再編が起こりそうな業界
では、今後M&Aによる再編が見込まれるのはどういった企業だろうか。
「食品メーカーの中では、引き続き海外企業への買収が増えることに加え、業界再編が進んでいない、日配品や水産加工品メーカーのM&Aが増えてくると考えています。これらの業界は大手企業のシェアが低く、その多くが中小企業です。そのため、市場の縮小や円安による原材料の高騰の影響を受け、安定した経営を続けるのが難しくなってきています。特に漬物や豆腐メーカーは差別化が難しいため、その傾向が強いですね」(玉虫氏)
ほかにも、中小企業ならではの問題もあるという。
「いわゆる後継者問題です。中小企業では経営者の高齢化が進んでおり、後継者不足によるM&Aが増えています。また、長期的な視点から従業員・取引先のためにも、より安定した経営を模索し、大手企業の傘下に入ることを選ぶ企業も増えています」(久保氏)
続いて、卸業界の動きはどうだろうか。
「卸は営業エリアの拡大が、M&Aの理由の一つです。今後はエリアを広げるだけではなく、他社との差別化を図るために、取引先への独自商品の提案や取扱商品のトレーサビリティを公開するなど、付加価値の提供が必要になってきます」(久保氏)
外食企業や小売企業から商品情報を求められた際に、生鮮品の生産地、経由地、配送時間などの商品情報をしっかり提供できるかが、重要となる。そのノウハウを持たない企業が、ノウハウを持つ企業と合併する動きも出てきている。
TPPや円安など、日本企業を取り巻く環境
アメリカの離脱が予想されている、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の影響はどうだろうか。
「TPPの今後の先行きは不透明ですが、海外から原材料を輸入するメーカーにとっては、TPPは追い風になる可能性があります。コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖の重要5品目以外の関税が撤廃されると、海外からの原材料調達においてコスト面のメリットが期待できます。今後は、安全性、調達のルート等が課題になるかもしれません」(久保氏)
原材料を輸入している企業にとって悩ましいのが、原材料の値上がりだ。近年、中国・インドの発展により、世界的な食材の取り合いが起こっており、原材料の高騰が続いている。そこに拍車をかけるのが、最近の円安傾向だ。
「これからも円安が長期的に続くようであれば、購買力が弱く、業績が苦しくなった企業が譲り受け先を探すような、救済型のM&Aも増えてくると思われます」(玉虫氏)
大手企業はもちろん中堅企業も、海外市場を目指すところが増えてきた。中小の中にも、自社だけでは海外進出が難しいと判断し、すでに海外へ進出済みである大手の傘下に入る企業も出てきている。2017年以降も活発な動きがありそうだ。
取材協力:山田ビジネスコンサルティング株式会社