第1部:トークセッション~業態・業種展開の秘訣に迫る~高丸聖次氏、小嶋崇嗣氏
株式会社コジマ笑店代表取締役 小嶋崇嗣氏は、吉祥寺で居酒屋「呑・喰・燃じぃま」をオープン。その後、「まんまじぃま」「酒呑気まるこ」「まるこセンター高円寺」、「炉端酒場 だぃつ」など多業態・多店舗展開を続ける居酒屋ヒットメーカーだ。
一方の株式会社5way Kitchen代表取締役 高丸聖次氏は、近年のレモンサワーブームの火付け役として注目を集め、約8坪で月商800万円を売り上げるほどの人気店になった「晩酌屋おじんじょ」をはじめ、2020年には2号店「高丸電氣」、2022年には3号店「祐天寺Bob」をオープンさせている。
―まずはお二方の経歴を教えてください。
株式会社コジマ笑店 代表取締役 小嶋 崇嗣 氏(以下 小嶋):19歳の頃、友達が楽コーポレーションのお店で働いていたんですが、その店に感化されたのが飲食業界に入るきっかけでした。お金がないときに立ち寄ると、店の人の心意気で賄い飯をごちそうになることもありました。それが格好よくみえて、その後すぐに入社しました。最初の3年間はアルバイト、23歳で正社員になり、26歳で店長に昇格しました。
株式会社5way Kitchen代表取締役 高丸 聖次 氏(以下 高丸):私は高校時代に居酒屋チェーンでアルバイトしていたこともあって、昔から飲食業に馴染みがありました。高校卒業後に上京して工務店に就職しましたが、転勤の可能性もあると聞かされて3日で退職しました。その後は飲食業を中心にアルバイト生活をしていた中で、20歳の頃、小嶋さんと同じく楽コーポレーションが運営する飲食店にアルバイトとして入店しました。26歳のときに業務提携先だったフーズサプライサービスに入社しました。
―初出店の経緯や思いを聞かせてください。
小嶋:楽コーポレーションにいた頃、次々と独立する先輩の背中を見ているうちに、独立を考えるようになりました。接客だけではなく調理も学び、責任感を持って仕事をすることで経営的な数字も自然と修得できました。独立する力は楽コーポレーションで培いました。
23歳の頃には、先輩が店を立ち上げることになり社員として異動して10数年働き、34歳で独立して株式会社コジマ笑店を設立しました。それまで様々な場所で店長として働きましたが、店を出すならその街の流れを大事にしたいと思っていました。そのため、なじみのあった吉祥寺で1号店を出店したのです。
高丸:独立までの最初の6年は楽コーポレーションで居酒屋の楽しさを知り、その後8年間は現場主体の経験を積み、最後の2年間は取締役として経営ノウハウを学ばせてもらいました。そして36歳のときに株式会社5way Kitchenを設立し、「晩酌屋おじんじょ」を開業して独立という流れです。
オープンから3年が経った辺りで売上が好調に推移し、この店の最高潮まで店が成長したと感じたんです。これ以上の成長を望むなら次の店舗を作るしかない、という状態になって2店舗目のオープンへと繋がっていきます。
―初出店にあたって、何を一番大事にしてきましたか。
小嶋:基本にあるのは「お客様を第一に考える」ということ。それを実現していくうえで、まずは時間の使い方を大事にしています。段取りをすべて仕込みの時間に落とし込んでいき、営業時間帯には一切仕込みはしないようにしています。
次に大事なのが、人が好きになれるかどうか。接客が苦手でも、「いらっしゃいませ」と「美味しかったですか?」を必ず言ってもらうようにする。そこから会話が生まれます。最初と最後のインパクトをきちんとお客様に味わってもらえることが、僕は居酒屋の空気感を大事にするうえで重要だと思っています。
高丸:コスト意識を大事にしています。たとえば、大衆食堂で300円のトマトを頼んだとして、それをいかにキレイに盛り付けようとやはり300円しか出したくない。
でもうちは大衆食堂ではないので、500円で売りたいと思ったときにはプラスの200円分は努力でしかないわけです。スタッフには200円分の努力がなにかを考えてもらいたいし、行動してもらいたいし、少なくとも何もしないという状況をなくしたい。商品に何をプラスαできるのか。提供するまでの出し方、接し方を考える力を持つことが繁盛店の第一歩だと思っています。
―外食産業で成果をだしているお二人にとって『自分の強み』とは?
