外食アワード2019表彰式開催。受賞者6人の言葉と、未来型の飲食店経営者が描く10年後の姿

セミナー・イベントレポート2020.01.30

外食アワード2019表彰式開催。受賞者6人の言葉と、未来型の飲食店経営者が描く10年後の姿

2020.01.30

外食アワード2019表彰式開催。受賞者6人の言葉と、未来型の飲食店経営者が描く10年後の姿

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居酒屋JAPAN2020」の初日、1月22日には、「外食アワード2019」の表彰式が開催された。「外食産業界でその年に活躍した人、話題になった人」を毎年選出し、2019年で16回目を数える。今回は「外食レジェンド」部門も新設されている。外食産業の川上から川下まで、時代性が反映された顔ぶれが並んだ。

また、2020年東京会場で主催者特別セミナーのトリをかざったのが、「未来型飲食店経営 2030」と題したスペシャルトークセッションだ。登壇した経営者たちは人手不足や長時間労働といった業界の課題にどのように向き合い、10年後の飲食店をどう捉えているのか。それぞれの模様を紹介する。

目次

外食アワード2019/各界でイノベーションを起こしたリーダー達

【外食事業者】
・株式会社クリエイト・レストランツ・ホールディングス 代表取締役社長 岡本晴彦氏(左下)
・株式会社クリスプ 代表取締役社長兼CEO 宮野浩史氏(中央上)
・イートアンド株式会社 代表取締役会長 文野直樹氏(右下)
・株式会社ステディワークス 代表取締役 田中徹氏(左上)

【中間流通・外食支援事業者 兼 食材事業者】
・キリンビール株式会社 企画部部長 山田精二氏(右上)※代表取締役社長 布施孝之氏代理

【外食レジェンド】
・株式会社叙々苑 代表取締役会長 新井泰道氏(中央下)

まずは、外食企業のM&Aを推進し、経理や財務など、バックヤードをホールディングスが担い、経営そのものは各企業の自主性に任せる「連邦経営」方式を打ち出した、株式会社クリエイト・レストランツ・ホールディングス代表取締役社長の岡本晴彦氏。

受賞を受け、「M&Aは、これまであまり良いイメージでは語られませんでした。しかし、我々が目指しているのは、小さな店同士が力を合わせ大きな力を発揮する、新しいM&Aの形です。外食の未来をつくる、重要な役割だと思っています」と語った。

また、カスタムサラダ専門店『クリスプ・サラダワークス』でサラダトレンドを牽引。オペレーション上の課題解決のため、モバイルオーダー運用ソリューションの開発・提供にも取組む株式会社クリスプ代表取締役社長兼CEOの宮野浩史氏。

「店が繁盛すればするほど、つまらなくなってしまいました。忙しいとスタッフが接客に注力できないからです。彼らが魅力をぞんぶんに発揮できる仕組みを、ITで構築していくことを目指しています」と、アプリ開発に取り組む意義を述べた。

そのほかに、今回選出された外食事業者は、中華食堂「大阪王将」などの外食事業と小売向け冷凍餃子の製造販売の2本柱で事業を拡大した、イートアンド株式会社代表取締役会長の文野直樹氏。そして『クラフトビアマーケット』でクラフトビールを広く世に知らしめ、クラフトブームの火付け役となった、株式会社ステディワークス代表取締役、田中徹氏のあわせて4名。

さらに、中間流通・外食支援事業者兼食材事業者としてキリンビール株式会社代表取締役社長 布施孝之氏が、飲食店向けサーバー「タップ・マルシェ」の開発で多品種・少量という特徴のクラフトビールを専門店以外の飲食店にも広めた功績で受賞(表彰式は代理で企画部部長の山田氏が出席)。

そして新設された外食レジェンド部門では、今日の焼肉業態の礎を築いた株式会社叙々苑代表取締役会長の新井泰道氏が表彰を受けた。

居酒屋JAPAN主催実行委員会
日本外食新聞 編集長
川端 崇嗣 氏

表彰状と記念トロフィーを授与した、居酒屋JAPANの主催実行委員会 日本外食新聞の川端 崇嗣編集長は外食アワードの選考基準を「一時的な流行ではなく、業界発展のためのイノベーションを起こした人にフォーカスしている」と語る。

