【Q】卸売業における業務の流れと課題について教えてください
石塚 食品卸業様の業務内容は、大きく営業と事務に分かれますが、どちらも朝から受注入力や伝票発行といった受注業務に時間を割き、営業はピッキング後、通常の配送・営業業務を行うのが大体の流れかと思います。1日の大半が、受注業務に時間を取られているのが現状ではないかと想像しますが、岩田産業様ではいかがでしょうか。
岩田 その通りです。営業も販売事務も受注業務に大変多くの時間を取られています。受注の連絡は、電話やFAX、最近はLINEなどでも入ってきますし、営業担当の場合は、配達中も携帯にお客さまからの連絡がどんどん入ってくる状況です。
杉山 もちろん、お客さまから注文を受けることは卸業様にとって大切な仕事ですが、本来の営業の仕事はお客さまにあった商品の提案をしたり、メニュー構成を考えたりすることだと思います。受注業務に時間を取られることで、そういった本来の仕事ができにくくなっているということですよね。
岩田 おっしゃる通りで耳が痛いです(笑)。私たちの目指すべき業務は、ルートセールス制を引きながらお客さまとフェイストゥーフェイスで話をしてニーズを引き出し、それに対する課題を解決していくことなのですが、それ以外の業務に時間を取られているのが現状です。そのなかでも一番大きいのが受注業務です。
石塚 弊社のユーザー様250社を対象にアンケートで受発注形態を聞いたところ、FAXが90%以上、電話が70%以上と、まだまだアナログの状態が多いことが分かりました。飲食に関わる業界でこのようなアナログな状態が多いのはなぜでしょうか。
岩田 このコロナ禍で改めて認識したのですが、私たちが現状を変える努力をしてこなかったことが、何より大きな理由だと思います。
杉山 電話やFAXでの発注をパソコンでのシステムに変えることでどんなメリットがあるか、さらにそのメリットがメイン業務にどんな利益をもたらすかをお伝えし続けて、ようやく現状まできました。しかし、私どももまだまだ展開しきれていない部分が多い。ここは飲食店様、卸業様のどちらか片方ではなく、双方が理解しながら進めることが大事だと考えています。
【Q】アナログで受発注業務を行う場合のデメリットを教えてください
石塚 受発注がアナログであることのデメリットとして、よく聞くのが「FAXを送った送っていない」「伝票入力作業が大変」「受注入力ミス」です。他にも15の項目がありますが、岩田産業様ではどれくらいが当てはまりますか。
岩田 15項目中14項目当てはまります。まるで私どもの会社の課題を全部聞いているようです(笑)。
杉山 これらは、営業をする際のヒアリングでもよくあがる一般的な課題なのですが、岩田社長、この中でも特に課題となっている部分はどこですか。
岩田 伝票入力の作業ですね。ここに人手がかかるのが一番の課題だと考えています。
杉山 電話・FAX、LINEなどでくる注文を事務の方が書き起こしているということですよね。
岩田 事務もそうですし、営業も同じですね。
杉山 営業の場合は、注文を手書きのメモで渡されたりもして、何が書いてあるか分からないとか、確認をとらなければいけないとか、違うものを配達して再配送しなければいけないなどのトラブルもあるのではないでしょうか。そうすると、これもまたかなりのコストですよね。
岩田 そうですね。そういったことが当たり前になり、先輩から後輩に引き継がれていくという連鎖を断ち切れていないことも反省すべき点です。さらに、それが原因でお客さまとトラブルになり、2次的、3次的な時間がかかってしまうことも多々あります。
杉山 コロナ禍で、そういった課題がより浮き彫りになってきたということでしょうか。
岩田 売り上げが上がらず、固定費が大きなウェイトを占める状況のなかで、固定費をどう下げていくかを考えたときに、固定費の半分以上を占めるのは人件費で、「時間=コスト」ですので、このコストを下げるためにも人の作業を減らすことが重要だと分かりました。
そのひとつが、営業、販売事務ともに受注にかかる時間の長さだと改めて気づかされたのです。お客さまの売り上げも下がっているなかで、この固定費の削減はお客さまの課題でもあります。この共通の課題をお客さまと一緒に解決していく必要性に気づかされたことが、コロナ禍での大きな学びでした。
【Q】業務をデジタル化した後、さらに取り組まれていることを教えてください
石塚 課題を把握できたところで、岩田産業様が今デジタル化のためにされている取り組みを教えてください。
岩田 2016年10月に「岩田産業飲食応援ドットコム」を導入し、7万明細のデジタル化に成功しています。ただ、コロナ禍で改めて現状を見直したところ、デジタル化できている受注は全体の取引の10%ほどであることが分かりました。手書きのメモや電話、LINEなどでの受注は、すべて口頭での伝達や入力作業が必要です。今後はこの10%という数字を改善し、無駄な作業をゼロにしていきたいと考えています。
杉山 岩田産業様は卸業のなかでも先進的で、どんどん前進していらっしゃると思っていたので、私どももサポートが足りないなと実感しました(笑)。
石塚 ここで「岩田産業飲食応援ドットコム」について、杉山さんより少し説明をお願いします。
杉山 通常弊社が提供している「BtoBプラットフォーム 受発注」は、主に飲食のチェーン店様が卸企業様へ発注する際のシステムになっています。
一方、「岩田産業飲食応援ドットコム」は、岩田産業様が指定のシステムを提供し、それを使って飲食店様から発注をいただくシステムです。これをご利用いただければ、岩田産業様の受注作業だけでなく、飲食店様側の発注作業も効率化できます。
また、いつ何をどれだけ頼んだかという履歴も残せますので、売り上げデータと重ねて店舗の運営管理にもお役立ていただけるということで、非常に好評をいただいています。
【Q】受注業務のデジタル化による効果を教えてください
