第7回外食SX勉強会レポート~ブランド価値の向上、中長期計画の作り方(株式会社シーセカンド富井氏)

セミナー・イベントレポート2022.12.28

第7回外食SX勉強会レポート~ブランド価値の向上、中長期計画の作り方(株式会社シーセカンド富井氏)

2022.12.28
第1部:トークセッション~業態・業種展開の秘訣に迫る~高丸聖次氏、小嶋崇嗣氏
第2部:ゲスト講演~「死なないこと」とブランド価値戦略~株式会社シーセカンド 取締役社長 富井真介氏
第3部:座学~中長期計画の作り方~株式会社カオカオカオ 代表取締役 新井勇佑氏

第3部:座学~中長期計画の作り方~株式会社カオカオカオ 代表取締役 新井勇佑氏

第3部の座学では、外食SX幹事を務める株式会社カオカオカオの新井勇佑代表取締役が登壇した。代表幹事である狩野氏による連続講義を受けて、今回は「中長期計画とは何か」「ミッション・ビジョン・バリューの作り方」「戦略戦術について」「CSV経営への統合」について講義が展開された。

中長期計画とは?

株式会社カオカオカオ
代表取締役 新井 勇佑 氏

株式会社カオカオカオ 代表取締役 新井 勇佑 氏(以下 新井):そもそも中長期計画とは、ミッション、ビジョン、バリュー、ビジネスモデル、各種戦略・戦術、施策の実現に向けた会社としての計画のことで、3~5年先を見込んだものを中期、5年以上先のものを長期と呼ばれています。

では、会社の計画はなぜ必要なのでしょうか。それは、会社を取り巻く環境がどんどん変化していくからです。変化に対応するためには、変革・改革・改善というレベルで企業として対応していかなくてはなりません。変わっていくため、生き残っていくために必要だから、中長期経営計画を作らなければならないのです。

トヨタ自動車が生産効率を上げるために常に求めているのが、改善というレベルの変化です。赤字続きだった日産をカルロス・ゴーンは変えましたが、あの変化は改革レベルの変化と言われています。カメラがデジタルに変わったときに、富士フイルムが化粧品業界に進出しました。いわば自らの立つ業界を変えました。あの変化は変革レベルだと言えると思います。

コロナの時代を経て、われわれ飲食の業界も改善・改革レベル以上の変化を求められているという認識が必要になります。

一気通貫の超長期計画

新井:中長期経営計画の全体像は、ミッション、ビジョン、バリュー、ビジネスモデル、戦略、戦術、施策、PDCAと、それらを実現させるための財務計画。戦略と戦術を作るための各種分析から成り立っています。大事なのは、中長期計画を作成する際にそれらの要素がすべて一貫した形で盛り込まれていなくてはならないということです。

「ミッション」は果たすべきこと、やりたいこと。「ビジョン」はその実現のための目標。「バリュー」は行動指針のこと。以上の事柄を分かりやすく説明したのが「ビジネスモデル」で、それをどういう作戦でやっていくかを説いたものが「戦略」です。

「戦略」には、対外的な顧客にむけた外向き戦略と、それを実現するため内部組織に向けたな内向き戦略があります。その戦略実現のために考えなければならないタスク・プロット・アクションが「戦術」で、それを具体化したのが「施策」であり、より細かくしたものが「PDCA」というわけです。

ミッションからPDCAまで、すべてを一気通貫して考えられていなければなりません。そこを見落とすと、例えば客単価が高いステーキ屋さんで居酒屋さんのような元気な接客をすることになります。

内向き戦略のひとつに採用戦略があります。その採用戦略では「フレンチの技術をもったシェフ」としているのに、「いい人だから採用した」といったようなズレが起こってしまいます。

ミッション・ビジョン・バリューの作り方

新井:ミッション・ビジョン・バリューを作成するためには、まずは創業のきっかけ、または社長になるきっかけ、外食産業に入ろうと思ったきっかけを思い出してください。そして次の4つの視点で考えていきます。

それは市場や社会からの視点、自社の組織からの視点、お客様の視点、パートナー企業からの視点です。つまりこの講座で言われている四方よしの視点で、創業のきっかけを考えていくわけです。それを徹底的に言語化して、ストーリー仕立てで書いていきます。

徹底的に自己分析していくと、後で読み返したときに創業のきっかけとミッションがなんとなく繋がっていて、バリューを見ても施策を見ても、どこかで自分の熱い思いとかけ離れていない。自分のストーリーに近いものになっていると感じるはずです。

そうでなければ、言語化とストーリー化がうまくいっていないことになります。再度創業のきっかけに戻って、何度も書き直してみてください。

戦略作りの5つのポイント

新井:どのように戦略を作るのか。様々な企業にヒアリングしたところ、5つの共通因子が見えてきました。

1つ目は、戦略には各領域がありますが、その領域の理解を深めます。2つ目に、各領域の理解ができたら次は戦略の選定をしてもらいます。そして3つ目に各種分析を行った上で、選んだ戦略を自社に合う言葉で戦略にカスタマイズしてください。4つ目は戦略に沿って戦術を洗い出します。戦略を実現するためのタスク・プロット・アクションを洗い出します。そして5つ目に、競合分析を行い、競合と比べて勝ち筋があるかどうかを検証します。

外食産業における9つの戦略とは?