小嶋:やはり「人との繋がりを大事にしている」ということでしょうか。独立したときに僕が一番大事だと思ったのはメニューでも場所でもなく、やっぱり今まで繋がってきた人でした。
誰も出店しないような辺鄙な場所に出店して、最初の3ヶ月はお客様も来ませんでした。そんな中、業者さんだったり、昔のお客様だったり、元スタッフだったり、そういった人たちがたくさん来てくれたんです。それが繁盛している店に見えたのか、徐々に地元のお客様が来てくれるようになり、改めて人って大事だなと感じました。
高丸:自分の強みを把握するのは難しいですが、やはり自分は「数字が好き」という点でしょうか。「入り」と「出」が合っているかどうか。あるいは合わせるためにどうしようか、合うようにどう持っていくか考えるのが好きです。
300円のものを500円で売って、ちゃんとお客様に満足してもらうためには絶対的な名物料理をつくるべきなのか、それともコストの安い旬の食材をアレンジしてみるのか。1つの数値を目標にすれば、いろんなことを考えるようになります。結果的に、それがお客様の満足に繋がっていると思っています。
―なぜお二人はヒット業態を作り続けられるのでしょうか。
小嶋:人が生活していくための基本的な感情と一緒だと思いますが、30年間その街生き続けようとしたときに、この街に足りないものは何なのかということが気になります。
僕らは業態を決めて物件を探すわけではなく、大まかに物件を探して、良さそうな物件があれば、じゃあ何をやろうかと考えます。そのとき、足りないものを考えて、そこから実際の業態を模索していきます。
骨格が決まったら、あとは空間作りが大事になります。店舗を出してはいるけれど、デザインや動線の確保の仕方など、詳しいことはまったく分かりません。そこはプロの目線がどうしても必要になります。お金がかかったとしても、店の1つ1つに妥協してはダメだと思っています。独立する人に伝えたいのは自分の気持ちと、それを空間として表現してくれる人が一緒にならないと始まらないということです。
高丸:僕は昔から「お客様にまた来てもらうために、今日何をすればいいか」をずっと考えて行動してきました。「1回行けばいい」ではなく「もう1回行きたい」と思ってもいただきたい。同時に、毎日でも通いたくなるような普段使いができるお店を作りたいと思ってきました。
そのために新感覚レモンサワーやカレー風味のポテトサラダというメニューを考案しました。ゼロベースでアイデアを考え出すのではなく、ずっと変わらない王道の一品に、ちょっと自分らしさをプラスしたんです。この基本的なスタンスは、「おじんじょ」にも「高丸電氣」「祐天寺Bob」にも共通しています。
―今後の展開について聞かせてください。
小嶋:スタッフの独立を応援したいと思っています。社員が独立したいかというのは見えやすいですが、同じように独立を考えているアルバイトもいるはずです。社員であっても、家庭の事情でお金がないという人もいるでしょうし、一人で独立するのは怖いと思っているかもしれない。そんなスタッフが独立しやすい環境を作っていきたいです。
スタッフが出店した店を足がかりに、その地方で協業するようなことになっていくと面白くなります。新しい独立の形を作っていきたいですね。
高丸:僕も会社を大きくすることより、長く続けたいと思っています。さらに地元に愛されて、ゆくゆくは名店になっていきたいという思いがあります。がむしゃらに多店舗出店するよりも、じっくりと人や街、地方と向き合うことの方が僕には合っているのだろうと感じています。
また、僕の想いだけでなく、会社のみんなでやりたい業態というものを探して、きちんと作り込んで、じっくりと展開していけたら面白いですね。
それと、女性を取り巻く環境を整えたいです。飲食業界って、女性が輝けるシーンが圧倒的に多いはずなのに、環境の整理がされていない傾向にあります。結婚して出産しても引き続き雇用し続ける、という形をつくるためのチャレンジもしていきたいと思っています。