第1部:ゲスト講演~青二才でやってきたこと、やりたいこと~株式会社青二才 代表取締役 小椋道太氏 第2部:ゲスト講演~開店に至る調査と観察~株式会社マイルデザイン 代表取締役 綱嶋恭介氏 第3部:座学~中長期計画の作り方~株式会社カオカオカオ 代表取締役 新井勇佑氏 |
第2部:ゲスト講演~開店に至る調査と観察~株式会社マイルデザイン 代表取締役 綱嶋恭介氏
続いて登壇した綱嶋氏は、「塚田農場」などを展開するエー・ピーカンパニーで執行役員を務めたあとに独立。2019年、東京の経堂で「酒ワイン食堂 今日どう?」を創業し、すぐに繁盛店に成長させた。
コロナ禍にあった2021年には東京・三軒茶屋に、寿司とワインが楽しめる寿司酒場「寿司とワイン サンチャモニカ」を開店し、その後も、姉妹店「寿司とワイン サンフランスシコ」を近隣の学芸大学にオープンさせるなど、数々のヒット業態を生み出している。
ユーモアあふれる店舗名のネーミングが評価され、一部では「ネーミング王子」などとも呼ばれている。
新店開発を多く手掛けた職歴
株式会社マイルデザイン 代表取締役 綱嶋恭介氏(以下、綱嶋):学生時代にアルバイト生活を続けるなかで、「牛角」のオープニングスタッフの一員になったことがありました。まだ接客に興味がなくて、キッチンで料理を作ることを希望していました。
ところが、社内で「パートナーズフォーラム」という、アルバイトの日本一を決める大会で同じ21歳なのに、お店のことを思い、働く人たちがいるんだなと感銘を受けました。
そこから接客に興味を持ちました。その後も飲食店のアルバイトを続けますが、転機が訪れます。かつて勤めていた牛角の店長が独立して、コンサルをやりつつ、飲食店の店長を派遣するビジネスを始め、そこに入社しました。
業務の中で3件目に派遣されたのがエー・ピーカンパニーでした。入社した頃は「塚田農場」が順調に伸び始めてイケイケの状態でしたが、中には売り上げの良くない店もありました。
そういう不振店のテコ入れを任されることが多く、新しい課題を解決する楽しみを知りました。2012年に東証マザーズに上場した頃から、社内では今の業態に代わる新規事業が必要だと叫ばれていて、新規事業として魚の養殖事業を部長として担当します。
ソムリエ資格を取得後、独立へ
綱嶋:そこからの4年間が最もしんどい時期でした。売り上げが上がらない、スタッフの給料も上げられない、アルバイトのシフトを削らざるを得ない。ですが、この悩みの時期があったからこそ、事業の作り方、売り上げの伸ばし方を身につけたのだと思っています。
2016年に成果が出始めたのが評価され、エー・ピーカンパニーでも価格帯が高い分野を部長として任されました。そこではワインの知識が必須になり、ワインというマーケットにとても魅力を感じたので、いい機会だと考えてソムリエの資格を取りました。
その後はミドルアッパー系の業態をまとめる子会社の社長に就任する予定でしたが、一念発起で独立、自分で開業してみようと思い立ちました。半年ほど物件を探し、ようやく経堂にお店をオープンして、今に至ります。
直感型マーケティングとは
綱嶋:店舗をオープンさせるにあたってマーケティングを行いますが、自分は直感型マーケティングが得意なのではないかと考えています。新店開発や逆境経験が多かったからかもしれません。
直感型マーケティングでは、「いつもと違う選択肢」を意識しています。売り上げが悪いお店にいると作業がルーチン化してしまい、新しいことに挑戦できず、ポテンシャルが下がってしまいます。そういうときには、習慣を変えることから状況の打破を考えるようにしています。いつも買うコーヒーや電車の乗る位置を変えるなど、何か小さなことでいいからとにかく自分がいつも選択しない方向に走ってみる。そうすることで拡張した自分に繋がるのではないか、と思っています。
明確な数値を算出するマーケティングではなく、そういう気分的な変化から始めてみるという自分のスタイルを「直感型」と呼んでいます。
自信がないから食べログで徹底調査
綱嶋:経堂で始めた「酒ワイン食堂 今日どう?」というお店のコンセプトは「大人のファミレス」です。地域の人が気軽に立ち寄れるファミレスのような店にしたかったのです。30席のうち15席がカウンターなので1人でも気軽に入れます。価格もワイン一杯490円からとリーズナブルです。
売上は、週1の休みで月450万円ほど。おかげさまでリピーターも50%くらいで、順調に推移している状態だと思います。ですが当初は自信がありませんでした。不安を解消するには、とにかく経堂周辺のマーケットを観察して分析するほかにありません。経堂、千歳船橋、豪徳寺といったエリアのマーケットを分析するために片っ端から食べログを見ました。
客単価が安いところは、500円のビールやレモンサワーがトップに来ます。コースは平均4,500円前後。総合順位で見ると居酒屋はトップ10に入っておらず、基本的にはカレー店か定食屋が多いようでした。そこで、昼の営業も考えなくてはならないかと、いろいろと思い悩みました。
ある時、近隣の飲食店に行った際、食べログでは8位のレストランなのにモルドバのワインを使っていることを知りました。なるほど、この地域はワインに対してポジティブなのかもしれない、というヒントをそこで得たわけです。
コンビニ観察、スーパー観察も効果あり
