120兆円の食産業が直面する課題と新法誕生の背景
日本の食ビジネスは非常に大きな規模を持っています。農林漁業の生産額は14兆円程度で、食品製造や流通、外食を合わせると全体で120兆円を超える産業です。国内で生産された農林水産物のうち、3割は消費者に、7割は食品製造業や外食産業に仕向けられています。食品製造業の加工原材料は7割が国産で、一次産業と加工業は密接に結びついています。
雇用面でも、就労者は833万人にのぼり、全産業の12.3%を占めます。地域経済において食品産業が1位のシェアを占める都道府県も多く存在します。
一方で、近年は燃料などの生産資材費や原材料費の高止まりや、世界的な食料需給の変動、国内の農業従事者の減少が続いています。しかし、事業者間では価格転嫁が進まず、安定的な生産・供給を続けていくことが難しい状況になります。これを受けて食料安全保障の基本理念が見直され、合理的な費用を考慮した価格が形成されるべきだという考え方が示されました。これが、2026年4月1日から全面施行された新しい法律「食料システム法」が作られた背景です。
食料システム法を支える2つの柱
第1の柱~合理的な費用を考慮した価格形成と取引の適正化
食料システム法には、2つの柱があります。第1の柱が、合理的な費用を考慮した価格形成と取引の適正化です。この制度では、売り手と買い手の双方に2つの努力義務を課しています。
| 努力義務 | 判断基準 |
|---|---|
| (1)取引条件に係る誠実協議 持続的な供給に要するコスト等の考慮を求める事由を示して、協議の申出がされた場合、誠実に競技すること | ・協議の速やかな開始 ・資料の尊重(公的統計・コスト指標等) ・一方的な決定の禁止 |
| (2)商習慣等に係る検討・協力 商習慣の見直しなど、持続的な供給に資する取組の提案があった場合、必要な検討・協力をすること | ・提案を速やかに検討し、協力を行うこと |
| (1)(2)共通 | ・協議の申出のみを理由とした不利益取扱いの禁止 ・検討結果の説明 |
[参考]農林水産省「食品等の取引適正化に関するリーフレット(PDF)」
1つ目は、コスト上昇にともなう取引条件の見直しの申し出があった場合に、誠実に協議を行うことです。2つ目は、納品期限を定める3分の1ルールや短い発注期間などの商慣習を見直す提案があった場合に、検討や協力を行うことです。
農水省の調査によると、価格交渉の現場では約7割で協議が行われています。客観的な根拠を提示した方が、転嫁率が10ポイント高くなるという結果が出ました。一方で消費者向けの取引では、売上減少への懸念からコスト上昇分を40%以上反映できていない事業者が4分の1ほど存在します。
費用が認識されにくい品目として、米穀、野菜、豆腐、納豆、飲用牛乳の5品目が指定されています。民間団体がコスト指標を作成しており、米穀は2026年4月に5kg精米で2,800円台などの指標が公表されました。飲用牛乳は10月頃の公表に向けて審査が進行中です。

[参考]農林水産省「食品等の取引適正化に関するリーフレット(PDF)」
繁忙期を理由に協議を取り合わなかったり、1カ月を経過しても協議を開始しなかったりした場合は、努力義務違反となるおそれがあります。改善されない場合は、フードGメンによる指導や助言、勧告が行われ、従わない場合は事業者名などが公表されます。
第2の柱~持続的な発展に向けた計画認定制度と支援措置
法律の第2の柱が、食品産業の持続的な発展に向けた計画認定制度です。食品製造、卸売、小売、外食の事業者が、生産者との安定取引や流通の合理化、環境負荷の低減などの計画を作成して農林水産大臣の認定を受けると、金融支援や税制特例など総合的な支援が受けられます。

[参考]農林水産省「食品産業の発展に向けた計画認定制度(食料システム法計画認定制度)」
対象となる中小企業は、製造業等の場合は資本金3億円以下または従業員300人以下など、業種ごとに要件が定められています。申請から結果までは45日程度で、2026年3月末時点で54件が認定されました。認定を受けると、日本政策金融公庫から融資期間10年超25年以内の長期・低利融資を利用できます。融資限度額は負担額の80%以内です。例えば、5年以内に地域の農林水産物の取扱量を10%以上または20%以上増加させること、あるいは年間の取扱額を1,500万円以上または3,000万円以上増加させることなどの目標を設定します。
また、海外展開支援の債務保証として、1法人あたり4億5千万円を限度に、1年以上5年以内の融資期間で現地通貨建て融資を受ける支援があります。さらに民間金融機関からの借入れに対しては、1事業者当たり4億円以下を限度として、設備資金は20年以内、運転資金は5年以内の債務保証が年0.8%以下の保証料率で提供されます。5年以上の経営実績がある場合などは元本の90%、それ以外は50%が保証の上限です。大規模な投資には、期間5年以上、50億円以上の融資が指定金融機関から提供されます。
