日本酒輸出額が13年連続で過去最高を更新。輸出に関わる免許と輸出方法

最新ニュース2023.05.01

日本酒輸出額が13年連続で過去最高を更新。輸出に関わる免許と輸出方法

2023.05.01

日本酒輸出額が13年連続で過去最高を更新。輸出に関わる免許と輸出方法

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2022年度の日本酒輸出の売上総額が13年連続で記録更新されている。海外から「sake(サケ)」として需要が高まる日本酒の輸出を、これからどのように行っていけば良いのだろうか。

今回は、令和3年度に新たに申請受付が開始された輸出用の日本酒製造免許に特化した「清酒製造免許制度」について解説し、主要な輸出先の国ごとに気をつけるべきポイントを紹介する。

目次

日本酒の輸出額が13年連続で過去最高を更新

参照:日本酒造組合中央会「2022年度日本酒輸出実績

2022年度 日本酒の輸出金額(億円)

全国約 1,700 の酒蔵(日本酒、本格焼酎・泡盛、本みりん)で構成される日本酒造組合中央会は、2022年度の日本酒輸出の売上総額が474.92億円(数量35,895キロリットル)に上り、13年連続で新記録を達成したと発表した。最も輸出量が多い中国では、約141.6億円に達し、特に若者や富裕層の間で高級酒として人気を集めているという。

輸出金額が第2位のアメリカ(約109.2億円)と第3位の香港(71.1億円)の三カ国で総輸出額の67.8%と大半を占めているが、インバウンド需要の高いマレーシアやベトナム、タイといった東南アジア諸国でも、日本酒の人気は右肩上がりだという。

また、1リットルあたりの輸出価格は2021年に引き続き、2022年も上昇傾向にある。2012年の輸出金額は 1リットルあたり633.0 円だったが、その10年後の2022年には1リットルあたり 1,323.1円と2倍以上となり、現在の輸出金額は国内出荷金額の1割を超える結果となった。中国などでは高級酒として親しまれる一方で、カナダではプレミアム感よりもコストパフォーマンスが重要視されており、低価格帯商品が中心だ。

輸出用清酒製造免許制度とは?

これまでの酒類製造免許であれば、新たに酒類を製造する場合、酒税法第7条に基づき、製造場の所在地の所轄税務署長から酒類を品目ごとに酒類製造免許を受ける必要があった。

また、酒類製造免許を受けるには、免許取得後の1年間の製造見込数量が、酒税法で規定される最低製造数量基準を満たす必要がある。さらに申請者は人的、場所的、経営基礎要件、需給調整要件および製造技術・ 設備要件を全て満たさなければならない。

世界的に日本酒の需要が高まっている中、国税庁は日本酒の輸出拡大に向けて令和2年度に税制改正し、輸出限定の免許である「清酒製造免許制度」を設置することにした。この免許は、一定の条件下で、輸出用の清酒を製造する場合に、一定条件を緩和して付与する制度である。免許取得により、輸出用の清酒専用の酒類製造を新たに設置し、そこで製造した酒類の輸出が可能となった。

輸出用清酒製造免許制度の特徴は、最低製造数量基準の適用がなく、需給調整要件も適用外であることだ。また、輸出用清酒製造免許の保持者が製造する清酒は、海外でのブランディングの確立が目的であるから、原材料の米または米こうじは国内産米のみを使用し、国内で製造、容器詰めしたものしか認めない。

あくまでも海外への輸出品の製造のための免許であるので、商品の日本国内での流通は原則として禁止されている。一方、海外への輸出促進を目指して商談会などで試飲などを無償提供する場合は、国内への課税移出が可能である。

具体的には以下のような事例が挙げられる。

・ 日本国内で開催される輸出のための商談会などで使用する場合
・ 国税局が実施する品質審査などに提出する場合
・ 商社などの輸出業者へサンプルとして提供する場合

参照:税務署「輸出用清酒製造免許の申請等の手引

日本酒を輸出する方法

世界的にブームになっている日本酒を輸出しようとする際には、各国ごとに定められたガイドラインや流通経路などをあらかじめ把握しておくと分かりやすいだろう。

ここでは輸出額が特に多い中国、アメリカ、香港の3カ国に日本酒を輸出する際に注視するポイントを、ジェトロ 農林水産・食品部 国税庁 酒税課が作成した「日本酒輸出ハンドブック」を元に紹介する。同書には韓国、台湾、カナダも紹介されているため、参考にしていただきたい。