綱嶋:別のケースとして、一時コンビニを観察していました。街によって行き交う人の層がまったく違うからです。例えば、埼玉・南浦和のコンビニには少年ジャンプが山積みされていました。これが同じ埼玉でも朝霞になると、女性雑誌がたくさん置いてある。高崎ではビジネス本ばかり。これだけで街の傾向がつかめます。
スーパーマーケットも同様で、経堂ではピーコックストアはカジュアルワインでリーズナブル。小田急OXではきちんとしたワインセラーがあって、それなりの値段をとっています。こうしたことを背景にすると、ワインに対してこの街は積極的と見ていいし、いろんな種類を出して喜ばれるかもしれないと考えるようになりました。こうやって出店への不安を解消していくわけです。
2店舗目出店のきっかけ
綱嶋:2店舗目を開店するきっかけは、不動産会社から「三軒茶屋で経堂と同じような業態をやってください」とお誘いいただいたことでした。でも三軒茶屋には居酒屋が多く、調べてみても居酒屋形態はレッドオーシャンだということが分かり、これは難しいのではないかと。焼き鳥や焼肉なども考えましたが、勝てるイメージは湧きません。
そのとき、うちの料理長が寿司を10年やっていたことを思い出したんです。寿司ならいけるかもしれないと。ただ、寿司と日本酒という業態は競合がひしめいています。そこで今度は、寿司の食べログランキングを全部チェックしました。
回転寿司は三軒茶屋ではさほど上位には上がっていません。本格寿司なら、単価は上がるけどクオリティが高くて旨いお店は上位にも上がっています。価格帯としても問題はなさそうでした。
実際に何軒かに行ってみた際の感覚でも、寿司や炭火焼肉は圧倒的に満席で、需要があることが分かったのです。客単価も1万円を超えるところがあって、二極化していることも知りました。食べログでお酒のラインナップを見ても、経堂でやっている業態でも行けそうだということが見えてきました。経堂で学んだエッセンスに寿司を混ぜていくことができるかもしれない。じゃあ、やってみようと。
概要書から見るコスト計算
綱嶋:当時作った概要書では、当初客単価4,000円で設計し、平日20~25万円になればいいと踏んでいました。土・日に2回転するのかどうか不明でしたが、これで700万円ぐらいになればいいと考えたのです。
問題は原価でした。寿司業態は経験がないので想像でしかありませんでしたが、理想は原価率32%で収めることでした。あとは居酒屋風のサイドメニューで原価を下げる工夫をしようと。すべて手探りの予想で、不安ばかりでした。
700万円を売り上げれば10%くらいは残る計算ですが、それでは店を続けるにはギリギリなため、もう少し売り上げを伸ばしたい。そのためには客単価4,000円の設計では難しく、5,000円にした方がいいかなと考えました。
5,000円にするにあたり、「焼鳥塚田」での取り組みを思い出しました。コースとアラカルトについて、丁寧に説明するスタイルにしようと。料理にワインを合わせたいとの要望に、いつでも合わせられるようにしようと考えました。
その上でコースを提案する方向にシフトして、コース料金を5,000円に設定する。そうなればワインのペアリング込みでコースの客単価が8,000円ぐらいに上がります。アラカルトを5,000円に設定すれば、売り上げが800万ほどに増えます。
オープン2週間前に、経堂の常連さんを何組か招き、半額の2,500円で提供しました。その後、Googleアンケートフォームでヒアリングをして、これでいけそうだと感触をつかみました。
とはいえ、確固たる自信がなかったので昼も営業したところ、ありがたいことに昼夜で1,000万ほどの売上になりました。緊急事態宣言が明けた日にオープンした波もあって、順調な結果になったと思っています。
ネーミングは直感で
綱嶋:僕は「ネーミング王子」と言われていますが、実は名付け親は、私の仕事のパートナーなんです。お店を探すときに、例えば「新宿+居酒屋」などと地名と業態で調べます。ごく普通のネーミングでは、上位に上がるのは難しいわけです。
だからインパクトのあるネーミングを心掛けました。パートナーは、そういう言葉のチョイスにセンスがあります。例えば、社内忘年会に「エゲツNight」と名付けるんです。たしかに飲んでへべれけになって、実際にえげつない夜になるんですけど。
彼がネーミングを考え、僕が直感で判断する。B’zの「イチブトゼンブ」、ミスチルの「ニシエヒガシエ」など、カタカナ7文字というのは意外とテンポがいい。三軒茶屋とかけて「サンチャモニカ」と彼のアイデアと僕の直感で決まるまでわずか30分でした。ネーミングだけでなく、SNS対策もしっかりと行い、結果的に食べログの平均スコアで4.6~4.7ぐらいをいただいています。
今後の展望と希望
綱嶋:何か特別にすごいことをやろうとは思っていません。これまで駆け足で運営してきたので、まず内部をしっかり固めていこうと考えています。社員も増え、当初の2人から、社員10人にアルバイトが30人を超えてきました。今まで目の届かない所もあったはずなので、まずは教育とその仕組みを構築することに注力し、商品やサービスの質を上げることに時間を使っていきたいとも思っています。
あとはプロデュースもしていきたいと思っています。実は僕の叔父の店で、小岩に創業50年の町中華があります。御年75歳でまだ鍋を振っているんです。この叔父から、お前やってくれと言われているのです。この歴史ある店で、その歴史をくみ取りながらワインと中華の業態ができたら面白いなと思っています。