消費者の潜在需要をAIが可視化。レシートデータとAIペルソナを融合した商品開発・販促モデル

セミナー・イベントレポート2026.05.25

消費者の潜在需要をAIが可視化。レシートデータとAIペルソナを融合した商品開発・販促モデル

2026.05.25

消費者の潜在需要をAIが可視化。レシートデータとAIペルソナを融合した商品開発・販促モデル

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多様化が進む食の市場において、スーパーマーケットなどでは年間6万2000品の新商品が売り出されている。しかし、発売から5年後も生存する商品は約3割にとどまり、残りの約7割は棚から消えている。年齢や性別といった従来の顧客分析だけでは、消費者の真のニーズを捉えきれなくなっている。

この課題に対し、ファベックス東京2026で開催されたセミナーにて、日本食研ホールディングスの食未来研究室は新たな手法を提示した。家計簿アプリから得られる膨大なレシートデータと生成AIを組み合わせ、デジタル空間上にペルソナ(顧客像)を再現。現実に近い購買心理を捉えることで、商品開発や販促提案の成功率を上げる事例が紹介された。

目次

現実社会の実態を再現したテストモニター“AIペルソナ”

AIペルソナは、購買履歴などの膨大なデータをAIに与えてコンピューターの中に構築するペルソナ(顧客像)です。特定のターゲットを設定して、商品を購買する理由のほか、パッケージや売場の棚割りの効果を画面上で問いかけ、意見を得ることができます。

そのシステム基盤には、AIがインターネット上の新しい情報を自動で検索して自身を更新する検索拡張生成(RAG)という機能があります。現在の競合商品などを踏まえた返答を出力します。さらに、この手法には従来のグループインタビューなどの調査と比べ、以下の利点を持っています。

  • スピード:思いついた時に問いかけ、その場で回答を得られる
  • コストの削減:調査の準備に伴う費用や手間を省略できる
  • 日程調整の不要:複数人のスケジュールを合わせる必要がない
  • 本音の抽出:人間相手では遠慮する場面でも、忖度のない意見を引き出せる

学習データの偏りが回答に影響する点や、過去の記憶に伴う複雑な感情の再現が難しいなどの課題もありますが、技術の進歩により補完されつつあります。

このようなAIペルソナの技術は、すでに一部の企業で商品開発などに活用されています。ある大手飲料メーカーの事例では、過去の消費者アンケートをAIに学習させ、10時間かかっていたインタビュー調査の時間を削減しました。別の酒類メーカーでは、最適な味の配合をAIペルソナに導き出させることで、商品化までの期間を半分に短縮し、売上を増加させています。2026年現在では、国内の人口規模に匹敵する1億人規模のAIペルソナを構築するプロジェクトも動いています。

新商品が生き残る確率を高めるデータ補完

AIペルソナが必要とされる背景には、生活者の行動を捉える難しさがあります。2020年に発売された商品のうち、5年後の2025年まで残っていたのは約3割で、約7割は棚から消えました。一方で、売上が2倍以上に成長した商品は全体の11.5%程度です。マーケティングを経て投入された商品でも、売れるのは1割程度です。

生活者理解の要素は、自身の体験、他者からの情報、定量データの3つあります。個人の経験には限界があります。平均的なスーパーマーケットには1万SKU(Stock Keeping Unit、在庫の最小管理単位)以上の品揃えがありますが、1人が1カ月に購入するのは平均60 SKUです。視野を広げるためには、データの補完が必須となります。

食卓の風景も変化しています。1食卓あたりに出される品目数は減少を続け、4品を割り込んでいます。その一方で、出現頻度を伸ばしているカテゴリーもあります。例えばドライフルーツは、スーパーマーケットにおける売上金額が2025年に過去最大を記録しました。

しかし、従来のPOSデータは購入の結果しか分からず、目的までは見えてきません。顧客IDに紐づいたID-POSデータでも、年代や同時購買は判別できますが、週末に買って平日に消費するといった、店舗の外での行動は追いきれないという限界がありました。

アプリのレシートデータが可視化する、生活者の行動と分析の精度

この課題を解消したのが、家計簿アプリのレシートデータです。消費者が撮影したレシートをデータ化することで、特定の個人の購買行動をスーパーマーケット、コンビニエンスストア、飲食店を横断して時間帯別に追跡できます。

データの分析により、生活者のリアルな動きが分かります。

  • スポーツドリンクの推移:猛暑となった2025年7月・8月、午後の時間帯にコンビニエンスストアでの売上が減少。暑すぎて外出を手控えた行動が判明。
  • アイスコーヒーの傾向:気温の高さに関わらず、会社員が出社する午前中の時間帯に一定の購買点数を維持。
  • 朝食市場のシフト:調理や皮を剥く手間のないミニトマトやトマトジュースの出現頻度が上昇。
  • スティック型惣菜:サラダチキンをスティックタイプの包装へ変更したところ、午前中の購買割合が上昇。

ドライフルーツについても、時間帯別の売上金額構成比を分析すると、1日の中にピークが4回あることが分かりました。時間帯ごとに同時に買われた商品を分析することで、それぞれのニーズを特定できます。