中国への輸出

現在、中国における酒類の販売チャネルは、大きく分けて以下の3つに分かれている。

従来型チャネル・実店舗販売のことを指し、銘酒ブランド専売店や飲食店、スーパー、酒類専門などのチェーン店など
・中国ではオンラインでの販売経路が拡大される中、現在でも従来型の販売方法が主流である
ECチャネル・EC販売をベースに、物流コスト削減と配送効率アップを図った末に誕生したオンラインとオフラインの複合型流通モデル
・主に天猫や京東などの大手オンラインショッピングサイトやメーカーのオフィ シャルショップなども購入先として人気を集めている
O2Oチャネル・近年、需要が拡大している販売方法
・オンラインショップで注文を集計し、そこから消費者の居住地周辺にあるオフライン実店舗に商品を発注し、消費者の元へと届けるシステム

 

また、貿易商社を介した輸出では日本の輸出者は以下の手順で手続きが進められる。

(1)日本の貿易商社と商談し、売買契約を締結する
(2)貿易商社は海外のバイヤーと商談し、売買契約を結ぶ。その後、貿易商社から輸出者に商品代金が支払われる
(3)貿易商社は輸出通関業者に通関を依頼し、船腹予約も行う
(4)貨物が無事に到着するとバイヤーから現地の輸入通関業者に通関依頼が行われる
(5)バイヤーから卸売業者、小売業者へと商品が販売され、代金は、バイヤーから貿易商社に支払われる

 

貿易商社を介さずに輸出する場合は、以下の手順で手続きが進められる。

(1)日本側の輸出者は海外のバイヤーと商談し、契約成立したら輸出者は輸出通関業者に通関を依頼し船腹を予約する。一般的には、前払い、または船積み完了後に代金が支払われる
(2)現地に貨物が到着するとバイヤーから通関依頼が行われ、バイヤーから卸売業者や小売業者へと商品が販売される

 

香港への輸出

香港では、2008年に30度以下のアルコールに関する物品税が撤廃されたのを機に、アルコール飲料の消費が加速している。中でも、男性は大吟醸、女性は梅酒や果実酒などを好む傾向にある。

香港での流通経路は、輸入業者から小売業者、消費者の順番で販売されるのが一般的で、卸売業者を介した売買はほとんどない。デパートなどの小売業者が日本から酒類を輸入する場合、香港の輸入業者が酒類の発注や通関手続きや運搬などの業務を一任する。したがって香港で日本酒を扱う小売店は、輸入業者とのやりとりのみで、商品を手に入れることが可能だ。

主な輸入の流れは以下の通りである。

間接輸出
(貿易商社を介した取引の場合)
(1)日本の貿易商社と商談し、売買契約を結ぶ
(2)貿易商社から輸出者に商品の代金が支払われる。貿易商社は輸出通関業者に通関依頼し、船会社に船腹を予約する
(3)現地に貨物が到着次第、バイヤーから現地の輸入通関業者に通関依頼が行われる
(4)バイヤーから卸売業者、小売業者へと商品が販売される。代金は、バイヤーが貿易商社に支払う
直接輸出
(貿易商社を介さない場合)
(1)貿易商社を通さず輸出する場合、日本の輸出者は海外バイヤーと商談する。売買契約が成立後、輸出者は通関依頼を行い、船腹を予約する
(2)支払いの時期は、一般的に前払い、もしくは船積み終了後にバヤーから輸出者に支払われる
(3)現地に貨物が到着次第、バイヤーから現地の輸入通関業者に通関依頼される。バイヤーから卸売業者や小売業者に商品が販売される

 

香港特別行政区では、消費者の安全のために酒類のラベル表記を統一することが推奨されている。規定内容は以下の通りである。

アルコール度数もしくは、その範囲アラビア数字を使用すること
製品名アルコール度1.2%を超えるものは、飲料の名称を英語、中国語、もしくは両方の言語で、ラベルに記載することを推奨
製造者または包装業者の名前と住所英語、中国語、または両方の言語を併用し、ラベ゙ルに記載することを推奨
賞味期限アラビア数字を使用し、年月日の順番が一目瞭然で判別できるようにすること。(例:“YY”“MM”“DD”)
また、中国語( “年”“ 月”“ 日”) の両方で表記しなければいけない
ただし、ワインや、アルコール度10%以上の飲料は賞味期限のラベル表示はしなくても良い

 

