改正GX推進法で変わる排出量取引と、食品事業者が取るべき3つの対策

法令対策2026.06.08

改正GX推進法で変わる排出量取引と、食品事業者が取るべき3つの対策

2026.06.08

改正GX推進法で変わる排出量取引と、食品事業者が取るべき3つの対策

  • 汎用bnr_side_juhacchu_eatery_202509.png
  • 汎用bnr_v-manage_202512.jpg

2026年4月の改正GX(グリーントランスフォーメーション)推進法施行に伴い、大企業を中心に排出量取引制度が義務化された。直接の対象外となることが多い中小の食品工場や配送卸であっても、取引先からのデータ開示要請や2028年度に導入される化石燃料賦課金によるエネルギーコスト上昇という2つの経路から大きな影響を受ける。法改正の全体像と食品事業者が着手すべき対策を解説する。

目次

改正GX推進法の全体像と2026年4月の施行内容

改正GX推進法は何を目的とし、4月から何が義務化されたのか。まず法律の趣旨と、新たに義務となった排出量取引制度の枠組みを整理する。

改正GX推進法の目的と正式名称

改正GX推進法は、2050年の脱炭素社会へ向けて、企業の排出削減と投資を後押しする法律である。正式名称を「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」という。 2023年に成立し、2025年の改正で制度設計が大きく前進した。2023年の制定時、排出量取引は「GXリーグ」への自主参加にとどまっていた。2025年の改正では、これを大量排出企業に対する法的な義務へと切り替えた点が、実務上の大きな転換点である。 主な変化は次のとおりである。

項目改正前(2023年~)改正後(2026年4月~)
参加希望する企業による自主参加大量排出企業に義務化
対象参加を選んだ企業CO2の直接排出が直近3年度の平均で年10万トン以上の事業者(約300~400社)
排出枠自主的な目標設定国が割り当て、実績と同量の保有を義務化
未達成時罰則なし不足分に応じた負担金を支払う
価格市場の取引に委ねる国が上限と下限(参考価格等)を設定

経済産業省によると、同制度は2026年4月1日に本格稼働している。

排出量取引制度の仕組み

排出量取引制度とは、対象企業ごとにCO2排出量の上限(排出枠)を定め、排出枠を企業間で売買できるようにする制度である。 削減が進んで枠に余裕が生じた企業は、余剰分を他社へ売却できる。一方、枠を超過した企業は不足分を購入して補う必要がある。削減努力が経済的な利益に直結し、対応が遅れるほど負担が増す構造といえる。 排出量取引制度の仕組みにより、国全体の排出量を計画的に抑制していく予定だ。ただし全企業が一斉に対象となるわけではなく、排出規模の大きい事業者から順次適用される。

義務の対象は直接排出が直近3年度の平均で年10万トン以上の大規模事業者

排出量取引制度の義務が課されるのは、CO2の直接排出量が直近3年度の平均で年10万トン以上の事業者である。直接排出とは、自社の工場や車両で重油・ガス・軽油などの燃料を燃焼させて生じるCO2を指し、購入した電力の使用にともなう間接的な排出は、この基準には算入されない。 経済産業省は、基準に該当する事業者を全国で約300社~400社と見込む。電力、鉄鋼、セメント、石油元売り、自動車など、燃料を大量に消費する業種が中心である。対象となる約300~400社だけで、国内の温室効果ガス排出量の約6割を占める。 対象となる大量排出企業は2026年度に排出量を計測し、翌2027年度に排出実績を報告して、保有義務を履行する流れとなる。年10万トンは大規模な装置産業に相当する水準であり、一般的な食品工場や卸売がこれに達することは想定しにくいといえる。

食品事業者の立ち位置と、経営に及ぶ2つの影響

食品事業者は脱炭素政策とどう向き合うべきか。自社が義務の対象となるかを確認したうえで、対象外であっても経営に影響が及ぶ理由を整理する。

多くの食品事業者は直接の義務対象ではない

すでに述べたとおり、義務の基準は装置産業を想定した水準にある。ボイラーや配送車両で燃料を用いる食品工場や配送卸が、これに達することはほとんどないといえる。 そのため、2026年4月の段階で、排出枠の取得や国への報告を直ちに求められるわけではない。まず確かめたいのは、自社が義務の対象に当たるかどうかである。立ち位置を正しくつかんでおけば、過剰な対応や、無関心による出遅れを避けやすくなるだろう。

義務の対象外でも影響を受ける理由

ただし、対象外であることは、対応が不要であることを意味しない。義務が課されなくとも、食品事業者には別の経路から影響が及ぶからだ。 1つは、取引先である大企業からの排出量データの開示要請。もう1つは、化石燃料賦課金を起点とするエネルギーコストの上昇である。 いずれも、改正GX推進法を含む脱炭素政策の進展にともなって生じる構造的な変化だ。以下、それぞれを具体的に見ていく。