新井:領域には一般的に6つあると言われています。外向き内向き戦略、新規事業の分野展開に関わる戦略、機能強化に関わる戦略、経営基盤強化に関わる戦略、グループ組織に関わる戦略、その他の戦略です。

しかし、この領域のあり方は外食産業では通用しません。そこで外食産業向けに領域のあり方を書き換えてみました。それが次の9つになります。

1つ目が、いわゆる「量の戦略」。マーケット戦略、重点戦略、展開戦略など、次々に出店していくための戦略になります。2つ目がいわゆる飲食店の本質、料理・空間・接客などの「質を求める戦略」です。3つ目が、量と質を結ぶ「サプライチェーン戦略」。4つ目の「その他の戦略」で上記3点を補っていきます。5つ目「プロモーション戦略」は発信増幅する戦略。以降、6つ目に「採用戦略」、7つ目に「マネジメント戦略」、8つ目に「労務戦略」、9つ目に「経理・総務・事務戦略」と続きます。

戦略の選定 ~量の戦略について

新井:この9つの中でも、最初の3項目で、おおむね勝ち筋は決まっていきますので、この主要3項目についてじっくり見ていきましょう。

まずは「量の戦略」における領域について。外食産業の場合は、以下7つの戦略が考えられます。レッドクイーン戦略、マーケットMIX戦略、ドミナント戦略、ランチェスター戦略、ゼロ・トゥ・ワン戦略、ニッチ戦略、スナック戦略がそれに当たります。

レッドクイーン戦略というのは、競い合うことから、共に競争の世界を作っていくための戦略です。争うことでマーケットを共に大きくしていく戦略ですが、マーケットサイズが大きい業種しか有効ではありません。

マーケットMIX戦略は既存マーケットが小さいときに有効で、他のマーケットからの流入を望み、マーケット拡大を目指していくための戦略です。

ドミナント戦略は、地域集中型と言われていて、特定の地域に集中することでブランドイメージを効果的に作りやすくなります。そのため宣伝に使われ、従業員などの人流や物流のメリットがあると言われています。

ランチェスター戦略は、強みを重視した戦略。例えばミシュランのシェフという絶対的な強みがあれば勝ち筋が見えてきますが、逆に、そのシェフがいないと料理が提供できないために、マーケットの拡大はまず望めません。

ゼロ・トゥ・ワン戦略は、文字通りマーケットを開設する場合の戦略です。当たれば大きい利益につながりますが、マーケットが大きくなるかどうかは不透明という、チャレンジャー向きの戦略です。

ニッチ戦略は、他社の競争が起きない隙間(ニッチ)な市場に焦点を当てて事業展開する手法です。その代わり、マーケット拡大が期待できない戦略です。

スナック戦略は、マーケットを完全無視してマンパワーに依存する方法です。成功はその人次第ということになります。社会情勢から影響を受けない最強の戦略でありながら、展開という観点から見ると最弱の戦略です。

戦略の選定 ~質の戦略について

新井:「質の戦略」は、基本的に3つからできています、1つ目はコアコンピタンス戦略、2つ目がファイブ・ポジショニング戦略、3つ目がリバースイノベーション戦略です。

コアコンピタンス戦略とは、他社に負けない絶対的な商品を持っていること。外食産業の場合、絶対的であるべきは商品で、接客や空間は他社に負けない絶対的なものになりません。基本的にはメニューということです。

ファイブ・ポジショニング戦略は、料理や空間、接客サービス、価格、体験など、複合的に優位に立つ戦略です。多くの飲食店が選ぶ戦略でもあります。

リバースイノベーション戦略も、FCで展開する業態には多く取り入れられています。これは他社で流行っている、または受け入れられているものを場所を変えて展開する戦略のことで、別名テンセント戦略などとも言われます。

これら「質の戦略」は、どれがいいとも悪いとも言えません。どの戦略を選ぶのか、1つまたは複数を選んでも構いません。まずは選択することが大事になってきます。どれも当てはまらないというのは、戦略的な考え方が空白であるということなので危険だと考えるべきでしょう。

戦略の選定 ~量と質を結ぶ戦略について

新井:次の段階は、上記「量の戦略」と「質の戦略」をつながなければなりません。それが「サプライチェーン戦略」ですが、これには大きく2つあります。「こだわり」を求めるか、「量とコスト」を求めるかです。

