激戦区の渋谷で1年に2店舗出せたら“カッコいい”
砂田兄弟が2022年8月に初めて手がけた居酒屋「大人気(おとなげ)」は、コロナ禍にもかかわらず3カ月で月商900万円を達成。その後も順調に売上をのばし、2023年1月には月商1000万円まで成長した。毎日18時から24時までの3回転が、ほぼ満席になる賑わいぶりだ。
2店舗目の「嚔(アチュー)」は、くしゃみと読む「嚔」に、英語のくしゃみの擬音語 “achoo=アチュー”を重ねた。「噂をされるとくしゃみが出る」というように、噂が噂を呼ぶ繁盛店にしたいとの思いからだ。
場所は大人気(おとなげ)のすぐ近く。当初は渋谷ではなく学芸大学の周辺も考えていたが、弟の康太氏によると「たまたま渋谷でビビッと来る物件に出会った」。1年以内に2店舗を出せたらカッコいい。そんな思いで出店を決めた。
砂田 康太氏(以下、康太氏)「渋谷で良い物件を見つけたことに加え、大人気(おとなげ)をオープンした半年後くらいからスタッフが育って人数も増え、僕たちが少し休めるようになったんです。もともと空いた時間に兄弟2人で『この物件が取れたら、どんな業態にする?』みたいな話をよくしていたこともあり、2店舗目への思いがふくらんでいったタイミングでした」
場所は1店舗目と至近距離にあるが、客層は違うと予想した。
康太氏「大人気の周辺は若者が目立ちますが、こちらはオフィスワーカーの方が多いんです。既存のお客様に加え、新規でふらっと訪れた会社員さんなど若者以外にもファンを広げたいと考えました」
コンセプトは、大阪の“カオス”な立ち飲み屋
嚔(アチュー)では噂が噂を呼ぶ店というコンセプトに沿い、店の住所をあえて公表していない。SNSやグルメサイトなどでユーザーが書き込むのは自由だが、基本的には「謎の店」という面白さを大事にしている。目指す雰囲気は、兄弟が敬愛する「大阪の立ち飲み屋」だ。
「大阪の立ち飲み屋特有のアナログで、お客さん同士が横一列でつながりがあってカオスな感じが面白いんです。東京でもそのカルチャーを作りたい」と康太氏。ときには接客しながら、客同士をつなげることもある。兄の砂田 健太氏(以下、健太氏)が考案したカウンターは、途中でカクッと折れ曲がる不思議な形。「お客様やスタッフがいろいろな構図で喋れるように」とのこだわりを詰め込んだ。
スタッフ指導の際も、理想を押し付けることはしない。健太氏は「自分がやりやすいように、お客様を喜ばせられる最大限をやってほしいとだけ伝えます」という。接客は大人気(おとなげ)よりもスタッフによるところが大きく、「お客様との談話を大切にするスタッフもいれば、親身になって恋バナを聞くスタッフもいます。大人気と比較すると、より密なコミュニケーションを取る接客スタイルが嚔(アチュー)の特徴ですね」と康太氏。
スタッフは今や2店舗合わせて32人。大人気(おとなげ)だけの頃と比較すると倍以上に増えた。一貫しているのは「お客様の居心地がいいと感じていただくことと同じくらい、スタッフの働きやすさも大事」という考え方だ。康太氏は「お客様の満足度が高くても、スタッフが楽しそうじゃないと『何か違うね』と思ってしまうんです」という。
激戦区で生き残るための“.5(テンゴ)の業態”
「嚔(アチュー)」は渋谷エリアの中でも飲食激戦区にある。そこで2人が掲げるのが“.5(テンゴ)の業態”だ。
康太氏「このあたりは食べログの評価が3.5以上の繁盛店だらけで、予約困難店も珍しくありません。そのため、1軒目と2軒目をハシゴしようと思っても2軒目がなかなか見つからないということも多々あります。そんなタイミングで、 “1.5軒目”としてフラッと入れるようなお店がコンセプトです。なので、お客様にも気軽なテンションで来ていただきたいですね」
オープン3カ月目で、月商は約400万円。坪月商では50万と好調な滑り出しだが、住所を積極的に公開していないこともあり新規顧客よりもリピーターが中心だ。康太氏は「目標というよりあくまで仮説ですが、月商500万になれば大阪の立ち飲み屋のようなにぎわいやカオス感が出せる」と分析する。TikTokやInstagramを見て訪れる客も多く、今後はお店側の情報発信をSNSやGoogleのビジネスプロフィールを活用して新規顧客を増やしていくという。
康太氏「大阪の立ち飲みで味わえるカオスな雰囲気を目指して、中長期的に長く愛されるお店にしたいですね」
独立したスタッフが作る「イケてる店」こそ、最強のブランディング
飲食の激戦区渋谷で、わずか1年のうちに2店舗を出店した砂田兄弟。今後は「スタッフの独立も後押ししたい」という。優秀なスタッフの卒業は痛手になると思いきや、実は「最強のブランディング」と2人は口を揃える。
康太氏「当店を卒業したスタッフがやっているお店が“イケてる”と評判になって、そのスタッフが元のお店も愛していて…という状況こそ、最強のブランディングだと考えているので、早くそうなってほしいですね。人手不足だからスタッフを囲い込もうという考え方もありますが、独立したい子にとっては引き止められるより、応援される方が何倍もうれしいと僕たちは思っています。卒業しても関係が良いままでいられるのが理想ですね」
優秀なスタッフを囲い込んで10店舗増やすより、独立して1つの “イケてる” 評判店を作ってくれた方が中長期的に見てプラスになる。康太氏は「その方が僕らにとってのカッコいいを体現できる」と、力を込める。
健太氏もまた「独立したスタッフがやっているお店に行って、楽しく飲むのが今の夢ですね」と笑う。砂田兄弟と、大阪のカオスな立ち飲みカルチャーを体現する「嚔(アチュー)」の挑戦はまだ始まったばかりだ。
嚔(アチュー)
開店:2023年5月21日
住所:東京都渋谷区道玄坂1-15-7アネックスサクマ1階
電話番号:なし
営業時間:18:00~26:00(無休)
坪数・客席数:8坪 25人
客単価:3,000円~4,000円
公式SNS:嚔(アチュー)(Instagram)