生産者と飲食店をつなげて生まれる相乗効果
【Q】全国の産直野菜を取り扱われていますね。
代表取締役 田川浩子氏(以下同):私は前職では商社に勤務しており、流通の仕組みを見てきた経験がありました。2007年に独立する際、何を取り扱うか考える中で生産者とのつながりが増えたことで、産直野菜を手がけてみたいと思ったのです。生産者が土作りからこだわった野菜を、旬の状態で、かつ適正な価格で流通させたいという想いがスタートのきっかけでした。
現在は東京都中央卸売市場の大田市場で青果卸として拠点を持っています。配送対応エリアは1都3県、取引先の多くは個人飲食店です。全47都道府県から仕入れており、市場外流通の産地直送青果が8割、残り2割は飲食店から指定された野菜などを市場内から調達しています。
希少な野菜でも欠品させないように、月間100件以上の各産地の生産者から少しずつ時期をずらすなどして仕入れを回しています。また、価格変動をできるだけなくすためにシーズンごとに販売価格を固定しています。そのほうが飲食店にとっては原価管理がしやすいですからね。
一方で飲食店のオーナーを産地にご案内して、直接生産者の仕事を見ていただくことにも力を入れています。お互いに知り合うことで、「あの人が作った食材だから、もう少し工夫して使ってみよう」と、飲食店での歩留まりを改善する機会になりますし、生産者にとっても出荷先が見えるということはモチベーションにつながります。
完全デジタル化せざるを得なかった業務課題
【Q】DX推進の背景に、どんな課題があったのでしょうか?
八百屋の2代目でもなく経験もない、まったくの新参者としてこの業界に入ってきた私には、当初から独特な商習慣が当たり前になっていることに違和感がありました。
例えば、注文は電話で受けるのが当たり前で、そのために夜間の発注を受けるための留守番電話が必須です。そのような商習慣を変えていきたいと思ったのがきっかけです。
そのために当初からDXを進めてきました。インフォマートの『BtoBプラットフォーム 受発注』を導入したのもその一環です。『BtoBプラットフォーム 受発注』は、おもに外食チェーン店からの受注に使っています。販売管理に使っている基幹システムとデータ連携できる点で、もっとも親和性が高かったのがインフォマートのシステムだったのが導入のきっかけです。
とはいえ、インフォマートの受発注システムをお使いいただいてない飲食店さんも多く、FAXでの発注は辞められません。そのため、帰宅した深夜にクラウドFAXで受注した注文書を手作業で処理したり、事務代行サービスに受注業務をアウトソーシングしたりしていました。それでもFAXの読み間違えなどがあり、課題は残っていました。
そんな中でコロナ禍となり、完全なデジタル化を進めることにしました。受注は卸売の大事な仕事ですが、多岐にわたる業務のなかで手間をかけるべきことではないと私は考えています。そこで、飲食店さんがLINEを使って発注できる受発注システム『TANOMU』の導入を決めました。
そうして、受注の方法は受発注システムのみとして、電話やFAXでの受注はお受けできませんと飲食店さんに通達して回りました。それでも、取引先から反発を受けたことはありませんでした。『TANOMU』に関しては、LINEの普及率が高かったこと、ITに不慣れな方でも問題なく使えたことで、むしろ取引先様には喜んでいただいた印象です。導入時のサポートが十分だったことがトラブルなく稼働できた理由として大きいと思います。
おかげさまで、いまでは当社のデジタル受注率はほぼ100%です。電話受注もFAX受注もなくなりました。
受注から発送手続きまでDXし、人的ミスや手間を削減
【Q】受発注システムの受注処理について教えてください。
『BtoBプラットフォーム 受発注』や『TANOMU』で受注した商品、納品先、納品日、金額などの取引情報をCSVデータで抽出し、基幹システムにCSVデータを読み込ませています。手入力の手間や間違いを無くすことが一番の目的です。
受注業務が省力化できたので、今度は発送処理も軽減させようと欲が出てきました。2024年12月には、『BtoBプラットフォーム 受発注』での発送処理を一括実行するため、オプションの発送アップロード機能を導入しました。せっかくデータ処理したものを取引先の飲食店に発送する際に、一件ずつ手作業で処理していたのでは意味がありません。CSVデータをアップロードすることで一括処理できるので、ここもDXしようと考えました。
さらに、ピッキング業務に音声ピッキングシステムを採用しました。これまでは紙を片手に目で見てピッキングする方式でしたが、これではピッキングの段階で間違いが起きてしまいます。せっかく受注業務をIT化しても、これでは完結できません。
そこで受注データを音声で流し、スタッフはそれを耳で聞きながらピッキング作業のみに専念する方式に切り替えました。両手が空くことにより、ピッキングしながら手元で仕分け作業を行い、荷造りまでの業務がスムーズにできます。これができるのも、受注情報をほぼ100%デジタル化しているからです。
『TANOMU』は優秀な営業担当者
【Q】そのほか便利になったことはありますか?
受発注以外では、『TANOMU』の販促機能も活用しています。当社では入荷したおすすめ商品情報や珍しい野菜の調理方法、おいしく食べる方法などの情報を飲食店さんに発信して、メニュー開発にお役立ていただいています。います。同じ画面から発注もできるので便利です。飲食店さんの売上アップ以外にも、取引先の飲食店に情報提供することで関係性を維持することが営業面で重要だとすれば、『TANOMU』は優秀な営業担当者として活躍しているといえるでしょう。
今後の展望について
【Q】DXへの取り組みに関して今後の目標はありますか。
各種の効率化を進めたので、いまのところ社内業務のDXはある程度達成したと考えています。請求書業務の自動化がまだですが、これも各種サービスで補っていけるでしょう。
あとは生産者からの仕入れのIT化が課題です。仕入れのIT化は、生産者にシステムを導入していただく必要があるので簡単には進まないと思います。ですが業務の効率化、あるいは働きやすい環境を作るにはIT化が近道であると考えており、その事情は生産者も同じはずです。
生産者と一丸となってIT化を推進することで、生産者の負担も減り、活用することでさらなる販路拡大や生産品の拡充にも繋がっていくと考えています。そのなかで私たちは、自社でしか取り扱いできない商品や生産者とつながりを広めていきたいですね。
株式会社マチルダ
設立:2007年4月10日
事業内容:農産物の販売、生鮮食品、保存食品、加工食品の卸売り及び販売、全国レストラン業務用卸
代表:代表取締役 田川 浩子
本社所在地:東京都大田区東海3-2-6 大田市場青果棟南側2F
公式ホームページ:https://matilda.tokyo/