電子帳簿保存法とは?
経理の電子化による生産性や記帳水準の向上などを目的とし、1998年に施行されたのが「電子帳簿保存法(「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」)」だ。これにより、各税法に基づき、従来は紙での保管が義務であった請求書や帳簿、決算書などの書類が、一定の条件を満たすことで、電子データ(電磁的記録)で保存することが可能になった。この場合の電子データとは、DVD、ハードディスク、コンパクトディスク、磁気テープなどの記録媒体に記録・保存したものを指す。
電子データの保存方法には以下の3つの区分があり、いずれも一定の要件を満たす場合にのみ認められる。
区分 | 内容 |
---|---|
区分1 電子帳簿等保存 | 会計ソフトなどを使用して、最初の段階から以下の書類記録を電子的に作成した帳簿 ・取引先とやり取りした紙の書類(請求書、契約書、見積書、領収書など) ・国税関係帳簿(総勘定元帳、仕訳帳など) なお、「保存義務者」も条件により保存が認められる [参考]国税庁「はじめませんか、帳簿書類の電子化!」(PDF) |
区分2 スキャナ保存 | 取引先から受領した以下の紙の書類を、スキャナで画像データ化したもの ・請求書 ・契約書 ・見積書 ・領収書など デジタルカメラ、スマートフォンでの撮影も可能 [参考]国税庁「はじめませんか、書類のスキャナ保存!」(PDF) |
区分3 電子取引 | メールやEDI(電子データ交換)取引、クラウド、インターネット上からダウンロードなど、電子的にやり取りした取引情報(請求書、契約書、見積書、領収書など) [参考]国税庁「電子帳簿保存法の概要」 |
2022年の改正で、電子帳簿保存法はどう変わった?
高度情報化やペーパーレス化などの時代の変化を受けて、電子帳簿保存法は幾度となく改正を重ねている。最新の2022年の改正では、帳簿書類の保存手続きなどが大幅に緩和されたのが特徴だ。現在は猶予期間中で、完全に義務化されるのは2024年1月からになる。では、今回の改正点について何がどのように変わったのか具体的に見ていこう。
区分 | 改正項目 | 改正前 | 改正後 |
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区分1 | 税務署長による事前承認制度の廃止 | 原則として、電子帳簿保存を開始する3ヵ月前までに税務署長の事前承認が必要 | 事前承認不要 ⇒任意のタイミングで電子データ化記録の保存の開始が可能 |
優良認定の電子帳簿は税金の軽減・控除対象 | 該当なし | 【新】国税庁の定める優良要件を満たして作成された青色申告者(法人)の国税関係帳簿(総勘定元帳、仕訳帳など)や、消費税法に基づく電子帳簿で、なおかつ申告漏れがあった場合 ⇒過少申告加算税の5パーセント軽減措置の対象 ※法定申告期限前に所轄税務署長に所定の届出書の提出が必要 【新】優良要件を満たした電子帳簿を作成し、届出書の事前提出 ⇒所得税の青色申告特別控除(65万円)が適用 | |
電子帳簿の保存要件の緩和 | 該当なし | 【新】正規の原則に基づいた簿記(一般には複式簿記)により記録された電子帳簿で、以下の要件を満たしている場合。 1)使用システムの関係書類(マニュアル、システム仕様書など)が備わっていること 2)保存場所に機器(パソコン、プリンタなど)およびマニュアルを備え、正常かつ明瞭に速やかな出力ができること 3)税務職員の要請に応じて、電子データの閲覧、ダウンロードが速やかにできること ⇒任意のタイミングで電子データ化記録の保存の開始が可能 | |
区分2 | 税務署長による事前承認制度の廃止 | スキャナ保存開始3ヵ月前までに、税務署長による事前承認が必要 | 税務署長の事前承認廃止 ⇒任意のタイミングで電子データ化記録の保存の開始が可能 |
タイムスタンプや検索に関する要件の緩和 | ①タイムスタンプの付与期間は、入力方式に応じて概ね3営業日~最長2ヵ月と7営業日以内 ②書類受領後、スキャン前に受領者の自署が必要 ③帳簿の種類に応じた主要な記録項目による検索(勘定科目、取引金額など)が可能であること | ①入力方式を問わず、最長2ヵ月と概ね7営業日以内 ②書類受領者による自署が不要 ③以下の要件を満たす検索機能の確保 1)取引年月日、取引金額、取引先の項目による検索 2)日付または金額の範囲指定による検索 3)2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件による検索 【新】データの修正や削除を行なったことがわかる、または修正・削除が不可能なクラウドなどを使用し、入力期間内に電子データの保存を行なったことが確認できる場合 ⇒タイムスタンプの付与が不要 | |
適正事務処理要件の廃止 | 適正事務処理要件が必要 ※適正事務処理要件:不正防止などを目的とし、国税関係書類の受領から入力までの手続きを行なうために定める社内規定 | 適正事務処理要件の廃止 ⇒定期検査で必要な紙の原本が不要となり、原則としてスキャン後の廃棄が可能 ⇒2名以上の担当者で実施すべき事務処理を、1名で行なうことが可能 | |
