曖昧化です。テイクアウトやデリバリー、フローズンミールの広がりにより、お客様は時間や場所から解放されつつあります。
二つ目は、人材の社員化による変動費の固定費化です。アルバイトを手放すと再採用が難しいため、各社は社員化を進めていますが、その結果として損益分岐点が上昇し、「稼ぐ力」が低下するリスクが出てきました。一日のランチとディナー、週次の平日と週末、季節の繁閑といった「波」に対し、黒字の面積が縮みやすくなるのです。トップライン(売上)が見かけ上は保たれても、平準化の設計を怠れば、本質的な稼ぐ力が目減りしてしまいます。
私は、この構造変化と損益分岐点の上昇という本質的な課題には、デジタル化による変革が不可欠であると考えています。
(1)サブスクリプションやダイナミックプライシングで収益の波の影響を緩和
(2)事前決済やプレオーダーでサービスの提供と消費の同時性を緩和
(3)宗教食や健康食といったニッチ市場へ踏み込み、ロングテールの需要を取り込む
(4)アプリなどを活用し、お店の外での顧客との接点を創出
(5)テクノロジーによる再現性向上で、スケールデメリット(規模拡大に伴う非効率)を緩和
これらを組み合わせることで、生産性の底上げ、人手不足の緩和、単価向上といった根本的な課題の解決に繋げられると考えます。
選ばれる企業になるために
テクノロジーの導入などで新しい仕組みを取り入れることは、短期的な競争優位や生産性向上をもたらしますが、その優位は初期に限られ、普及すれば必ず陳腐化します。結局、最後に業績を分けるのは、やはり「人」です。
いまは、企業は選ぶ側から選ばれる側へと立場が変わる「供給制約の時代」です。これまでは顧客と株主から選ばれればよかったのですが、これからは取引先や従業員からも選ばれなければ事業継続は難しくなるでしょう。
なぜなら、労働参加の伸びを支えてきた高齢者、女性、外国人という要素に頭打ちの兆しがあるからです。団塊世代の後期高齢期入り、女性の労働参加が進み、その量的な寄与が今後限定的になること、さらに為替環境の不利な状況下での人材獲得競争を踏まえれば、人手不足は次の段階に入ると前提して、経営を設計すべきです。
この「選ばれる側」への転換、ひいては供給制約の解決を実現するための鍵は、経済価値と社会価値のトレードオンです。他産業では、アサヒビールとキリンビールの物流共同化、あるいはANAとJALの離島交通維持といった、社会価値の解決を目的としたビッグプレイヤー同士の企業間連携がすでに進んでいます。
外食産業においても、企業と企業が連携し、食品ロス削減やCO2排出量削減といった社会課題の解決に向け、地域連携と広域連携を組み合わせたエコシステムをつくる必要があります。社会価値を追求し、経済価値とトレードオンを実現することこそが、企業を「選ばれる側」へとシフトさせます。企業が「選ばれる側」になるからこそ、結果的に人手不足をはじめとする供給制約の問題が解消され、さらなる経済価値と社会価値の追求ができる。これこそが持続的成長への重要なキーワードになっていくのです。
外食産業は今、資源も人材も限られる「有限性の時代」に直面しています。だからこそ、「無限」を前提とした将来の数値達成を追う「ビジョン偏重」から転換し、「いま、この社会に自社の存在意義はあるのか」というパーパスを深く見据える必要があります。
食はSDGsの多くの目標に関わる重要な分野です。そのため、私たちは技術革新と社会貢献の連携を図ることで、持続的な成長を続けていかなければならないと考えております。
ロイヤルホールディングス株式会社
本社:福岡県福岡市博多区那珂三丁目28番5号
設立:1950年4月
企業HP:https://www.royal-holdings.co.jp/