また、現地では「通関手続き」と「税関申告書の提出」と「輸出入陳述書の添付」が必要である。

通関手続き輸入ライセンスを取得しても、酒類を輸入する際には税関に保税倉庫からの移動許可を毎回申請しなければいけない

必要書類は、以下の通りである
・積荷目録
・B/L(船荷証券)
・インボイスなどと輸入ライセンス、Removal Permit

ワインやアルコール度数30%以下の酒類の輸入は免税扱いとなり、輸入の際に商品の輸入、保管、移動のためのライセンスや許可取得は必要ない
税関申告書の提出通関申告免除物品以外の物品は、輸入もしくは輸出後14日以内に税関申告書の提出が必要
商品の輸入後、14日以内に税関申告書を出さなかった場合、税関申告時に罰金が発生する
輸出入陳述書の添付が必要全ての輸入商品は、輸出入陳述書の添付が必要
課税商品がない場合でも、その旨を記した陳述書が求められる

 

アメリカへの輸出

アメリカ国内では数百種類の日本酒が販売されている。そのうちの約8割がアメリカ産で、残り2割が日本産である。日本産の日本酒で数多く流通しているのは定番銘柄で、特にロサンゼルス周辺のレストランで好まれているという。

一方、日本酒の消費量が多いニューヨークでは、他店との差別化を図るために珍しい銘柄の日本酒を仕入れようとするレストランが多い。アメリカではアルコール流通に関する独自の規定が定められており、原則として州を越えて酒類を消費者に直接郵送できない。

具体的な流通経路は主に下記の2ルートである。

3 ティア システム
(3-Tier System)

輸入業者もしくは製造者、各州の卸売業者、レストランを含む小売業者は、全て別法人でなければいけない。ただし、日系輸入業者は卸売業者を兼ねるケースが多い

基本的に州を超えた流通が許可されていないため、製造者もしくは輸入者は販売先の州と提携する卸売業者に依頼する必要がある。ただし輸入業者は所在地の州で卸売りも兼任可能

製造者は小売業者に販売可能な卸売業者だけに販売できる。また卸売業者は小売免許を持つ小売業者への販売が可能

コントロールステートと
オープンステート

コントロールステートとは州政府が酒類販売の卸売りや小売を独占している州のことを指す。2018年3月の段階で18州とメリーランドの1郡がコントロールステートに当たる

オープンステートとは、州政府が個人や企業に酒造、輸入、卸売り、小売などの免許を与えている州のことを指す。33州がオープンステートに当たる

 

酒類の輸出事業への補助金の活用

2023年度の予算案では、卸売業者を始めとする酒類事業者を対象とした「新市場開拓支援事業費補助金」が国税庁から給付されている。対象者は、2019年比で売上が減少している企業などである。

1件当たりの補助額は、50万円~400万円で対象となるのは、以下の通りだ。

(1)商品の差別化による新たなニーズの獲得
(2)販売手法の多様化による新たなニーズの獲得
(3)ICT技術を活用した、製造・流通の高度化・効率化
(4)新型コロナウイルス感染症拡大の影響により顕在化した課題への対応

参照:令和5年度予算(案) 新市場開拓支援事業費補助金 (6.0億円) (フロンティア補助金)

また、これから日本産の酒類の輸出業に注力していく企業を支援する「日本産酒類輸出促進コンソーシアム」へ登録をすることで、卸売業者のマッチング支援や輸出に関する情報が手に入る。この制度は国税庁が日本産の酒類を海外展開する企業に対して行うもので、会員登録すると輸出に関するセミナーの開催や、専門家によるコンサルティングが受けられる。

この制度を活用して輸出した酒類製造者からは、「小ロットでも輸出できた」「国内取引と同じようにスムーズな取引が実現した」などという声が上がっている。

2023年4月の段階では、日本産酒類輸出促進コンソーシアム専用サイトの全機能を一時的に停止しているが、登録の希望はメールで受け付けている。詳しくは酒類業の振興に関する主な募集情報|国税庁を参考にしていただきたい。

日本酒を海外へ輸出する際は各国のルールに基づいた手続きを

アジア圏、欧州圏問わず、さまざまな国に「sake」として広がっている日本酒だが、いざ輸出しようとすると国ごとに酒類の取り扱う規制が異なり、新規での輸出は容易くない。

初めて輸出する場合、貿易商者や輸出相手を探すために国内外のバイヤーが集まる展示会や商談会に参加するのも有効な手段だ。また国税庁が管轄する補助金や制度を活用し、輸出の手立てを組み立てていくのも建設的だろう。初めての貿易で不安に思うことを専門家に相談し、そこで得たアドバイスをもとに事業展開していってみてはいかがだろうか。

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