飲食店がいまからすべきデジタル化(炭寅コーポレーション)~企業間取引デジタル化支援セミナー前編

セミナー・イベントレポート2021.06.14

飲食店がいまからすべきデジタル化(炭寅コーポレーション)~企業間取引デジタル化支援セミナー前編

2021.06.14

飲食店がいまからすべきデジタル化(炭寅コーポレーション)~企業間取引デジタル化支援セミナー前編

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(左)ファシリテーター:株式会社インフォマート フード事業部門 フードマーケティング部 課長 石塚 賢吾
(中央)登壇者:株式会社炭寅コーポレーション 取締役 総務部長 山元 正浩 氏
(右)登壇者:株式会社インフォマート フード事業部門 フードソリューションセールス部営業2課 主任 江口 翔平

飲食店と卸売業のあいだで日々取り交わされる企業間取引の課題と対策について、事業者を交えたトークセッションが行われた。第1部では焼き鳥業態『酒家鶏処 炭寅』など11店舗を展開する炭寅コーポレーションが登壇し、飲食店がFAXや電話で発注した場合の伝票処理や棚卸などの問題点を討論した。その内容を紹介する。

出典:福岡市企業間取引デジタル化支援セミナー(2021年3月25日開催)

目次

主催者あいさつ~福岡市の企業間取引の現状

令和3年度は、特に企業間取引デジタル化の支援を通して、事業者様の効率性および生産性の向上をお手伝いしていきたいとの思いから、本日はセミナーを開催させていただきました。

昨今、企業間取引のデジタル化、あるいはDXという言葉を耳にする機会が増えてきたと思います。しかし、まだ「何がいいのか分からない」「何をしたらいいのか分からない」という事業者様も多くいらっしゃるのではないでしょうか。そこで本日は、実際にデジタル化を推進していらっしゃる事業者様のトークセッションを通して、デジタル化を身近に感じていただければと思っております。

昨年末、福岡市内の事業者様を対象に行ったデジタル化への取り組みに関するアンケートの結果、企業間取引の受発注に電話・FAXといったアナログな手段を使っている企業様は、まだ全体の過半数(52%)を占めていることが分かりました。

飲食サービス業、小売業の主な発注方法[企業間取引デジタル化実態調査(令和2年12月実施、速報値)]

また、福岡市の産業構造として事業者数が多い「飲食サービス業」及び「小売業」とそれらの主要取引先である「卸売業」においては、主にFAXを用いて取引を行っていることが分かりました。経済産業省中小企業庁の実証実験の結果では、デジタル化によって受発注業務だけで5割以上が削減され、それを全社の労働時間に換算すると6%以上の削減になったというデータもあります。

私どもは、企業間取引の90%デジタル化を目指すことで、より一層の効率化と生産性向上を図れるのではないかと考えております。これまでの事情や関係から一足飛びにデジタル化することは難しいかもしれませんが、一歩一歩進めていくことで、人手不足、また毎日遅くまで受発注に追われる状況を改善していけると思います。(福岡市経済観光文化局総務・中小企業部 経営支援課長 山下 龍二郎 氏)

トークセッション第1部『飲食店がいまからすべきデジタル化』

【Q】コロナ禍での飲食店の取り組みをお聞かせください

石塚 コロナの影響で大変な状況が続くなか、飲食店様では様々な工夫をされてきたと思うのですが、炭寅コーポレーション様ではどのような取り組みをされてきたのでしょう。

株式会社炭寅コーポレーション
取締役 総務部長 山元 正浩 氏
焼き鳥業態『酒家鶏処 炭寅』など
福岡市を拠点に11店舗展開する。

山元 昨年度、コロナ禍になりましてから、私どもはまずフェイスブックやインスタグラムなどのSNSを活用することに力を入れてきました。当然、テイクアウトも始めましたが、それだけではなかなか単価が上がらないため、試行錯誤しながら感染症対策を充実させての営業もしてまいりました。

また、以前から楽天市場さんで通販事業をしていたのですが、こちらが2020年4・5月から店舗売り上げとは反比例するように急激に伸び始めたのを見まして、ここに商機があると考え、強化策として小さな焼き台がセットになった「宅焼鳥」への取り組みを始めました。

巣ごもり需要で自社商品を自宅で一番おいしく召し上がっていただく方法を模索していた時に、小さい焼き台があることを知りまして、試食を重ねた結果、店舗と遜色のない味を出せると確信しましたので事業としてスタートさせました。

【Q】業務をアナログ対応することで生じる課題について教えてください

山元 以前は電話・FAXのみでしたが、数年前から予約システムのデジタル化を始めました。また一昨年度はキャッシュレス制度を活用してクレジット決済のみならず、スマホ決済も導入しました。レジは以前からポスレジを使用しABC分析などはしておりましたが、これをさらに進化させ様々な分析に役立てています。勤怠システムは10年ほど前にデジタル化しています。発注・請求システムは導入してもう10年近くなります。

石塚 業務としては、おおむねデジタル化できているということですね。10年前にシステムで発注書と請求書をデジタル化していただいたとのことですが、以前はどんな作業をされていたのでしょう。

山元 1日の業務が終わる前に、担当スタッフが店舗を回り、それぞれの在庫を確認して紙に書き出し、それをひとつの紙にまとめて、FAXや電話で取引先に注文を入れていました。ただFAXが時々詰まったりして、送信に30~40分かかることもありました。時には、送信できないまま退社してしまったり、その作業のために終電に間に合わなかったりすることもありましたね。システムを導入して、クリックするだけで発注できるようになり、非常に効率化できたと感じています。