一方で、既存の数字だけでは評価できない施策もあります。例えば、好きな料理ランキングで30年間トップを維持するお寿司ですが、スーパーマーケットの惣菜に対する満足度は専門店に比べて劣ります。これに対し、ある店舗が「お寿司を電子レンジで20秒温める」という提案を始めました。これが消費者に響くかどうかは、過去の購買データにはありません。
ここでAIペルソナへ問いかけたところ、「スーパーのお寿司が冷たくて美味しくないと感じたことがあるか」という質問に対し約7割が同意し、「実際にレンジアップを試すか」という問いには約40%が肯定的な回答を示しました。米国の研究でも、実測データとAIペルソナの回答一致率は約7割に達しており、精度の高い提案ができると考えられています。

家計簿から消費者の価値観を抽出するプロセス

AIペルソナの構築には、一連のレシートデータが有効に機能します。曜日ごとの利用店舗の使い分けや、購入している商品のカテゴリー構成を個人の行動履歴として1週間単位で追うことができます。なお、個人情報保護のため時間や場所にマスク処理を施したデータを使用するとともに、入力情報がAIの外部学習に利用されない設定を行っています。

過去にインタビュー音声などの発言データのみをAIに学習させたケースでは、回答が浅くなる問題が発生しました。「忙しいからカップ麺を食べる」といった断片的な情報だけが強調され、人間の持つ多様性や矛盾が排除されてしまうためです。実際の人間は、平日にカップ麺で済ませる一方で、週末の子供の誕生日には手間をかけてローストビーフを調理するという、異なる行動特性を同時に持っています。

お金の流れは、その人の優先順位そのものです。家計簿は、生活者における欲望と我慢の記録です。山積みされた購買データをAIに読み込ませることで、AIペルソナが価値観へと変換し、その人専用の思考フィルターを構築します。この思考フィルターを介して問いかけることで、実在の人物のような回答を導き出すことが可能となります。

現場の施策に直結した3つの事例

AIペルソナの対話から導き出されたヒントが、実際の売場展開や商品開発へ直結した事例があります。

(1)コンビニのドライフルーツ座談会によるキーワード発掘

コンビニエンスストアでドライフルーツを頻繁に購入する複数のAIペルソナを集め、ペルソナ同士の座談会を実施しました。その議論から「食物繊維が摂れる点が魅力」というキーワードが浮き彫りになりました。実際のウェブ検索データを調査したところ、「〇〇が多い食品」という検索ワードのトップ10内に食物繊維に関連する言葉が2つランクインしており、関心の高さが裏付けられました。SNS上でも、食物繊維の摂取量を極大化させる『ファイバーマキシング(Fiber Maxing)』という海外発のウェルネストレンドが話題となっており、国の摂取推奨量の引き上げとも連動しています。AIの議論が、埋もれていた重要キーワードの再発見を促した事例です。

(2)検索トレンドを捉えた野菜売場のポップ提案

レシピ検索において3年連続で検索頻度1位となっている食材はナスです。AIペルソナへ「ナスの冷凍保存」について議論をさせたところ、調理上の具体的なメリットが結論として導き出されました。その出力結果を基に生成した「揚げ焼き冷凍が正解!」という販促ポップは、調理のベネフィットが伝わる内容として、流通企業のバイヤーから売場展開への評価を獲得しました。

(3)精肉部門の新商品開発と出店地域の需要予測

精肉惣菜の新規開発において、店舗のロイヤルカスタマーのレシートからペルソナを作成して検証を行いました。AIが提案してきたのは、通常は牛肉との組み合わせで検索されることが多いガーリックバターを、豚バラ肉と掛け合わせた「ガーリックバター味の豚バラ肉」でした。これは牛肉価格の高騰という背景を踏まえ、AIが生活者の潜在的な代替需要を捉えて提案してきた商品です。

また、夏の新規出店に際し、出店地域の周辺データを読み込ませて売れ筋を予測させたところ、AIは「塩パン」を提示しました。理由は「該当地域は夏の暑さが厳しいから」というものでした。ウェブの検索データを確認すると、当該地域は暑さとともに検索されているランキングで全国8位であり、実際のレシートデータでも関東平均の3倍の塩パン消費量が記録されていました。データの単純集計では見落としがちな地域特性のヒントを、AIペルソナが導き出しています。

検索トレンドを基にした売上予測モデルの構築
AIペルソナを活用したアプローチは、現状の課題解決にとどまらず、市場の未来予測へもつながっています。食品の検索数の推移と実際の売上金額の間には、連動性が確認されています。例えばスンドゥブの事例では、検索件数が上昇した一定期間の後に売上金額が増加し、検索が減少に転じると売上も同様に落ち込むサイクルが示されています。

また、食にまつわる171のメニューを対象に時系列分析を行った結果、検索数が3年連続で上昇基調にあるカテゴリーは、その後の市場売上金額が約36%増加するという予測モデルの構築に成功しました。この定量的な予測ロジックに、生活者の思考を再現するAIペルソナの定性的な評価を組み合わせることで、新商品開発におけるヒット確率を高める、次世代のデータドリブンマーケティングが確立されようとしています。
 

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