宿泊業界の未来につながるDXとマーケティング経営~宿泊業のスマート化研究会セミナー

セミナー・イベントレポート2023.03.14

宿泊業界の未来につながるDXとマーケティング経営~宿泊業のスマート化研究会セミナー

2023.03.14

宿泊業界の未来につながるDXとマーケティング経営~宿泊業のスマート化研究会セミナー

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日本能率協会は、2月上旬に外食・宿泊・レジャー業界に向けた商談専門展の「第51回国際ホテル・レストラン・ショー(HCJ2023)」を開催し、その中で産学連携の「宿泊業のスマート化研究会」による2部構成のセミナー「宿泊業のスマート化研究会が構想する、未来の宿泊業のあり方」を開いた。

ホテル・旅館の事業者やIT支援企業、大学准教授らが宿泊業界における慢性的な人手不足の解決や顧客体験価値向上などのマーケティング戦略について議論を交わした。その内容をお伝えする。

目次

[第1部]ホスピタリティDX「宿泊施設(ナカ)の未来を考える」

東洋大学国際観光学部 徳江順一郎 准教授日本ホテル株式会社 執行役員 兼 メズム東京 総支配人 生沼 久 氏aipass株式会社 COO 山田真由美 氏
東洋大学国際観光学部
徳江順一郎 准教授
日本ホテル株式会社 執行役員 兼 メズム東京 総支配人
生沼 久 氏
aipass株式会社 COO
山田真由美 氏
大学院在学中に起業し、飲食店の経営やマーケティングのコンサルティング、内装デザイン事業等を手がけ、2011年度に同大学着任。
著書は『アマンリゾーツとバンヤンツリーのホスピタリティ・イノベーション』『ホスピタリティ・デザイン論』『ブライダル・ホスピタリティ・マネジメント』『宿泊産業論』『ホテル経営概論』『ホスピタリティ・マネジメント』 『セレモニー・イベント学へのご招待』など。(同大学公式HPより抜粋)
1994年『ウェスティンホテル東京』の開業メンバーとしてキャリアをスタート。2008年から『シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル』にてフロントオフィスマネージャーや宿泊部長を歴任し、2016年には副総支配人になる。在任中にシェラトングランドホテル広島の開発準備室プロジェクトマネージャーを務め、2017年には日本初進出のライフスタイルブランド『モクシー東京錦糸町』の総支配人に就任。2018年日本ホテル株式会社に入社、2019年同社執行役員、『メズム東京、オートグラフ コレクション』の総支配人に就任。2011年神戸大学発達科学部卒業。新卒で株式会社フォトクリエイト入社。インターネット写真販売プラットフォーム事業に携わる。2017年宿泊業へ転職。宿泊施設の新規開業を行い、副支配人として従事。宿泊業界の旧態依然としたシステムに疑問をもち、2018年からホテル運営会社でホテルのシステム開発にPMとして従事。2020年1月より創業メンバーとしてCUICIN株式会社(現:aipass株式会社)に参画。 現在、様々なDXプロジェクトに参画し、新しい旅行体験づくりに取り組んでいる。

 

東洋大学の徳江氏は、冒頭で宿泊産業の大きな課題として人手不足を挙げ、その原因のひとつとしてスマート化が遅れている点を指摘した。その後、「メズム東京」の総支配人を務める生沼氏と、宿泊・旅行を中心としたオフライン体験のDXに取り組むaipass株式会社の山田氏による議論が行われた。

DXにより業務内容を標準化し、多様な人材が活躍できる職場に

生沼「人材不足は国内だけでなく、グローバルでも生じている問題です。我々は宿泊業がいかに魅力ある仕事であることを発信するのかが重要です。一方、テクノロジーをどのように活用するかも考えるべきです。メズム東京では、人手不足を補うためにリネン配送ロボットを利用しています。

また、国内では物価高、海外ではインフレとなっています。その中で、国内のホテルがどのように適正価格を展開できるかが課題です。宿泊価格をどのようにプロットしていくのか。どうしたら少し高い価格でもお客様が納得して宿泊いただけるか価値創造し、ブランディング化していくことが非常に重要です」

