登壇者
カフェ・カンパニー株式会社 代表取締役社長 楠本修二郎 氏 1964年、福岡県生まれ。2001年、カフェ・カンパニー設立。“コミュニティの創造”をテーマに、代表ブランド「WIRED CAFE」など、およそ70ブランドを展開するほか、地域活性化事業、商業施設のプロデュースなどを手掛ける。2010年よりクールジャパン関係の政府委員を歴任。 | 株式会社トレタ 代表取締役 中村 仁 氏 パナソニック、外資系広告代理店を経て、「豚組」「豚組しゃぶ庵」などの繁盛店を世に送り出す。10年「外食アワード」受賞。11年、料理写真共有アプリ「ミイル」をリリース。13年に株式会社トレタを設立し現在に至る。 | 株式会社トレタ CRM事業本部 本部長 瀬川 憲一 氏 1994年ベネッセコーポーレーション入社。03年に新規事業開発室 サービス開発マネージャー就任。06年クオン(旧:エイベック研究所)にマーケティングリサーチサービス部部長として入社。09年に同社取締役に。16年トレタに入社し、CMO(最高マーケティング責任者)およびCRM事業本部長を務める。 |
飲食業界で起きている、価値観の変化
外食企業が売上を伸ばすには、何をすべきだろうか。多くの経営者は客数や客単価を上げるために多店舗展開、業態開発、メニュー開発を当然のように考えるだろう。しかし今の飲食業界をマクロな観点でみたときに、この価値観が変わってきていると未来総研は指摘した。
中村「私は今48歳でテクノロジー業界に数年いますが、その前は、30歳で飲食業界に入り、10数年間、ずっと飲食店経営を本業としてやっていました。当時、飲食店で成功するには業態開発だという常識が、多くの経営者にありました。私もそう思っていました。ところが、今、この価値観が揺さぶられていると感じています」
これまで飲食業界が業態開発を重視してきた時代を、“商品の時代”と振り返り、業態やメニューだけでなく店舗の空間、接客なども含めて、飲食店が提供するものはすべて“商品”と捉えられるという。
中村「多くのお店は“商品”でした。商品ですから、お客様に消費されます。例えば、ジンギスカンが流行っているから食べに行こう、食べたらおいしかった、次はどこへ行く? となり、一度の来店で店と客との関係は終わってしまうのです。リピートにならないので、店舗は常に新規集客しなければいけません。この先、商品だけで売上を伸ばすやり方は限界に来ていると、私には見えます。おそらく他の経営者もそう感じられているのではないでしょうか」
これまで多くの外食企業が業態開発やメニュー開発を熱心にしてきた結果、飲食店のニッチ化が進み、5坪や10坪などのせまいスペースでお客のニッチなニーズに応える店が増えてきた。しかしこの場合、客は次も来店する動機が生まれないまま、店の利用を終えることになる。
中村「“商品の時代”では、飲食店側の視点で商売していました。これからは“関係の時代”となり、顧客の視点となった顧客体験が重視されます。そこで経営者がすべきことは、価値観の転換です。つまり業態開発ではなく、お客様がどんな体験をして、どんな共感をするかを考えることです」
商品の時代(店舗目線) | 関係の時代(顧客目線) |
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●業態開発 ・メニュー/空間/接客 ・新規性(新奇性) ・消費される関係性 ・点の接客 ●集客 ・新規集客(グルメ媒体) ・一言さん中心のクチコミ ・客単価/目先の売上 | ●顧客体験(CX)開発 ・共感=世界観・価値観・物語 ・永続的な関係性 ・時間軸のある接客 ●集客 ・リピート重視/常連育成(オウンドメディア重視) ・関係性を前提にしたクチコミ ・顧客一人あたり収益(LTV) |
楠本「これから人口減少や少子高齢化が進む中、ビジネスはどうあるべきかと考えると、すごくシンプルに、常連さんを作ることです。半径500メートル以内の人が求めることをするんです。米国の有名な経営学者トム・ピーターズは、経営破壊という本で半径500メートル以内の人たちが望むことをやる、それがビジネスであると説きました」
“関係の時代”に求められるものは、顧客との永続的な関係づくりだ。接客もその日のうちに終わる“点”ではなく、LTV(Life Time Value:その顧客が長期間もたらす売上)を考えた対応が必要になる。そのためには業態開発を第一とするこれまでの価値観を変えなければならない。