旅館・ホテルの人手不足解消対策。カギはIT化と労働環境の改善

最新ニュース2023.04.28

旅館・ホテルの人手不足解消対策。カギはIT化と労働環境の改善

2023.04.28

旅館・ホテルの人手不足解消対策。カギはIT化と労働環境の改善

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観光客数は徐々にコロナ禍前の水準に戻りつつあるが、全国旅行支援やインバウンドの回復に対応しきれないホテルや旅館も数多く存在している。しかし、人手不足は今に始まったことではなく、宿泊施設の従業員の入職率と離職率は他の業種と比較しても群を抜いて高い。

宿泊施設での勤務を志望する人の多くは、おもてなしの精神で顧客を楽しませたいという思いを持っている。しかし、実際勤務すると宿泊業務の勤務形態や労働環境により理想と現実のギャップを感じて離職するといった悪循環が生まれている。ホテルや旅館の慢性的な人手不足の原因と、その改善策について事例を元に紹介していく。

目次

深刻な旅館・ホテルといった宿泊業界の人手不足

参照:非正社員の人手不足割合推移
帝国データバンク
「人手不足に対する企業の動向調査(2023年1月)」
(PDF)より

帝国データバンクが2023年1月に企業に対して行った人手不足に関する動向調査によると、旅館やホテルを経営する企業の約8割が人手不足を感じていると回答した。

正社員が不足していると感じる企業は51.7%で、前年同月から3.9ポイント増加している。また、非正社員の場合は31.0%と、宿泊事業の人手不足は正社員、非正社員ともに5カ月連続で5割超、3割超の高水準を記録した。

参照:非正社員の人手不足割合(上位10業種)
帝国データバンク
「人手不足に対する企業の動向調査(2023年1月)」
(PDF)より

非正規社員の人手不足の割合を職業別でみると、旅館とホテルが81.1%で、正社員と同じく最も高い結果となった。

人手不足が企業にもたらす影響は深刻で、2022年のデータでは、人員不足によって倒産した企業は140件に上り、2019年以来3年ぶりの増加となっている。

参照:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年1月)

旅館・ホテルの人手不足の原因

では、旅館・ホテルといった宿泊業が慢性的に人手不足な原因はどこにあるのか。

厚生労働省が公表した令和3年の1年間の労働移動者のデータを見ると、宿泊業・飲食業の入職率は23.5%、離職率は25.6%で、他の職種と比較しても群を抜いて高い。つまり、宿泊業と飲食業は出入りの激しい産業だといえる。宿泊施設で勤務したい層は一定数いる一方で、短期間で離職してしまうのには、実際に入職した際に理想との大きなギャップを感じたことにある。

参照:ホテル・旅館への就職動機  独立行政法人 労働政策研究・研修機構
「日本労働研究雑誌2019年7月号(No.708)宿泊業従事者の就業意識─その特徴と課題(PDF)」より

ギャップを感じる主な原因として「労働処遇条件」「職場の人間関係」「教育・研修」「顧客との関係」の4点が上げられる。「労働処遇条件」の中で上げられたのは、長期休暇の取得が困難なことや、夜勤などの長時間労働が強いられるのに給与が低いということである。

また、教育や研修の機会が少ないことへの回答も見られる。旅館やホテルに就職した際には研修を受ける場合が多いが、それ以降、スキルの向上を目的とした指導を受ける機会を設けることが難しく、社員教育がしっかりなされている企業が少ないことが要因といえる。

他に挙げられた主な離職理由は、クレーム対応などに精神的なダメージを感じることである。自身が対応した顧客から感謝の言葉を掛けられて、仕事へのモチベーションが上がる一方で、理不尽な思いをする機会もあり、そうしたストレスのケアも環境の整備としては必要となる。

参照:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況(PDF)」

参照:就職後に感じたギャップ 独立行政法人 労働政策研究・研修機構
日本労働研究雑誌2019年7月号(No.708)宿泊業従事者の就業意識─その特徴と課題(PDF)」より

旅館・ホテルの人手不足の改善事例

他業種と比較すると高確率で離職者がいる宿泊施設だが、そうした状況を打破しようとさまざまな企業で職場環境の改善が行われている。ここでは主にITを導入し、顧客対応の労力を軽減した旅館の取り組みを事例として紹介する。

1960年創業の老舗旅館によるDX~新鉛温泉 愛隣館

岩手県花巻市にある1960年創業の老舗旅館の「結びの宿 愛隣館」は、2019年から受発注業務をIT化し、従業員のアナログ業務を削減した。

軽減税率制度の導入時に『BtoBプラットフォーム受発注』を導入し、経理の事務作業と厨房の食材の発注作業に活用している。従来はFAXで発注作業をしており1~2時間ほどかかっていたが、今では15分ほどで発注業務が完了できるようになった。発注内容の変更等もデータ化されるため、仕入れ先とのやりとりがペーパーレスで簡略化され、業務にかける労力と時間が大幅に削減された。