徳江「人材と価値創造というキーワードをいただきました。価値創造、業務の革新といった部分では、山田さんはどのような知見がございますか?」

山田「システム側からいかに支援していくかというと、ひとつは多様な人材を受け入れられるよう経験者しかできない業務を減らして、業務を標準化していくことが考えられます。加えて、どのお客様にどう接客したらよいのか即時で分かるシステムを誰でも使えるようにすることで、接客を支援して体験価値を高めていき、価格を上げていくようなプラスのスパイラルを作っていくことが必要だと思っています」

生沼「こういった話では、いかに省力化していくかという話になり無機質になりがちです。しかし、ホテルはワクワクする場所です。体験価値をどう導入できるかという話は議論したほうがよいと思います。例えばゲストスペースでは、トランザクションをどう減らすかという問題があります。今はアプリでチェックインする技術などがどんどん進化していて、様々なプラットフォームができています。

テクノロジーによるバックアップが非常に重要で、ロボットの導入や、事務的なルーティーン業務をデジタル化することは皆さんも取り組んでいると思います。特にロボットの活用はまだまだポテンシャルがあると思っています。ただし個人的には、ロボットを使う場合はなるべくお客様の見えないところで使い、従業員をお客様の前に出していけるような環境にしたいですね」

徳江「ロボットを導入して省力化するからこそ、しっかりとお客様に対応していくということですね」

山田「大前提として、何を効率化すべきかという点が重要です。その中で宿泊施設が提供するサービスのどの部分がゲストの満足度に寄与して、どこが寄与していないかを切り分けた上で、すべての業務を事務とホスピタリティに分ける必要があります。

例えば、紙に書くといった事務作業は、お客様にとっても事務作業なので、そうした部分を効率化することは、顧客満足度の低下にはなりません。人間だと一対一でしか接客できませんが、ツールを使うと複数人に対応できるようになります。この点はデジタルを活用する利点です。

チェックインの効率化はどんどんトライされてもいいのではと思います。本格的にインバウンドが戻ってきた段階で体制を整えられるようベストなあり方を検証できるとよいですね。部分的なところからでも、まずは始めてみるとよいかもしれません」

徳江「必ずしも全体的に、急に、一気に目指すわけではなく、部分的にも進めておかないとその先には進めないのではないかということですね」

山田「いきなり50キロのダンベルは持てないから、小さいダンベルから持ち始めるのと同じで、まずは課題と思っていることに取り組むことで、解像度が高くなっていくと思います」

生沼「今はスピードが早い時代なので、実績を作るためにメーカーと一緒にリスクをシェアしながら取り組むことが必要だと思います。大事なことは、お客様の利便性だけでなく、働く側も使いやすいものを選ぶこと。いろいろな世代の方が働いていますし、使い勝手が良いものがあるとよいと思いますね」

DXの本質はビジネスモデルを変えること

山田「『ホテルのDXって何?』とよく聞かれますが、DXはPL(損益計算書)を改善して経営課題を解決していくことがベースにあると思います。まずはロスの最小化で、『運営の効率化をしっかりやりましょう』というのがファーストステップになります。例えばデータで管理できていないところをデータ化して蓄積することや、デジタル化できる業務を見つけることです。ただ、それだけだとデジタル化でしかありません。

DXの『X』はトランスフォーメーションという意味です。デジタルを導入することでお客様の体験や従業員の働き方、ひいてはビジネスモデルが変わる。このような変化で売上向上を実現していくことが重要です。業務をデジタル化した次のステップは、そういったことを自社内で答えを見つけていくことだと思います。

ホテルDXとは、売上収益の向上のために既存のビジネスをベースにどういった拡張ができるのか、デジタルをどう活用できるか検討することだと考えています」

徳江「最後に10年後には、どんなスマート化が求められるのか、あるいは実現しているか伺えますか」

生沼「一点目は、無人化、省人化という流れの中に、体験価値をどう加えていくかということだと思います。もう一点は、海外からお客様を呼び込むときに、いかに日本独自の体験をしていただくかということです。10年後にはもっといろいろな技術があって、ホログラムで仮想の人がホテルの中で動くといった世界が間違いなく実現化されます。それをサブカルチャーが世界に届いたように日本らしいテイストで発信し、宿泊施設が新たな潮流をDXのような形で発信できると日本のプレゼンスが高まるのではないかと夢を持っています」

