2018年12月25日付で発表された外食産業市場動向調査(2018年11月度)では、外食市場の売上は27ヵ月連続して前年を上回っている。外食産業のIPOに詳しい経営コンサルタント井上剛氏(日本フードビジネスセンター株式会社代表取締役)は、市場全体が好調ということではなく、高騰する人件費などを吸収しきれず、各社が値上げに踏み切ったことが、市場全体の売上増につながったのではと冷静に見る。
一方で、2018年の株式市場をみてみると、全市場で100社近い企業が新規株式公開(IPO)した中、外食企業の上場は「横浜家系ラーメン町田商店」などを展開する株式会社ギフト1社のみで、2017年に比べて上場の少ない一年だったといえる。では、2019年は外食市場全体でどのような展望が描かれるのだろうか。上場企業の動向とともにみていこう。
2019年上場企業の予測
外食企業上場の推移をみると、上場の多い年、少ない年と波がある様子が伺える。直近の高い波は2014年から2017年にかけてで、2018年にいったん落ち着いた。その理由のひとつに外資系投資ファンドによる外食企業への出資による上場が、ひと段落したことがあげられるという。上場数が少ない傾向は2019年以降も続くとみられる。
「2019年に上場する外食企業は、1社か2社程度とみています。理由は景気動向の影響だけではなく、人手不足や原材料高騰など、多岐に渡ります。さらに経営者のマインド変化も挙げられます。多店舗展開する経営者であっても、20年前に比べると、現在は上場志向がさほど強くないようです。
上場企業として1,000店チェーンを目指すより、1店舗1店舗を丁寧に作っていきたいという経営者が昔より増えたように思います。また、上場のメリットとして挙げられる資金調達についても、IPOで調達できる資金は数億円程度にとどまるケースもあることが、経営者の上場志向を鈍らせています。
もちろん、上場のメリットは資金調達だけではありません。何より大きいのは信用度と知名度のアップです。新規取引の判断材料にもなりますし、特に若い世代を採用したい外食企業の場合、親御さんの安心感の違いが人材確保の要になるでしょう」
東証が市場再編へ。上場基準の見直しも
2018年末に、東京証券取引所が上場市場の再編を検討していることが報道された。1部上場の基準に、「時価総額が500億~1000億円であること」が新たに追加される案が有力だ。この新基準が適用されると、現在1部で株式を公開している外食企業の多くは、降格することになる。
上場市場の再編は有識者による懇談会で議論されている。企業や投資家の意見を踏まえて、2019年春を目処に報告書としてまとめ、再編案を策定する方針だ。
「実は、風向きは変わってきています。東証1部から降格した企業は、再度1部上場を目指すと思いますが、厳しい条件に萎縮してしまう可能性もあるでしょう。他の市場からの1部への指定替えを狙っているところも同様です。
一方でジャスダックや東証マザーズといった新興株市場は、今回の再編で上場のハードルがあがるわけではありません。また、上場は市場ムードに左右されることがよくあります。たとえば今後は、東京オリンピック・パラリンピックを迎える盛り上がりで、上向きに働く可能性があります。
流れに乗るタイミングを捉えることも大事です。いずれにせよ、株式公開をどう捉えるか、企業ごとに意識の差が出てくると思います」
ただ、東京オリンピック・パラリンピックの開催自体は、外食産業に直接的な需要をほとんどもたらさないだろうとも、井上氏はみている。