申告漏れなどへの罰則措置 | 該当なし | 【新】スキャナ保存された電子データに改ざんや偽装、隠ぺいなどの不正が行なわれ、それにより申告漏れなどが生じた場合 ⇒10パーセントの重加算税を加重 | |
区分3 | タイムスタンプや検索に関する要件の緩和 | 区分2に同じ | 区分2に同じ |
適正保存に関する措置の見直し | ①所得税や法人税などに関する電子取引に対するデータの紙による保存が可能 | ①電子取引記録をプリントアウトした紙による保存は不可 ただし、消費税における電子取引情報に関する電子データ記録は、出力画面での保存が可能 ※令和5年12月31日までに行なう電子取引については、保存すべき電子データをプリントアウトして保存し、税務調査などの際に提示・提出できれば不問 この場合の税務署への事前申請は不要。 【新】スキャナ保存された電子データに改ざんや偽装、隠ぺいなどの不正が行なわれ、それにより申告漏れなどが生じた場合 ⇒10パーセントの重加算税を加重 |
※【新】:改正後、新たに追加された項目。
[参考]国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」(PDF)
電子帳簿保存法にも対応できる“電子請求書”
2022年1月に施行された電子帳簿保存法において、いちばんの改正ポイントは「電子取引でやり取りした書類は、電子データのまま保存する」という点だ。つまり、今回の改正で恩恵を受けるのは、電子化されたシステムを導入している個人事業主や企業ということになる。
今まで紙で書類を発行していた業者は、これから電子化に切り替えることで大きなメリットが期待できる。そのためにも、まず「電子請求書」の基本的な知識について説明する。
電子請求書とは?
電子請求書を簡単に説明すると、インターネットやEメールなどでやり取りできるよう、電子データ化した請求書のことである。手書きでは必要項目をわざわざ記入する必要があり、またパソコンなどで入力した場合でもプリントアウト、封入、発送などの手間がかかる。これらの作業を軽減し、画面上で作成した請求書をそのまま取引先に送ることができるのが、電子請求書の最大の特長だ。
電子請求書の3つのタイプと特徴
ひと言で電子請求書と言っても、その形態にはいくつかあり、またそれぞれに特徴も異なる。
電子請求書の形式 | 特徴 |
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Eメール配信タイプ | Eメールに添付して送るタイプの請求書で、変換方式には主にPDFが使用される 手軽に作成・送付できるのが長所で、個人事業主や中小企業が採用するケースが多い 短所として、受け手側でプリントアウトが必要、受取状況の把握が難しい、セキュリティ性が低い、などが挙げられる |
ダウンロードタイプ | クラウド上などにアップして送信し、受け手がダウンロードするタイプの請求書 PDF形式が多い 利用するサービスによっては開封のためのパスワードの設定が可能であり、メール配信よりセキュリティ性は高いが、クラウド上での保管期間が決まっている場合が多い |
電子データタイプ | 専用システムまたはクラウド上で請求書を作成し、発行、送付などがワンストップで可能 取引先から領収書などの書類を受け取ることもでき、一元管理ができる。セキュリティも高く、一括配信ができるなど、メリットも多い |
電子請求書のメリット
電子請求書は、紙書類にはないメリットがある。以下に、その代表的なものをいくつか挙げる。
請求書に関係する作業の効率化・コスト削減
請求書に関係する作業の効率化・コスト削減
電子請求書はシステム上で簡単に作成できるため、最低人数の担当者で効率よく作業が行える。発行後はそのままインターネット経由で一括送信が可能であり、印刷代や郵送費、封入の手間などを大幅に削減できる。
取引先が電子化に対応していない場合でも、システム提供会社によっては紙書類の印刷・郵送オプションが付けられるケースもあるので問題ない。
オンラインで送付後、すぐに先方に届く
作成した請求書は、オンラインで即座に取引先に送付が可能。受取側も、すぐに伝票処理に着手できるなどのメリットもある。さらに送信記録が残るため、確実に送付したことが確認できるほか、万一内容に不備があった場合でも、すぐに修正や再送付などの対応ができる。
請求書の受取状況の確認が可能
郵送やEメールで請求書を送付した場合、先方が無事に受け取ったかどうかを確認することが難しい。特に郵送の場合は、天候などの障害、誤配送などの問題が生じることもあり、受け取りの遅延や、最悪の場合は紛失の可能性もある。電子請求書が作成できるシステムには、受取側が開封したかどうかを確認できる機能を備えたものが多くあるため、これらの不安や問題から解放される。
内容改ざんのリスクがない
電子請求書は、外部から内容に手を加えることができない。また内容修正などをした場合でも、その履歴の詳細がステム上に残るため、セキュリティ面だけでなくトレーサビリティも万全だ。
整理、検索、仕訳などの管理が簡単。紛失の心配もなし
作成した請求書などの書類は、自動的にシステムに保存されるため紛失の心配がない。また仕訳などの整理が容易にできるため、例えば、必要な項目や日付などのキーワードを入力すれば、必要な伝票をすぐに呼び出すことができ、作業性の向上に貢献する。