山田「5Gであらゆるものがインターネットで通信する世界になり、個人が当たり前のようにデジタルにつながるデバイスを持っています。皆さんが持っているスマホは認証として使えるので、これからは自分のパーソナル情報を受け渡す端末へとどんどん進化するのではないかと思っています。

例えば、ホテルにチェックインするときにスマホをかざすことで、チェックインだけでなくそのお客様が何回ホテルを利用したかなどの情報を宿泊施設が把握し、それに合わせた接客ができると思います。あとは、過去の宿泊・購買履歴から、『この人はお祭り好きだ』といった情報が読み取れて、地域のお祭りの情報や買い物の情報がお客様の元に届くようなことは比較的早く実現できると思います。すでにウェブマーケティングでは閲覧履歴に合わせた最適化が実現できているので、この流れは必ずリアルにも起こります。

そして今後は、さらにオンラインとオフラインの体験が一体化してシームレスになっていきます。そこで人が対面で接客するのか、もしくはスマホを活用してデジタルでも接客をするのか。シーンや用途などの使い分けによって施設ごとの味が出てくるのではと思います」

[第2部]地域連携推進「地域と宿泊施設との関係性(ソト)を最適化する」

続いて観光地域づくりを促進する一般社団法人雪国観光圏の代表理事である井口智裕氏と株式会社構造計画研究所の川村晃一郎氏が「地域と宿泊施設との関係性(ソト)を最適化する」をテーマに対談した内容を紹介する。

東洋大学国際観光学部 徳江順一郎 准教授株式会社いせん代表取締役、一般社団法人雪国観光圏代表理事 井口智裕 氏構造計画研究所 すまいIoT部 川村晃一郎 氏
東洋大学国際観光学部
徳江順一郎 准教授
株式会社いせん代表取締役、一般社団法人雪国観光圏代表理事
井口智裕 氏
構造計画研究所 すまいIoT部
川村晃一郎 氏
大学院在学中に起業し、飲食店の経営やマーケティングのコンサルティング、内装デザイン事業等を手がけ、2011年度に同大学着任。
著書は『アマンリゾーツとバンヤンツリーのホスピタリティ・イノベーション』『ホスピタリティ・デザイン論』『ブライダル・ホスピタリティ・マネジメント』『宿泊産業論』『ホテル経営概論』『ホスピタリティ・マネジメント』 『セレモニー・イベント学へのご招待』など。(同大学公式HPより抜粋)
1973年新潟県南魚沼郡湯沢町生まれ。Eastern Washington University経営学部マーケティング科卒業。旅館の4代目として家業を継ぐ。
1998年に同級会をターゲットとした新たな宿泊プランを企画し、当時スキー客とビジネス客が中心だった宿を8年間で大幅に経営改善を行った。 また2013年には観光地域づくりプラットフォームである一般社団法人雪国観光圏を設立し、代表理事に就任。(公益財団法人 東京観光財団のHPより抜粋)
構造計画研究所は、大学、研究機関と実業界をブリッジするデザイン&エンジニアリング企業として、社会のあらゆる問題を解決し、「次世代の社会構築・制度設計」の促進に貢献する企業。
2016年にビジネス施設向けのスマートロック「RemoteLOCK(リモートロック)」の提供を開始し、ゲストによるスマートチェックインや、暗証番号・QRコード等によるスマート入室を支援している。(同社HPより抜粋)

 

地域性を見出してブランディング化を図る

井口「これまでの非日常型の観光ではコンテンツ作りを重視していますが、自治体ではその地域の名物料理や世界遺産をアピールしているのに、宿では違うサービスがされていることが多くありました。地元のレストランの店員やタクシーの運転手が言っていることもバラバラで、お客様はどう捉えるのだろうと思います。

私たち雪国観光圏では、そうしたバラバラのコンテンツに地域独自の価値として『雪国文化』というものを紐付けして、ストーリーを作っています。例えば、日本一の温泉旅館になるのは大変でも、雪国分野に根ざした宿作りという枠の中では5本の指に入るかもしれません。魚沼には八海醸造という有名な酒蔵がありますが、その酒造が日本一の酒だと思う方は、ごく一部かもしれません。だけど、八海醸造の酒造りは、雪国の知恵と伝統文化に基づいているのだと発信すれば、地域のストーリーに基づいたものという付加価値が加わります。