「飲食業の可能性は、時代と共に変化します。かつては1業態で何百店舗も展開するのが主流で、昨今のように枝分かれ・細分化はしていませんでした。そういう意味では、イノベーションの意味も挑戦の形も、その時代ごとに変わっていくといえるでしょう。我々はこれからもこの業界に参入する若い力を応援し、彼らが創造する未来にフォーカスしていきたいと思っています」

変革の流れの中で新時代を迎えつつある外食産業。市場の縮小や労働人口の減少を背景に、発展するテクノロジーが地殻変動を起こしている。果たしてこれからの飲食店経営には、どんな未来が待っているのだろうか。

「未来型飲食店経営 2030」スペシャルトークセッション 10年後、飲食店はこう変わっている!

外食×IT・テクノロジーが生み出す飲食店の未来像

【パネリスト】
・六花界グループCEO/一般社団法人Experience代表取締役理事 森田隼人氏
・株式会社M&co代表取締役 森智範氏
・株式会社クリスプ/株式会社カチリ代表取締役 宮野浩史氏
・株式会社SARAH代表取締役 高橋洋太氏
・株式会社和音人代表取締役 外食5G代表幹事 狩野高光氏
・株式会社カオカオカオ代表取締役 新井勇佑氏
【コーディネーター】
・フードスタジアム株式会社代表取締役 大山正氏

  大山「2019年12月、東京・恵比寿に三光マ一ケティングフーズの主力業態をリブランディングした『博多金の蔵』がオープンしました。博多の人気飲食店から名物メニューを、およそ30品目集め、手軽に頼めるよう、モバイルオーダーが導入されています。お客様はアプリをダウンロードして自分のスマホをオーダー端末にできるのです。プロデュースした森さん、導入の理由は人手不足の解決のためだと伺いました」

「初期投資が大きなタッチパネルに比べ、モバイルオーダーはローコストで導入できます。現場に混乱はなく、手が空くのでそのぶんお客様の目の前で料理を仕上げる、会話するといったコミュニケーションが図れています。オーダーを受け、厨房に通す作業にけっこう時間がとられていたんだとわかりました」

高橋「店にとってはコスト削減ですが、客側からすれば、スマホ画面は小さくて使いづらい気がします。顧客がモバイルオーダーを使うメリットはあるんでしょうか?」

新井「認知と行動という見地でいえば、紙のメニューに比べてアプリを立ち上げ、メニューを見るまで時間も手数も増えるので出品数が減る気がします。実際はどうですか?」

「紙のメニューも置いて、スタッフもコミュニケーションをとって提案するようにしています。むしろモバイルオーダーのほうがどんどん頼めるので単価も出品数もあがる傾向にありますね。紙より情報がたくさん載せられるというのも、モバイルならではです」

高橋「個人のスマホにつながっている点はモバイルオーダーの大きなポイントですよね。そこから評価・レコメンドできる、来店ポイントを自動で付与されるといった展開ができればいいですね。クリスプ・サラダワークスさんが取り組んでいるプラットフォームのような」

宮野「我々は15店舗中、5店舗が完全キャッシュレスです。タブレット注文で決済まで全部つながっています。POSレジはいつ売れたのかという過去のデータですが、“誰が買ったのか”、パーソナライズできれば未来がわかります。そうするとたとえば価格も、ピーク時は高いがオフ時は安いみたいな、ダイナミックプライシングすら可能になります。

毎日、営業開始時間の10時から200件くらいアプリで事前に注文が入っています。お客様が受け取りに来て店が混みはじめるのは12時くらいですが、決済は完了しているので会計業務は必要なく、スタッフは本来のサービスに集中できます。ただ、注文を受けて常に稼働しているけどお客様がいなくてガラーンとしていて、飲食店ならではの活気みたいなものが足りないのは課題かも(笑)」

大山「クリスプさんは、Uber Eatsでも人気ですよね。実は、飲食店を取材するメディアとしてゴーストレストランに興味があり、新年に実際Uber Eatsの配達員を体験してみたんです。都内では週末のランチタイムは通知が鳴りやまないほどで、かなりニーズを感じました。ある日はクリスプさんを3回運びましたよ」

