特例措置は2022年11月末まで延長
雇用調整助成金とは、経済上の要因で事業活動を縮小せざるを得なくなった事業主が、労働者の雇用維持を目的として受けられる助成金を指す。自社の従業員を休業や教育訓練、出向扱いにする場合に、該当の期間に従業員に対して支払う休業手当の一部を国から受け取れる制度だ。
2020年初頭から続くコロナ禍に際して、政府は特例措置として本来の助成金の助成率を引き上げ企業の雇用維持を支援してきた。特例措置は数度の延長を重ね、今回も2022年9月末までの期限を11月末まで延長した。ただし、コロナ禍で落ち込んだ経済の回復が徐々に進んでいることや、雇用情勢が改善していることなどを背景に、支給金額が縮小されることとなった。
2022年10月以降の雇用調整助成金
事業者と業況 | 2022年9月末まで | 2022年10月~11月末まで | ||
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助成金の上限 | 助成率の上限 | 助成金の上限 | 助成率の上限 | |
感染拡大前と比べて直近3か月の売上が30%以上減少した企業 | 1日15,000円 | 100% | 1日12,000円 | 100% |
感染拡大前と比べた直近3か月の売上の減少額が30%未満の企業 | 1日9,000円 | 100% | 1日8,355円 | 100% |
参考:厚生労働省「雇用調整助成金等・休業支援金等の助成内容(注)」(PDF)
中小企業と大企業で助成金の上限額に変化はなく、支給の判断基準が直近3か月の売上の減少率である点もこれまでと同様だ。しかし、10月以降は助成金の上限額は引き下げられている。これまで人件費の補填を雇用調整助成金に頼ってきた企業にとっては、助成金の減少によって雇用維持に影響が出る可能性もある。
産業雇用安定助成金は拡充
産業雇用安定助成とは、コロナ禍の影響により一時的に事業活動を縮小した事業主が、在籍型出向により労働者の雇用を維持する場合に、出向元と出向先の双方の事業主に対して助成を行うものだ。
雇用調整助成金の特例措置上限額が引き下げられることと同時に、産業雇用安定助成は支給対象期間が1年から2年、支給対象労働者数の上限が撤廃されることとなった。
出向運営経費
賃金、教育訓練及び労務管理に関する調整経費など、出向中に要する経費の一部を助成。
中小企業 | 中小企業以外 | |
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助成率 | 4/5(解雇なし9/10) | 2/3(解雇なし 3/4) |
上限額(出向元・先の計) | 12,000円/1人1日当たり |
出向初期経費
就業規則や出向契約書の整備費用、出向元事業主が出向に際してあらかじめ行う教育訓練、出向先事業主が出向者を受け入れるための機器や備品の整備などに助成
出向元事業主 | 出向先事業主 | |
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助成額 | 各10万円/1人当たり(定額) | |
加算額 | 各5万円/1人当たり(定額) |
2022年10月以降の制度拡充案
事項 | 現行制度 | 拡充案 |
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支給対象期間 | 1年間 | 2年間 |
支給対象労働者数 | 出向元、出向先ともに1年度あたり500人 | 出向元について上限撤廃 |
出向復帰後の訓練(off-JT)に対する助成(新設) | - | 出向元に復帰後に、出向によって得たスキル・経験をブラッシュアップさせる訓練に対して助成 |
参考:厚生労働省「令和4年10 月以降の雇用調整助成金の特例措置等及び産業雇用安定助成金の拡充について」
助成金の活用をしながら、今できる経営体制の見直しを
コロナ禍による雇用調整助成金の特例措置が制定されて以降、6兆円以上の支給が決定しており、雇用保険の財政圧迫が規模を縮小する要因のひとつと考えられる。12月以降の延長を行うかどうかは10月末までに政府から発表される予定だ。「雇用情勢や感染状況を踏まえ、あらためて判断する」としており、今回のように上限金額を引き下げて継続する可能性もあれば、11月末で打ち切られる可能性もある。
依然として厳しい状況は続いているが、雇用調整助成金や産業雇用安定助成金、IT導入補助金などさまざまな制度を活用しながらもコロナ禍でできる経営の見直しや乗り越える工夫についても考えていきたい。
[参考]
厚生労働省「令和4年10 月以降の雇用調整助成金の特例措置等及び産業雇用安定助成金の拡充について」