菊地「生産年齢(15~64歳)人口は、2015年で7,600万人ほどいましたが、2040年には5,500万人になります。2,000万人も減り、この数は東京・神奈川・千葉・埼玉の全生産年齢人口と同じです。
これだけの労働者がいなくなるということは、労働集約的な産業は相当なインパクトがあると考えなければいけません。すでに今、スタッフが集まらず出店を延期しなければならないことが現実に起き始めています」
さらに、長く続いてきたデフレによる価格低下が、飲食業界をはじめとするサービス産業に問題を残したという。
菊地「デフレによって最も削られたのが、サービスへの対価だといえるでしょう。1990年代前半、訪日観光客は日本の外食は高いと言っていました。それからデフレが続いてきた今、安いと言っています。価格の低下が、何らかのイノベーションが起きた結果ならよいでしょう。しかしそうではありません。モノの価格が下がったのにつられて、サービスの対価もどんどん縮減していったのです。その結果、サービス産業の生産性低下につながったと考えます」
生産性が低下すると、従業員からは「給料が上がらない」、株主からは「利益が出ていない」、取引先からは「値引きしてほしい」、お客からは「商品やサービスの品質が低下した」などと言われ、サービス産業全体の疲弊や閉塞感につながっていく。一例が、運輸業界で起きた労働環境是正の問題だ。この構造的な課題に対して、菊地氏はシンプルに答えを出した。
菊地「この問題に対する答えは、ひとつ。生産性を上げるしかありません」
ロイヤルホールディングスの挑戦的な実験店
ロイヤルホールディングスでは一連の問題を踏まえて、ある実験店を2017年11月にオープンした。東京馬喰町の『ギャザリングテーブルパントリー』という店舗だ。メディアなどでは「完全キャッシュレスの飲食店」と報道され話題を呼んだが、菊地氏によると「イノベーションのプラットフォーム」だという。
菊地「投資をなるべく軽くして、店舗の生産性向上と働き方改革をどれだけ両立できるか考えた実験です」
実験でしたこととは何か、この店舗に導入された3つの試みを解説しよう。
(1)完全キャッシュレス化で最大の“非効率”を解決
お客から見て最も特徴的なのが、現金を使わない対応だろう。菊地氏によると、働き方改革を考える上で、現金が障害になっていたそうだ。
菊地「店舗運営は清掃、発注、棚卸、問い合わせ、報告、トレーニング、いろいろな作業がありますが、この中で一番生産性を阻んでいるものが、現金の取扱でした。つり銭の用意や割引券、金券の処理などです。このため支払い方法に現金はなくして、お客様にはクレジットカードや電子マネーでお支払いをしていただくことにしました」