設備投資に関する税制優遇も適用されます。中小企業経営強化税制では、生産性が旧モデル比平均1%以上向上する機械装置(160万円以上)、工具・器具備品(40万円以上)、建物附属設備(60万円以上)、ソフトウェア(70万円以上)を新規取得した際、即時償却または取得価額の最大10%の税額控除を選択できます。
また、年平均の投資利益率が7%以上の収益力強化設備や、売上高100億円超を目指して年平均10%以上の成長を狙う経営規模拡大設備も対象です。前年度売上高が10億円超90億円未満の事業者が最低投資額1億円以上の投資を行う場合、賃上げ率などの要件を満たすことで、税額控除や特別償却の拡充措置が適用されます。投資総額の上限は60億円、建物等は1,000万円以上が対象です。事務用器具備品や中古資産などは該当しません。
さらに、環境負荷低減に取り組む場合は、カーボンニュートラル税制が適用されます。炭素生産性を3年以内に15%以上向上させ、事業所の炭素生産性を1%以上向上させる設備を導入した場合、最大8%の税額控除または30%の特別償却が可能です。具体的には、炭素生産性を22%以上向上させる場合は10%、17%以上向上させる場合は5%の税額控除となります。大企業などの場合は25%以上向上で8%、20%以上向上で3%となり、サプライチェーン上の国内中小企業を支援する場合は20%以上向上で8%などの控除が受けられます。ただし、照明設備や対人空調設備は除外されます。
事業再編やM&Aを伴う取組への支援も用意されています。合併や営業の譲受けを行う際、登録免許税の軽減措置が受けられ、軽減率は20.0%から80.0%に及びます。この特例を受けるには、計画終了年度に修正ROICを2%向上させること、固定資産回転率を5%向上させること、有利子負債がキャッシュフローの10倍以下であることなどの達成が必要です。会社法上の特例として、略式組織再編に必要な議決権保有割合が引き下げられ、債権者への一括通知後に1ヵ月以内に異議がなければ同意とみなす措置も適用されます。
技術開発の面では、国立研究機関が保有する高圧処理装置やマイクロ波減圧乾燥機などの設備を有償で利用でき、専門家の派遣も受けられます。
さらに、地域で連携して行う支援事業に対する認定制度もあります。このうち、プラットフォーム事業に24百万円、地域型食品企業等連携促進事業に56百万円が配分されました。試作品開発や販路開拓等の経費に対しては、2分の1の補助を受けることができます。目標値として、令和12年度までに事業者による取組数を1,000件、令和11年度までに新たなビジネス数を94件と定めています。
現在、全国規模のプラットフォームには208社・団体が参画しており、各地のコンソーシアム参画者数は愛媛県で130者、長野県で228者、宮崎県で286者となっています。各地では、賞味期限の長いおにぎりの開発、リンゴの加工残渣のたい肥化、空陸一貫輸送サービスの創出といった成果が生まれました。現場では、サスティナビリティ情報の見える化や、標準仕様パレットの利用、『電子入札システム』『需要予測システム』『温室効果ガス排出量の算定システム』『在庫管理・自動発注システム』などの導入が進んでいます。
施行規則や行政指導指針に基づく法規運用と窓口の設置
本法律の運用を支える各種の手続きや基準は、明確に定められています。まず、国が定める基本方針、および事業者の行動規範を定めた施行規則に基づき制度が運用されます。また、行政指導の透明性を確保するための行政指導指針も整備されました。さらに、不公正な取引方法が疑われる場合の公正取引委員会への通知手続きや、立入検査、報告徴収の手続き、そして指導や助言、勧告や公表を行うための事案処理手続が厳格に定められています。
食品等の適正取引に関する情報の受付や、努力義務違反の疑いがある場合の通報は、専用の情報受付窓口のページから常時行うことが可能です。また、アンケートやヒアリングを通じて取引の実態を毎年把握する食品等取引実態調査も継続的に実施されています。
本法律は、平成3年法律第59号、昭和22年法律第54号、平成11年法律第106号などの関連法規に基づいて運用されます。具体的には、第2条第5項や施行規則第25条第1号、さらに法律の第33条から第38条、第52条、および会社法第374条第1項などの規定が関係しています。
すべての関係者が連携し、持続可能な食料システムを構築していくことが、これからの日本の食を支える基盤となります。
[出典リスト]
・農林水産省 食品等の取引適正化に関するリーフレット
・農林水産省 努力義務・判断基準ガイドブック
・農林水産省 食品産業の発展に向けた計画認定制度(食料システム法計画認定制度)
・農林水産省 食料システム法概要パンフレット










