41館のホテルを支える“食の安全”への責任
【Q】御社の事業規模と、食の安全に対する考え方について教えてください。

オペレーショングループ 次長
オペレーション部オペレーショングループ 次長(以下、次長):当社はJR東日本グループのホテル部門として、東京ステーションホテルやメズム東京といったラグジュアリーブランドや、メトロポリタンホテルズ、JR東日本ホテルメッツなど、首都圏を中心に41館を運営しています。
提供する料理は、レストランやご宿泊のお客様向けのブッフェ、宴会、婚礼、さらにはおせちやクリスマスケーキといった外販商品など多岐にわたります。
これらをお客様に安心してお召し上がりいただくため、食物アレルギーやハラルなどの対応をしています。
【Q】食材の情報管理だけでも、相当な労力がかかりますね。

アレルギー情報など。
次長:その通りです。あるホテルでは5,000品目の食材を使用しており、その半数がアレルギーなどの情報管理を必要とします。
これまではエクセルを使って原材料やアレルギー情報を管理しており、現場には大変な負荷がかかっていました。本来、料理人はお客様にお喜びいただくために調理に集中するべきです。安全性の担保と料理人の負担軽減を両立させる環境作りが急務でした。
2,500品目のアレルギー管理がもたらした現場の疲弊
【Q】具体的にどのような手間があったのでしょうか?

オペレーショングループ 課長代理
オペレーション部オペレーショングループ 課長代理(以下、課長代理):原材料やアレルギー情報の管理には、自社開発のエクセルファイル『新食材チェックシート』を使用しています。
料理長が新しいメニューを考案する際、メニューごとに使用する原材料を選択・入力すれば、マクロによってアレルギーや原価情報が自動判別される仕組みです。
しかし、食材ごとの原材料やアレルギーを記載した「規格書」は仕入れ先から書類で取り寄せていて、あるホテルでは年間約8,000枚に達していました。

「新食材チェックシート」。
メニューごとに原価、アレルギー、
栄養成分を集計している。
細かい原材料名を一文字ずつ目で追い、手作業でエクセルへ転記する作業に、1人あたり1日1.5時間も費やしていたのです。このアナログな工程がある限り、ヒューマンエラーのリスクも現場の負担も解消できません。
次長:承認プロセスも課題でした。作成されたシートを別の担当者が数千枚の紙の規格書と突き合わせて、一から確認します。不備があれば差し戻しとなるため、最終的なメニュー承認まで約2.5カ月も要していました。料理人が「料理を作りたいのに、ずっと画面と書類に向き合っている」というジレンマに陥っていたのです。
業界標準のプラットフォーム導入でデータ管理の基盤を構築
【Q】どのように解決を図ったのでしょうか?

次長:仕入れ品の原材料やアレルギー情報を一括管理する『BtoBプラットフォーム 規格書』を導入し、データとして処理するようにしたのです。数あるシステムの中でこれを選んだ理由は、業界シェアの高さと情報の標準化です。

当社の取引先の約半数がすでにこのシステムを利用されていたため、当社独自のエクセル書式に入力を依頼するのではなく業界標準のプラットフォームに乗ることが、双方にとって最も効率的だと判断しました。
2.5カ月を要した承認作業が、IT活用で20分に短縮
【Q】導入後、業務はどう変わりましたか?

次長:外販商品に添付する食品表示ラベルは、本社の管理栄養士が作成しています。これとは別に、取引先からデジタルデータで規格書を受け取り、それをCSV形式で『新食材チェックシート』や食品表示ラベルを作成するツール『食品大目付そうけんくん』に読み込ませる運用を取り入れました。
その結果、手入力だったアレルギー情報が自動反映され、メニューごとのアレルゲン有無を一瞬で判定可能になりました。これにより、IT活用前は2.5カ月を要していた承認フローが、わずか20分程度で完了するようになったのです。これは単なる時短だけでなく、転記ミスや見落としといったリスクを排除できた点でも画期的な変化でした。
【Q】アレルギー対応以外でのメリットはありましたか?

次長:食の多様性への対応がスムーズになりました。海外からのお客様も増え、ヴィーガン、ベジタリアンやハラル(イスラム教の戒律)など、多様な食事制限への対応が求められています。

これらを目視で確認するのは困難ですが、デジタルデータ化されていれば「豚肉由来の成分を含まないか」といった細かい条件もシステムで即座に検索・判定できます。
ITは料理人のクリエイティビティを支える“黒子”
【Q】今後の展望についてお聞かせください。

次長:今後は、アレルギーなど食品情報のIT管理を全館に導入していきます。私たちはITを、料理人が付加価値の高い仕事に集中するための“黒子”だと考えています。2026年度にはAI音声入力の導入を計画しており、PC操作に不慣れな料理人でも業務ができるよう事務負担をさらに削ぎ落としていく方針です。
そこで生まれた余力は、社会課題の解決やサービスの質向上へと注いでいきます。特に注力しているのが食品ロス削減です。当部はSDGs食品分科会の事務局として、食べ残しの持ち帰り運動「mottECO(モッテコ)」を業界に先駆けて推進してきました。現在は省庁やホテル協会などと連携し、この活動を業界スタンダードにすべく官民一体のアクションを牽引しています。

また、障害者雇用においても、単なる雇用の創出に留まらず、ホテルを訪れるお客様が過ごされる環境の維持に直接資する分野へと、活躍の場を広げています。
これらすべての活動の根幹にあるのは、お客様に選ばれ続けるためのCS(顧客満足度)・CX(顧客体験)です。全ホテルで掲げたCS数値目標の達成に向け、現場と本社が一丸となって取り組んでいます。ITの力で食の安全と働く環境を整え、その先に豊かな社会と最高のホスピタリティを実現していく。それが私たちの目指す未来です。
日本ホテル株式会社
本社所在地:東京都豊島区西池袋1-6-1
設立:1981年11月26日
代表者:代表取締役社長 三林 宏幸
企業公式HP:https://www.nihonhotel.com/