宮野「デリバリーの売上は全体で2割切るくらいで、店舗によっては4割というところもあります。モバイルオーダーが3割くらいなので、お客様の半数以上は、アプリが店だと思っているともいえます。実際、店頭の対面で“サラダください”とお金のやりとりするほうが少ない状態です」

高橋「店舗のあり方も経営の考え方も変わってきますね。今、中国のアパレルやコスメの多くが店舗で売ることを目的にしていません。店舗はショールームで、オンラインで買うのが当り前になっています。この流れが飲食にも来て、オンラインでデリバリー、テイクアウトが当り前になると、飲食店はすごくチャンスですよね。コンビニや中食の需要からパイをとれるわけです。

ただUber Eatsは日本の食のスタイルを変えた点は素晴らしいけど、その比率が高まるほど、100回Uber Eatsで利用していただいても店頭では“はじめまして”なんですよね。顧客管理という点では」

宮野「クリスプ全体で月間1万~1万5千人くらいご利用いただいています。この顧客管理ができると、ライフタイムバリュー(顧客生涯価値:LTV)が導きだせます。統計的にはひとり3万5千円くらいです。すると、客単価1500円のためでなく、3万5千円分の投資ができるようになります。つまり目の前の“あといくら売るか”ではなく、いかにリピートしていただくかという本質的なところが、感覚ではなく数字として示せるようになるんです」

高橋「そのお客様生涯の売上と利益で考えるので、短期的には赤字でもアクセルを踏めますよね」

森田「我々の場合は、2.2坪の立ち食い焼肉屋から始まった、10年分のデータでオートクチュールマーケティングを考えています。顧客をマーキングして追いかけ、いつ来て何を食べて喜んだというのを点数化してエクセルと自社システムでストーリーとして読み込んでいます。

ただ、顧客管理という点でいえば、顧客は管理されたいとは思っていないのではないでしょうか。我々は、むしろ管理とか顧客という文脈にせず、コアファミリーと呼んでいます。というのも、もう普通の居酒屋は淘汰されていきますよね。淘汰されないために別口のジャンルを作って、その窓口になる店に入りきれないお客様のために次に入れる店をつくる、その次に、となればお客様はファンとしてついてくるのでどんな店もできます。

実はうちの店のスタッフは、ほぼもともとお客さん(笑)。店が狭いので、お客さんも肉の焼き方を覚えて、お客さんがお客さんに肉の焼き方を教えているうちに6店舗になったんです」

狩野「食の豊かさは日本の誇れるものだと思っています。今、地方創生の取り組みとして、三軒茶屋で山形の小規模の商工会のアンテナショップを運営していて、ひとつのビジネスモデルとなればと考えています。他の産業から求められる外食産業、という立場が築ければ、業界の地位向上につながると思うからです。先ほど、店舗はショールームという話がありましたが、これから第3次産業はテストマーケティングの場になっていきます。店舗を展開するのではなく、マーケットの中心でデータを引っ張り、日本の生産製造の場を盛り上げたいです」

高橋「IT、テクノロジーは発達、普及していくと同時に、心の時代になっていくと思います。消費はモノからコトになり、意味になってきました。私が飲食に関わるようになったのは5年前からですが、飲食の人のこんな熱い思いを知ると同時に、消費者には伝わってなかったとも感じました。消費者に届くことで社会全体の流れが変わるくらい、食の力は大きいです。その思いをしっかり伝える、それが一番のゴールかなと思います」

森田「自分が60歳くらいになっても、“森田さんの焼肉が食べたい”って何年も予約で待ってくださる人がいたらと考えます。それ、すごく生きがいになりますよね。一日にこんなに何度もありがとうと言っていただける商売ってないですよ。

やはり何十年と続いている店には理由があります。クラウドレストランやゴーストレストランも、老舗論のインストールはあったほうがいいでしょう。新しいマインドマップが必要で、うちも研究するラボや専任スタッフがいますが、大事なのはシステムの継承ではなく、お客様の気持ちを受け継いでいくことです。

宮野さんがおっしゃったように、稼働しているのに店がガラーンとしていたとしても、でもスタッフは生き生きしている、必要なのはそのDNAではないでしょうか」


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