さらに、公式ホームページとPMS(宿泊管理システム)と連動させ、オンタイムで予約管理できるようシステムを設計するほか、チェックアウト時の自動精算機、タブレットによるチェックイン管理などを取り入れ、顧客対応に関する業務を軽減した。ITの活用によって従業員が行っていた無駄な業務を省き、削減した時間を顧客へのサービスに振ることで、顧客満足度を上げている。

関連記事:毎月の経理作業8時間を半減。老舗旅館の業務IT化~新鉛温泉 愛隣館

社員と問題点を共有し、IT化により解決~道後プリンスホテル

愛媛県松山市の道後温泉にある道後プリンスホテルは、2019年3月からホテル内の業務を徐々にIT化し、経理業務に使っていた労力をホスピタリティ業務の向上にあてた。

道後プリンスホテルでは、予約管理以外の事務をすべてアナログで管理し、従業員が深夜まで入力作業を行っていた。また従業員同士の伝達ツールは紙と電話で、伝達漏れなどが頻発していたという。この現状を受け、ITツールの導入を推進しようとするも、従業員からは反対の声が上がった。そこでIT化を無理に進めるのではなく、数年かけて着実に変えていく方向性にシフトしたという。

同社では、順番に以下の5つの点をIT化していくことにした。

1. 清掃スタッフへの清掃指示のIT化
2. 仕入れ作業の受注システム導入
3. レストランのオーダーシステム導入
4. お客様アンケート収集システム導入
5. 勤怠システムのクラウド化


従来は、チェックアウトして退室した顧客情報は、フロントに集約されていた。そのため、清掃作業を行う従業員とフロントスタッフの情報共有がリアルタイムに行えていなかった。この問題を解決するためにGoogleスプレッドシートを導入し、清掃スタッフはタブレットで清掃可能な部屋をチェックできるようになったという。

また、IT化に積極的ではなかった料理長に、若手従業員の育成として、受発注システムの導入を提案した。経営者の意向でIT化を進めるのではなく、テクノロジーの活用で得られるメリットを、従業員と分かち合いながら共にIT化を進めていくことが成功のポイントだという。レストランのオーダーシステム導入によって、これまで深夜までかかっていた手入力作業がなくなり、従業員の工数も削減された。

関連記事:宿泊業界で離職者が多い原因と対策、IT化とおもてなしのバランス~道後プリンスホテル

月末の事務作業を効率化し、人件費を削減~河口湖第一ホテル

南国リゾートをテーマにした山梨県の河口湖温泉郷にある「風のテラス KUKUNA」では勤務時間の見直しやジョブローテーション、受発注システムの導入により、従業員の職場環境の改善を図った。

以前は、月次決算の度に一週間ほどかけて納品伝票と請求内容を一枚ずつ照合していたが、現在では納品データをCSVにして会計ソフトに流し込むだけで済んでいるという。月末にはデータがすべて揃った状態になるため、従来は専任で経理担当を2人配置していたが、他業務との兼任制にした。

加えて、旅館業の旧来の勤務形態である早朝出勤・中抜け・夜遅くまでの勤務といった形態の見直しをし、現在は1人の従業員がフロントやレストラン、清掃など、幅広い業務に従事し、中抜けの時間を作らないマルチタスクシフトを取り入れている。

関連記事:勤務スタイルの見直しとIT活用で、平均年齢28歳の若手が定着~河口湖第一ホテル(KUKUNA)

ホテル・旅館の人手不足をDXで解消

ホテルや旅館の離職率の高さの原因は、旧来型の勤務形態である長時間労働や、長期休暇の取得の困難さなどといった労働条件に関することへの不満や、接客対応での疲れやクレーム対応での苦慮などが挙げられる。

一方で、労働環境問題に目を向けて、受発注業務をIT化し、従業員の無駄な労力を削減したり、早朝出勤・中抜け・夜遅くまでの勤務といった形態を見直したりして、従業員が能力を発揮し、健康的に働ける環境作りに取り組む企業も少なくない。ホテルや旅館業務に従事したい人の多くは、接客好きで顧客を笑顔にしたいという志を持っている。ホスピタリティ精神を持つ従業員のその想いを実現できる職場環境に整えていくのが、経営者の役割なのかもしれない。


ホテル・旅館の経理業務を楽にする『BtoBプラットフォーム受発注』

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