第7回外食SX勉強会レポート~ブランド価値の向上、中長期計画の作り方(株式会社シーセカンド富井氏)

セミナー・イベントレポート2022.12.28

第7回外食SX勉強会レポート~ブランド価値の向上、中長期計画の作り方(株式会社シーセカンド富井氏)

2022.12.28
第1部:トークセッション~業態・業種展開の秘訣に迫る~高丸聖次氏、小嶋崇嗣氏
第2部:ゲスト講演~「死なないこと」とブランド価値戦略~株式会社シーセカンド 取締役社長 富井真介氏
第3部:座学~中長期計画の作り方~株式会社カオカオカオ 代表取締役 新井勇佑氏

第2部:ゲスト講演~「死なないこと」とブランド価値戦略~株式会社シーセカンド 取締役社長 富井真介氏

株式会社シーセカンドは、北千住エリアでビストロやバルなど「2538(煮込み屋)」グループ4店舗を展開している。富井氏は社長業と同時に、「2538 kichen DELI coupé(デリコッペ)」の店長として、現場で毎日を過ごしている。

「食の総合企業」になるために自分たちを変えていく

株式会社シーセカンド
取締役社長 富井真介氏

株式会社シーセカンド 取締役社長 富井真介氏(以下 富井):われわれは2010年から十数年、北千住でドミナント展開してきました。コロナ前は神田や門前仲町でも展開していましたが、コロナをきっかっけに元の形に戻そうということで、北千住でガラパゴス的にやっています。

その2538グループの理念は「食を通じてありがとうを広げる」こと。ミッションは、「食の総合企業を作る」ことです。とりわけ「食の総合企業」が何なのかという点は非常に大事だと思っています。自社を「食を軸にした様々な仕事をする企業」と規定して、それに向かって自分たちを変えていきたい、という気持ちがあります。

そのミッションを達成していく上で、重要視していることが2つ。1つは「死なないこと」で、2つめが「ブランド価値を上げる選択をすること」です。

「死なないこと」=土俵を探すこと

富井:「死なないこと」とは自社を倒産させないことです。会社を潰さないために、「負けない土俵を探すこと」と「最大限、人の能力を活かすこと」。僕はこの2つを意識しながら戦略を作ることが多いです。

「負けない土俵を探す」のも「どの業態で戦うか」と「どこで戦うか」という2つが考えられます。よく自社分析をするときに、自社の強みは何ですかという設問があります。ただ、その質問は非常に抽象的過ぎると感じています。その質問には「どの土俵において」という概念が抜けているからです。

僕らが北千住に「ビストロ2538」を立ち上げたとき、自分たちの強みはフレンチの調理技術だと考えていました。ただしそれは僕らが思っているだけで、例えば三ツ星レストランと比べると全く強みではなくなります。

銀座でフレンチを構えてしまっては、僕らの得意なものが強みにはなりにくい。気軽に本格的な料理を、肩肘張らず、テーブルマナーを知らなくても食べられるお店を作りたいと考えると、やはり銀座ではありません。だとすると、北千住の居酒屋さんが多い中でなら強みになるのではないかと考えました。

「死なないこと」=人の能力を活かすこと

富井:死なないための第2が「最大限、人の能力を生かすこと」と考えています。これにも2つあり、1つが「不平等のすすめ」ということと、もう1つが「PDCAが得意なやつには任せない」ということ。この2つを考えながら、人の能力を生かすということを意識しています。

人には得手不得手があって、数字は得意だけど接客が苦手という人もいれば、調理はできるけど数字がまったく分からない人もいます。これを解消するには、苦手な仕事を人に振っても大丈夫な環境を作ればいいんです。

もちろん苦手だから仕事の幅を狭めるという考え方ではありません。人をまとめるのが得意な人には、1店舗だけでなく複数店舗の人事管理を任せてしまう。新たなメニューを開発するのが好きならば、業態の違う他店舗のメニューも考えさせる。それぞれ得意分野が違う人が複数店舗を見ていくという形は理想的だと思っています。

富井:PDCAという管理手法があります。しかし、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)のサイクルは、製造業などの品質管理や生産性向上には向いているかもしれませんが、果たして飲食にも通用するのでしょうか。

今回のコロナでも露呈しましたが、そもそも計画とは様々な要素で変化してしまいます。そのとき大事なのはPDCAを推敲する能力ではなく、状況に応じて判断を変えていくことだと思うのです。

変化が起きたときに、ゴールを変えるわけではなく、ルートを変える。Aルートを考えていたけど、Bルートにするとか。BダッシュのあとにCルートを予定していたけど、ここはEで行こうと、瞬時に判断できることの方が大切だと思っています。

能力的な偏り=不平等をメリットに変えて、PDCAに凝り固まるより捨ててしまうことで、人の能力を最大限に発揮させることを、私は求めていこうと考えています。

ブランド価値を上げる選択とは?

富井:「ブランド価値を上げるための選択をしていく」について、コロナを経験したことで、「いま売上は上がらないけど、ブランド価値を高めるタイミングだ」と感じることの重要性を学びました。

安倍政権当時、コロナ対策の最初の施策のひとつとして全国の小学校一斉休校が行われました。われわれはその決定の翌日から、子供弁当の販売を始めました。コロナ休業を余儀なくされる中での窮余の策でもありましたが、これがヒットしたのです。

続けて「保険証割引」や「アベノマスク割引」などのキャンペーンを次々と打ち出しました。飲食店は協力金をいただいていたので、その協力金の使い道として施策を行ったのです。

こうした取り組みで、これまで関わりのなかった人たちとの繋がりもできました。そして売上には直結しなくとも、ブランド価値を上げることは可能であることを学びました。

ブランド価値を上げる理由の1つは、価格以上の満足度を持っていただきたいからです。そのためには、プラスαのサービスが必要になります。これがファンを作っていくことに繋がる、という考え方です。

求人面でも同様です。いざ人が足りないから、慌てて美辞麗句を並べても、やっぱり響きません。日々発信されているSNSのほうが、良くも悪くも確実に響きます。

今後の展望 ~食に関わる体験を

富井:食に携わる者として、食事のおいしさを体験できる場を提供し続けていきたいと思っています。子供のころに食べた味を、大人になって追体験できることは幸せだと思いませんか。

コッペパンを食べて美味しいと思った子どもたちが、大人になってまたコッペパンを食べたいと思ったときに、ちょっと大人のテイストでコッペパンを食べられる。「デリコッペ」は、まさにそういう場所を提供したくて出した店ですが、こうした店舗作りを今後も続けていきたいと思います。

そして、生涯食に関わることを選択できる環境を作りたいという思いもあります。結婚や出産で飲食の現場を離れて、その後労働時間や夜間営業の時間的制約があって、戻りたくても戻れないというスタッフがこれまでに少なからずいました。

飲食を好きな人が制約なく戻ってこられる環境、どんな世代でも飲食を職業としたい人に選んでもらえる環境を、「食の総合企業」として実現していきたいですね。


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