影響1.取引先からの排出量データの開示要請

第一の影響は、取引先からの開示要請である。上場する大企業は、自社が排出するCO2に加え、取引先全体の排出量を把握するよう求められている。 環境省は、サプライチェーン排出量の算定方法をガイドラインとして公開している。大手の食品メーカーや小売は、これに基づき自社グループ全体の排出量を集計する。そのため、納入元である食品工場や配送卸に対し、排出量データの提供と削減への取り組みを求め始めている。 さらに金融庁は、こうした情報の開示(Scope1、2等)を、プライム市場上場の時価総額3兆円以上の大企業について2027年3月期から義務づけ、サプライチェーン排出量(Scope3)についても段階的に開示を迫る方針だ。開示義務を負う企業が増えるほど、取引先への要請も裾野を広げていく可能性が高い。要請を受けた際に自社の数値を示せるかどうかが、取引の継続を左右する要素になるだろう。

(参考) 時価総額3兆円以上の主な食品事業者:セブン&アイ、味の素、イオンなど(2026年6月)

Scope1事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

影響2.化石燃料賦課金によるエネルギーコストの上昇

第二の影響は、エネルギーコストの上昇である。改正GX推進法の枠組みのもとで、2028年度から化石燃料賦課金が導入される。 化石燃料賦課金は、石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料を輸入する事業者に対し、燃料に由来するCO2量に応じて課す負担金である。GX推進機構(脱炭素成長型経済構造移行推進機構)によると、当初は低い水準で導入し、段階的に引き上げる方針が示されている。輸入事業者が負担したコストは燃料や電力の価格に転嫁され、最終的に使用者である事業者へ波及する。 食品工場は冷凍冷蔵や加熱に多くの電力と燃料を要し、配送卸は車両の軽油を恒常的に消費する。化石燃料賦課金は、義務の対象でない食品事業者にとっても、燃料費・電力費の上昇という形で収益を圧迫する可能性が高い。エネルギー消費の削減は、将来のコスト上昇に対する有効な備えといえる。

食品事業者が取るべき3つの対応

以上を踏まえ、食品事業者が着手すべき対応を3点に整理する。いずれも専門知識を要さず、自社の体制のなかで進められる施策である。

対応1.自社のCO2排出量を把握する

最初に着手すべきは、自社の年間CO2排出量の把握である。特別な測定機器は必要なく、毎月の電力・ガス・軽油などの請求書に記載された使用量を確認する。 環境省は、「サプライチェーン排出量算定に関する基本ガイドライン」などで、使用量からCO2排出量を算出する方法と換算係数を示している。請求書の数値に所定の係数を乗じることで、専門家でなくとも自社のおおよその排出量を把握できる。 排出量を数値で押さえておけば、削減効果の大きい領域も特定しやすくなるだろう。

対応2.エネルギー効率を高める

次に取り組みたいのが、エネルギーの使用効率そのものの見直しである。食品工場では、老朽化した冷凍機やボイラーの省エネ型への更新、照明・空調の運転管理が、排出削減と燃料費の抑制の双方に寄与する。 配送卸では、急発進を抑えたエコドライブの徹底に加え、デジタルツールを用いた配送ルートの最適化や、同業他社との共同配送による積載効率の向上が有効である。車両の即時買い替えが難しい場合も、日々の運行管理を見直すだけで燃料費の直接的な削減につながるだろう。 資源エネルギー庁は、「省エネルギー投資促進支援事業費補助金」など、省エネ設備の導入を支援する補助金制度の情報を公開している。設備更新には相応の費用を伴うが、補助制度の活用により負担を抑えて実施できるだろう。

対応3.取引先の要請に応える体制を整える

3つ目は、取引先からの要請に備えた社内体制の整備である。CO2排出量のデータと削減の取り組みを、要請を受けた時点で速やかに提示できる状態を整えておく。 担当者を定め、電力や燃料の使用量を毎月記録する仕組みを構築する。環境省のガイドラインを自社向けの手順書へ落とし込むことで、担当者の交代があっても運用は継続できる。 こうした体制を備えた事業者は、取引先にとって安心して任せられる供給元と位置づけられやすい。そのため、要請に応えられる体制を整えておくことは、取引関係を維持するうえでの備えになるだろう。

脱炭素対応は取引継続の前提条件になる

改正GX推進法で2026年4月に義務化された排出量取引制度は、大規模事業者を対象とする制度である。そのため、大半の食品工場や配送卸が直ちに義務を負うわけではない。しかし、取引先からの排出量データの開示要請と、2028年度から導入される化石燃料賦課金によるエネルギーコストの上昇という2つの経路を通じて、影響は今後さらに広がっていくだろう。 自社の排出量の把握、エネルギー効率の改善、取引先要請への体制整備という3つの対応は、専門知識がなくとも着手できる。取引先からの要請が広がるなかで、これらの備えを早めに進めておくことが、安定した取引につながっていくだろう。

出典

e-Gov法令検索「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律

経済産業省「排出量取引制度

GX推進機構「排出量取引制度・化石燃料賦課金

環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム

環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(ガイドライン/排出原単位)

金融庁「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ

資源エネルギー庁「省エネルギー対策・各種支援制度

注目のキーワード

すべてのキーワード

業界

トピックス

地域