電子請求書システムが電子帳簿保存法対応に最適な理由
電子請求書のよい点は、作業の効率化やセキュリティ面だけではない。電子帳簿保存法の各種条件を満たせば、そのまま提出できる。これにより、面倒な国税書類作成の作業にかかる時間を大幅に短縮できるほか、場合によっては優遇を受けられることもある。
理由①:電子システムで作成した国税関係書類・帳簿は、紙での提出が不要
理由②:会計システムなどと連携させて電子データによる帳簿を作成し、国税庁が定める優良条件を満たしている場合、過少申告加算税の5パーセント軽減措置の対象となる
理由③:同じく優良条件を満たした電子帳簿を作成した場合、税務署に届出書を事前提出することで所得税の青色申告特別控除(65万円)が適用
電子請求書の発行・受取には電子請求書システムが便利
実際に電子請求書の発行や、やり取りを行うには最低でも以下の2つが絶対必要条件となる。
① インターネット環境
② 電子請求書システム
インターネット回線は、書類のやり取りをスムーズに行なうためにも、安定かつ高速なものを選ぶのが望ましい。データ容量も多い方が便利だろう。回線を引く地域や場所、環境などによって条件などが異なるため、まずはプロバイダーや有識者に相談してみるのがいいかもしれない。
電子請求書システムを選ぶポイント
電子請求を発行・受取システムの種類は多種多様である。取引規模などや予算など、自社に合ったシステムを選ぶことはもちろんだが、その際に押さえておくべきポイントについて紹介する。
システム形態の確認
システムには大きく分けてパッケージ型、クラウド型の2種類に分類できる。それぞれのメリット・デメリットを見ていこう。
システムの種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
パッケージ型 端末にソフトウェアをインストールして使用するタイプ | ・ソフトウェアをインストールするだけで使用できる ・購入後は追加費用がほとんどかからない ・使用する機能によってはネット環境が不要 | ・ソフトウェアが高額 ・システムのアップデートが手動 ・バックアップが必要 ・サポートが有料 |
クラウド型 インターネットを経由し、提供するサービスにアクセスして使用するタイプ | ・システムへの導入が不要 ・データの紛失、破損などの心配がない ・常に最新状態のシステムの使用が可能 ・インターネット環境があればどこでも利用が可能 ・バックアップが容易 | ・毎月/毎年利用料金がかかる ・インターネット環境の影響を受けやすい ・既存のシステムと連携できないケースがある ・突然のサービス停止のリスク |
既存システムとデータ連携できるか
既に何かしらのシステムを導入しており、新たに連携させたい場合、互換性の有無の問題が出て来る。導入候補のシステムの選択ができたら、忘れずにサービス提供会社に問い合わせを。
導入後のサポート体制
例えば、システムに搭載されている機能の使い方がわからない、システムがうまく作動しないなど、使用しているうちに問題が起こることがある。またパッケージ型の場合ではシステムのアップデート、クラウド型ではセキュリティやバックアップなどの疑問も出て来ることだろう。必要な時にすぐにサポートが受けられるよう、サービス受付時間などを含めた体制を確認することも、システム選択の重要なポイントだ。
電子請求書システムに求められる機能
では実際にシステムを導入するには、何を基準に選べばいいのか。例として、請求書発行・受取システムにあると便利な機能や条件を挙げるので、システム選びの参考にしてほしい。
・JIIMA(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)認証の「電子取引ソフト法的要件認証制度」取得
・電子帳簿保存法に対応
・インボイス制度(2023年10月から施行)に対応
・インターネット上での請求書の発行・受取
・関連書類(稟議書、領収書など)の添付
・支払通知書の自動発行
・CSV出力で会計システム・販売管理システムと連携
・公共料金(運輸、電話など)などの請求書の自動取込み
・豊富な検索項目(日付、取引先、件名など)
これらの機能や条件を備えた電子帳簿等保存対応の請求書発行・受取システムのひとつに『BtoBプラットフォーム請求書』がある。取引先とクラウド上で請求書のやりとりができるほか、フォーマットが異なる紙の請求書でも、AIが自動的に読み取って電子データ化、保存できる「AI-OCR」機能が搭載されている。
電子請求書の管理はシステム化が現実的
食品卸売業の場合、請求書の発行を含め、大量の伝票処理を行う必要がある。そのため、従来のような紙の書類による作業では、時間や労力がかかるだけでなく、さまざまなミスも起こりかねない。また書類の整理や保管スペースの確保なども必要だ。さらに2023年10月からは「インボイス制度」も始まるため、今後はさらに伝票処理が煩雑化することが予測される。
今回改正された電子帳簿保管法では、電子取引でやり取りした書類を電子データとして保存し、提出ができるようになった。電子請求書システムの需要が増加すると思われるこのタイミングで、電子請求書の発行・受取システムを導入するべきだろう。