石塚 日ごろ多くの飲食店様から話を聞いている江口さんからも、発注がデジタル化されていない外食店様には、どんな課題があるか教えてください。

株式会社インフォマート
フード事業部門 フードソリューションセールス部
営業2課 主任 江口 翔平

江口 現場の方々に関しては、取引先様ごとに発注のFAX送信が必要なため、先方で紙詰まりを起したり、店舗側で送信ができていなかったりというトラブルが起こりがちです。また、発注作業で終電に間に合わず、タクシーで帰らなければならい、納品書を紛失し金額が合わなくなってしまうという話もよく聞きます。

一方、本部様側の課題として多いのは、紙の伝票なのでシステムやエクセルに転記しなければならない、手書き文字の確認に時間がかかってしまう、納品書も請求書も紙でのやり取りなので伝票の照合に時間がかかるなどです。

石塚 山元さんが共感できるポイントはありますか。

山元 ひとつは、納品書ですね。以前は店舗ごとに、引き出しや棚の中にぐちゃぐちゃに収納されていましたが、電子化されたことで納品書がいらなくなりました。ただ、電子化していない一部の取引業者さんに関しては、いまだに納品書を管理しているので、現場で紛失することもあるし、回収して集計する作業も発生します。そこも電子化されればもっと効率化できるのにと思います。

もうひとつは、棚卸の作業です。以前は、在庫状況を一度紙に書いて、計算機で計算して、全部終わるのに1時間近くかかっていました。それが、棚卸用システムを使うことで、在庫数を数え入力するだけで集計できてしまうので作業も10分ほどに短縮できました。

【Q】発注業務をデジタル化したきっかけとそのメリットを教えてください

〇 発注業務をデジタル化したきっかけ

石塚 課題を感じていてもなかなかデジタル化に踏み切れない、あるいは、きっかけがないという企業様も多いと思います。炭寅コーポレーション様が、10年前にデジタル化に踏み切った理由を教えてください。

山元 当時の担当者が現場の負担を軽減したいと考えたのが導入の大きなきっかけです。デジタル化することで現場の負担を軽減し、作業を効率化し、ミスも少なくしたいと考えたようです。

江口 システムの導入にはある程度の労力も必要だったと思いますが、問題となったことはありますか。

山元 私もアナログ世代ですから最初は不安もありましたが、使ってみるとエクセルに数字を入力するのとほぼ変わらず、操作にもすぐ慣れることができました。現在は、店のパソコンだけではなくタブレットや個人のスマートフォンからも受発注の管理ができますので、社員全員、非常に利便性が高まったと感じています。

〇 デジタル化のメリット

江口 ≪商品管理≫では、エクセルなどを使うのが一般的ですが、発注からシステム化すことで情報が蓄積されていくというメリットがあります。そのデータをもとに発注できるのでFAXや電話という作業が一切なくなります。≪棚卸≫に関しては、最新の単価を自動で更新できます。≪請求処理≫は支払管理や請求書も電子化できるようになるため、月初め2日という早い段階で請求の締め処理が可能です。≪伝票保管≫については、紙での保管は税法上7~10年間の保管義務があり保管スペースも必要ですが、電子帳簿保存法に適応しているシステムなら紙での保管は不要です。

石塚 2023年の「インボイス制度」施行に向け、早めに対策したほうがいいですね。それでは、デジタル化したメリットについて具体的なエピソードがあれば教えてください。

山元 ひとつは、毎日の工場への発注業務です。各店からのオーダーを集約して、朝早いうちに発注しなければならないのですが、システムを使えば、各店からのオーダー情報を集計し、工場に送るだけと、たった3クリックで完了します。また、先日、福岡県の感染症予防対策の補助金申請をする際、各店舗のアルコール消毒剤の出数と金額を年間で集計しなければならなかったのですが、これもデータを使ってあっという間に集計できました。以前なら納品書や請求書を探し出して、各店の使用数を調べるのは一苦労だったと思います。

【Q】デジタルツール導入後の課題とバックヤード業務の未来について

石塚 デジタル化を導入した後でも残っている課題はありますか?

山元 ひとつは、私どもが努力しなければならない部分ですが、使う側がその機能を十分に使いこなしていないことです。もうひとつは、社員や従業員が入力するだけで仕事が終わりだと思いがちなことですね。その結果、発注の数量が間違っていたり、棚卸の金額がとんでもない額になっていたりすることがあります。ここは本部の人間が数字にもう少しコミットメントして、棚卸の金額や発注数量を慎重に見ていくことが必要ですし、店舗の従業員への教育も必要だと思っています。便利さの反面でそういった課題も痛感しています。

石塚 デジタル化がゴールではなく、デジタル化したものをその先に人がどう生かしていくかが大事だということですね。江口さんより今後のバックヤード業務がどうなってくべきかについてひと言お願いします。

江口 飲食店様では人材不足も深刻な課題のひとつになってきています。フロント業務はキャッシュレスをはじめデジタル化が進んでいますが、さらにバックヤード業務のデジタル化を進めることで、そういった課題解決にもお役に立てればと思います。

石塚 山元さんからもお願いします。

山元 私どもは飲食業ですので、デジタル化によって生まれた時間を、お客さまに満足いただけるサービスに変換していかなければならないと思っています。労務環境の改善という点では、従業員が本当に笑顔で働ける環境でなければ、お客さまにも真の意味で笑顔のサービスはできないと思いますので、デジタル化を進めることで生まれる幸せの恩恵を、店舗運営やサービスの随所に波及させていきたいと考えています。

石塚 飲食業は、お客様あってのものだと思います。お客さまとの接点を強化するためにも、効率化できる業務は効率化して、生まれた時間をしっかりとお客さまに向ける。また、SNSやウェブ上でお客さまと接する機会をつくって、最終的には店舗に来ていただく。そういったビジネスを構想されていると感じました。今日は貴重な話をお聞かせいただきありがとうございました。


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