量の戦略で、競争から競争を作る大きなマーケットで、レッドクイーン戦略やマーケットミックス戦略での展開を進める企業は、量とコストを求めるサプライチェーンになる傾向があります。逆に言えば、展開を求めるサプライチェーンは、量とコストを求めるサプライチェーンを作るということになります。

またランチェスター戦略や、コアコンピテンツ戦略をとる企業では、こだわりを求めるサプライチェーンが必要不可欠になってきます。

自社にあった戦略のカスタマイズを

新井:戦略を作るための5つのポイントの3点目。各領域の理解ができ、戦略の選定が済んだら、次は各種分析を行った上で、その選んだ戦略を自社に合う言葉でカスタマイズする必要があります。

例えば、サプライチェーン戦略を選定した企業なら、マーケットミックス戦略で展開していくために、量とコストを求めていかなければなりません。そこでスマートサプライチェーン戦略を取り入れる必要があります。生産・流通・製造・販売・サプライチェーンの各セクションと協業することで、各セクションの社会課題を果たすだけでなく、サプライチェーンとしての安定化と収益化を図るわけです。

このように、これまでの講義で勉強してきた各種分析をもとに、自社の中長期計画を戦略にカスタマイズしていくわけです。

戦術の洗い出しと競合との戦略・戦術の検証

新井:戦略までを自社にカスタマイズできたら、次は戦術を洗い出していきましょう。そこはもう難しいことではありません。選定し、カスタマイズした戦略に従って考えていけばいいのです。

そしていよいよ「競合との戦略・戦術の検証」の段階に入ります。カオカオカオを例にすると、一般的なタイ料理店の戦略・戦術は、マーケットサイズは小さく、出店エリアはオフィス街、ターゲットもオフィスの女性で、客単価はランチ需要が高いために単価は安く、競合はたくさんいます。

そのため、大きいマーケットではないにもかかわらずレッドクイーン戦略をとる必要があるため、本来なら共にマーケットを作っていくところが共食い状態になっているのです。

一方、カオカオカオではマーケットMIX戦略、ファイブ・ポジショニング戦略、スマートサプライチェーン戦略をとっています。マーケットサイズは、いまのところ小さいですがこれから大きくなってきます。出店エリアは基本的に居酒屋と同じです。ターゲットは全ての人で、客単価は高いので競合はありません。

ファイブ・ポジショニング戦略としては、タイ料理ではなく「タイ屋台料理」などの差別化ができています。絶対的に負けないデザイン力もあり、サプライチェーンを持っていて、量とコストを担うスマートサプライチェーンもありながら、ただ単に安定ができるだけではなく、収益化も行われます。これが、勝ち筋というものです。

ただし、やがて市場が大きくなっていくときにカオカオカオには課題が2つあります。1つ目は資金の問題で、大きく出店をするために資金が足りないことです。2つ目は規模に合った組織ができているかどうかです。そこをクリアすると、次はブルーオーシャン戦略に移行します。

基本的には、負け知らずの戦略になりますが、その時期を迎えると、いまの韓国料理のように大手がどんどん参入してきます。いわゆる発展期ですが、その時にカオカオカオは競争を通じて共に創る世界に突入します。レッドクイーン戦略が投入されるわけです。

そこでも勝っていけるはずです。他は参入したばかりのところですが、カオカオカオは「質」と「サプライチェーンを持っている」という強みがあります。コストリーダー戦略という、コストで一気に勝っていく戦略を立てます。そうして発展期を迎えます。

その後は安定期がきて、業界の成長が止まっていきます。ある一定の時期が来ると、事業成長の方が業界成長を超えてしまう。そこでまた業態変更を考えるという循環になっていくわけです。

もちろんロードマップ通りにいくとは考えていませんが、少なくとも起業してからあるタイミングで、こういった戦略ロードマップが描けることが大事になってきます。



外食SXの第7回勉強会は対談あり、講演あり、講義ありの盛りだくさんな内容となった。業界を牽引する経営者たちの話を聞きながら、それを講義で論理的に補足する。緩急がついているため、受講者の表情も笑顔と緊張とが入り交じっていたのが印象的だ。講義の内容は回を追うごとにより深く、より専門的になっていき、受講者の覚悟のほどが伝わってくるようだ。

外食第5世代 未来型会員制サークル 外食SX(エスエックス)
外食SXロゴマーク 外食SXでは、共に学ぶ飲食店・飲食企業、団体をサポートくださるサポーター企業様を随時募集しております。

公式ホームページ:https://sx-terroir.com/

 


無料ノウハウブック-データ経営で成功した企業の事例集を無料ダウンロード

注目のキーワード

すべてのキーワード

業界

トピックス

地域