岩田 明細1枚を作るのに20秒ほどかかるのですが、7万明細をシステムにしたことで、月間約380時間の業務削減になりました。これを人に換算すると約1.5人分になります。また、お客さまの注文がダイレクトに納品まで反映されるので受注ミスがなくなり、それに伴う2次的、3次的なクレームや、その対応にかかる余分な時間もなくなるなど、見えない効果がいくつもあります。
石塚 「岩田産業飲食応援ドットコム」を導入されたことで、社員さんのマインドに変化などはありましたか。
岩田 コロナ前は、システムを導入したことで、営業マンのマインドを変化させるようなことを、会社としても少しはしてきた気になっていました。ただ、2016年から使用を開始し、デジタル化されているのがまだ全体の10%ということは、弊社のデジタル化はほとんど足踏み状態だったということです。コロナ禍で足元を見直したことで、デジタル化の取り組みの重要さに気づかされました。
そしてこうした現状を全社で共有したことで営業マンのマインドも大きく変わりました。同時にDXやデジタル化という言葉に、お客さまも営業マンも反応せざるを得なくなるなか、実は自分たちもお客さまに手持ちで案内できるツールを持っていたと気づいた感じです。
【Q】今後の目標と受発注業務の未来について
岩田 今年度は60%のデジタル化に目標を定めました。来年度は95%を目指しています。システム活用しながら、お客さまも喜ぶ、社内も喜ぶ状況をつくっていきたいですね。
杉山 目標の高さに驚きました。どうしたら岩田産業様がそれを達成できるか、そして店舗様側にどう理解いただくか、私どもとしては卸売企業様と飲食店様双方のいろんな課題に向き合い、より導入しやすいシステムでサポートさせていただきたいと思います。
石塚 杉山さんは、卸売企業様がデジタル化を進めるうえで留意すべき点は何だと思いますか。
杉山 デジタルでの受発注は、受注側だけでなく発注側の効率化にもつながります。当然ながら飲食店様にとっても、本来の業務は食材を発注することではなく、お客さまへのサービスやおいしいメニューを開発することです。
しかし、アナログで受発注を続けることで、双方が伝票の整理に時間を取られ、本来の業務により多くの時間をさけなくなってしまいます。ですから、そういったメリットを飲食店様にもしっかり伝えてご理解いただいたうえで、業界全体が足並みをそろえてデジタル化を進めていくことが肝要だと思います。
石塚 確かに、そこは外食産業の本質的な部分ですね。それでは「岩田産業飲食応援ドットコム」の導入を飲食店様へ進めていくにあたり、御社が課題だと感じることはありますか。
岩田 課題というか、デジタル化が足踏みしている原因は、飲食店様にこのシステムのメリットを伝える能力が、私どもの営業マン一人ひとりに不足していたからだと思います。それに気づいて、昨年から新人も含めて、システムを説明するだけでなく、実際に操作してみることを始めました。そうすれば、システムを導入したお客さまの質問にもお答えできるからです。
その結果、入社1年目の新人がいきなり1か月で8件のお客さまの成約をとるという事例が出てきました。きちっと教育をして、営業マンがきちっと学べば、新人でも成果を出せるということが分かったので、本年度は思い切って60%をデジタル化するという目標を掲げることにしたのです。
杉山 岩田社長のお話にもあった通り、コロナ禍のなかで卸売企業様、飲食店様はともに、売り上げ確保やお客さまの呼び込みに大変苦労をされていると思います。とはいえ、それを嘆いてばかりはいられません。現実を受け入れて、コロナとどう共存していくかを考えるうえでも、固定費をいかに削減して収益を上げていくか工夫が必要です。逆に、それができない企業は淘汰されてしまうと思います。
ですから、今こそが業務改革の時ということで、弊社ではリアルな現場感をもって、双方の業務効率をあげるデジタル化の提案とサポートに取り組んでいきたいと思います。
石塚 こういった状況のなかで、何かをしなくてはいけないと思いながら、何をすればいいか分からないという方々も多い。そこを積極的にサポートしてきたいということですね。
石塚 それでは、次に岩田産業様の今後の展望をお聞かせください。
岩田 当社グループは「食を通じて九州を元気に!」をスローガンに掲げております。今後は、コロナ以前から問題となっていた飲食業界の「人手不足」「労働生産性の向上」に加えて、コロナ禍でクローズアップされた「非接触」という課題についても、配膳ロボ、「Exorder」システム(※)、清掃ロボなどの提供を通して、改善解決に取り組んでいく予定です。
また、今年度は新規事業開発推進本部と同時に、衛生環境事業部も立ち上げました。飲食店様の除菌対策など、コロナの時代でも飲食店が一番安全だといわれるような状況を、飲食店様と一緒に創り上げていきたいと考えています。こういったことは、中国の先進的なデジタル化を目の当たりにするにつれ、弊社でも早く導入したいと思っていたのですが、コロナの影響を受け、昨年やっと本格的に動き始めた状況です。
現状は、DXのデジタル化にしか着手できていないので、今後はデジタル化を通して、業務をデータ化しながら、次にデータをどう活用していくかまで進んでいきたいですね。ぜひ、日本の飲食業界におけるデジタル化、DX、さらにはAI化を進めていきたいと思っています。
※「Exorder」…テーブルにメニューを置かず、QRコードを読み込むと自分のスマートフォン上でメニューを見られ、その場でオーダーから決済までができるシステム。
杉山 最近は、DXという言葉が独り歩きしている感もありますが、ちゃんとそれぞれのお店や会社にあったものを選ぶことが大事ですよね。私どももしっかりお客さまと対話して、お客さまにあったものを提案していくことで相互理解を深め、しっかりとサポートをさせていただきたいと思います。