地域ストーリーをきちんと据えた上で、自分たちのコンテンツを作ることがビジネスにおいて重要だと思っています。雪国観光圏では、幕末時代の庄屋を移築した客室ryugon(新潟県南魚沼市)を引き受けて、雪を感じる古民家ホテルというテーマを打ち出すことにしました。

もともと歴史と伝統のある旅館として運営していたのですが、このジャンルで戦おうとしたらライバルがとても多いんです。そこで戦うのではなく、あえて雪国をテーマにしたホテルにしようとリノベーションして、古い文化を残しつつも、新しい雪国文化を取り入れてみました。

新潟の雪は、北海道の雪とは違い、湿度を帯びた丸みのある雪です。この形こそがこの地方の雪の特徴なので、形を家具で表現したり、外廊下を作って雪に触れられるような建築にしたりしました。雪に触れられるという体験は、住む人にとっては不便かもしれないですが、地域外から来るお客様にとっては非日常を感じる要素なのです。

ryugonのメインエントランスには土間スペースがあって、そこでは雪国の郷土料理を地元のお母さんと一緒に作るというアクティビティを提供しています。旅館ホテルのエントランスで料理教室をしているところは他にもあります。スペインのサンセバスチャンにあるホテルの地下一階ではバスク地方の料理などをミシュランのシェフが教えています。料理を教えるというアクティビティは地域の暮らしや文化を表現する一番のアクティビティだと思い、ryugonではメイン商品となっています」

リーダーシップを取れる企業がビジネスによって地域を牽引

井口「本来は、地方の温泉街などの過疎地域でもできる観光スタイルだと思っているんですが、日本の温泉地では実現できていません。理由を考えると隣近所にある宿泊施設同士が互いにライバル視してしまうといった課題があるんですね。

DX、IoTなどを上手く活用している地域を挙げると城崎温泉ですね。旅館の基幹システムはバラバラなケースが多く、システム統合できないからデータを集めることが難しいのですが、城崎温泉では地域共通のPMS(ホテル・旅館の宿泊管理や施設運営の情報を効率的に共有・管理するシステム)を使っています。共通PMSがあると自動的にお客様の属性データを引っ張り出せるので、マーケティングのために新たに作業しなくても観光エリア全体でデータを分析できます。城崎温泉では、すでに10件ほどの施設が共通のシステムを入れており理想的な状態ができています」

川村「私がエンジニアリングコンサルティング組織の営業として全国を回る中で感じるのは、地方ではなかなかDXが進んでいないことです。紙の台帳で予約を受け付けている状況の企業であれば、PMSを入れるよりも『まずはデータをエクセル化してみてはいかがでしょう』と提案することも多いです。どういうお客様に来ていただきたくて、どうアプローチするべきかというマーケティングスタイルを考えるためにローデータ(何も手を加えていない調査結果の回答データ)を取ることが一番初めに必要なのではないかと思います」

徳江「私からもひとつ紹介しておきますと、バリ島のアマンキラというリゾート施設で地域の子どもたちが施設の中でお仕事の体験をしている場所があります。また、同じくバリ島のアマンダリでは、近隣に住む子どもたちに踊りを教えて、外から来るお客様に披露して、地域の文化をうまく出しているところが見られます。国内では鹿児島の雅叙苑という施設が敷地内で育った竹などを使って箸置きを作っているほか、野菜も育てています。そうした新しい地域の活かし方も出てきているという点が興味深いと思います。最後にお二人から一言お願いします」

川村「生産性を上げるためにできることは山ほどあると感じております。まずはできることを探してDX、スマート化を進めていき、その上で付加価値にできることを見つけてもらえると嬉しいですね」

井口「これから商売を高付加価値化しようと考えた時、単体の宿でやるには限界があると思います。やはり地域と連携して新しい市場を作っていかないといけないことが大きなテーマにあるので、そこにも目を向けていただければと思います」

ホテル・旅館業のアフターコロナ経営戦略

一般社団法人 日本能率化協会

設立:1942年(昭和17年) 3月30日
事業所:〒105-8522 東京都港区芝公園3-1-22
会長:中村 正己
公式HP:https://www.jma.or.jp/

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