食品卸業界が人手不足になる理由
日本政策金融公庫が行った食品産業動向調査によると、卸売業が今後の経営発展に向け取り組みたい課題(3つまで回答)は「人員確保・育成対策」が連続して最多となった。
食品卸業界で人材の採用が難しい原因として「勤務時間が長いこと」が挙げられる。特に生鮮食品卸売業は、日中も取引先からの注文対応に追われるだけでなく、深夜や早朝にかけても長時間労働が強いられる。そのため、求人募集をかけても思うように雇用が進まず、慢性的な人手不足になりやすい。長期的な雇用を目指すには、従業員の労働環境を改善することが先決であり、その対策として業務のDX推進が望まれている。
DXを進めない場合どうなるか
業務のIT化を進めないまま会社の運営を続けていると、以下のような問題が発生するおそれがある。
サービス品質の低下
食品卸売業界では、取引先との兼ね合いで受発注をFAXや電話で行っている場合も多い。こうした取引方法では、FAXの文字の見間違えや電話対応の聞き取りミス、システムへの入力時などヒューマンエラーが発生する原因が至る所に見られる。また、倉庫から商品を取り出すピッキング作業では、担当者が紙の注文書に従って商品をピックアップする場合、従業員によって作業品質にばらつきが生じるため、作業コストの削減が難しい。
過去の受注内容が把握しにくい
電話での受注では、得意先から「前に発注した商品をください」などと言われることがあるが、担当者によっては、商品を特定するのに時間がかかってしまう。発注データを紙ベースで管理していると、取引先ごとに発注する商品や単位、納品日を把握することが難しく、ビジネスチャンスも逃しやすい。
大手食品卸のIT投資動向
今後、労働人口が減少していく日本では人手不足が好転することは想定しにくい。卸業界の喫緊の課題を受けて大手食品卸企業は業務のDXが進められている。以下は、大手企業が近年発表されたIT投資内容である。
企業 | 金額(年月) | IT投資内容 |
---|---|---|
三菱食品 | 31億円 (2023年3月期) | ・AIによる買掛金・売掛金自動照合の工数削減/RPA活用、AI需要予測による発注自動化・在庫/物流最適化で、2022年3月期は合計12万7,000時間の業務時間を創出。残業時間の削減や顧客課題の解決・価値創造業務に充当。 ・他社の食品卸と連携し、EDIなどの非競争領域を共通データプラットフォームに集約することで、業界全体の効率化とロス削減を目指す活動を推進。 |
日本アクセス | 30 億円 (2024年度) | ・デジタルマーケティング ・AI自動発注 ・配送最適化 ・事務管理DX施策 ・業界共通PF ・新規DX施策 ・物流基盤システム導入 ・情報系ツールの整理・統合 ・ITセキュリティリスクの対応強化 ・DX人材育成強化 |
国分グループ | ─ | 3つのシステム(情報系システム、物流系システム、業務系システム)からなる、独自に構築された情報システムにより、変化による対応、膨大な取引への対応を実現 |
三井食品 | 200億円 (2022年) | ・サプライチェーンにおける情報をSCMデジタルプラットフォームである 「Logistics Value Link」に収集し、蓄積されたデータを活用 ・SCM(サプライチェーンマネージメント)デジタル情報を見える化、デジタル化 |
スターゼン | 約 50 億円 (2023年4月1日 ~2026年3月31日) | ・基幹システム入替え刷新など ・業務・実績の見える化、働き方効率化、 管理会計の在り方の整理 |
日本アクセス
日本アクセスは2022~2025年の経営重点施策の1つにDX推進を掲げ、収益構造改革としてITの整備投資を行っている。 配送コスト増加や、ドライバー不足問題が深刻化していることから、TMS(輸配送管理システム)や動態管理端末などのデータを用いたBIツールを活用している。また、配送におけるKPI(重要業績評価指標)を可視化し、 配送コースの最適化や車両削減、積載率の向上を行っている。
三菱食品
三菱食品は2021年からデジタルを活用した取り組みをデジタルプロジェクトと称し、業務のDX化を進めている。物流ではネットワークのデジタル化を図り、デジタル技術を活用し車両マッチングしている。物流関連のビッグデータを収集し、業務効率化の推進にも力を注いでいる。
食品卸が導入している様々なDX
食品卸が導入している主なDX事例は以下が挙げられる。
ボイスピッキングシステムの導入
冷蔵庫内での厳しい環境下でのピッキング作業時間を短くするため、ボイス・サーバーと双方向の会話(商品の受発注、在庫状況、消費期限など)を行い、作業内容を指示や確認をする。
受発注などのシステム導入
FAXや電話、口頭、メール、LINEなど様々な経路で寄せられる注文をクラウドで受発注する仕組みを導入し、伝票や見積書などの手書き作成を省略することで、ピッキングや配送、在庫管理、請求管理などを効率化する。
在宅勤務の導入
在宅勤務を取り入れて、リモートワークで手配書の作成を行うなどの制度を取り入れる。
FAX注文書をOCRでデータ化して伝票作成
夕方から夜間のFAXによる注文書をOCRで文字を抽出して伝票作成する仕組みを導入し、手入力の削減を図る。
上記のように、現在の卸業界の人手不足、労働環境は重要な課題と捉えられており、改善策を講じることが急務である。
[参考]厚生労働省「いま考えてみませんか? 物流を支えるトラック運転者のこと。」
[参考]農林水産省「第3回働く人も企業もいきいき食品産業の働き方改革検討会 卸売業・小売業における 働き方の現状と課題について(平成30年2月21日)」
他社事例を参考にDXに取り組もう
従業員の負担を減らして生産性を上げる策として有効なのがITを導入した業務改革である。DXの取り組みは人材不足の解消だけでなく収益構造の構築に直結するため、経営面で成長させる施策として有効だろう。既にDX化に取り組んでいる企業を参考にしながら、自社の業務改善に活かしてみてほしい。