飲食店・ホテルのリピート率・売上アップ・コスト削減に成功したDX事例~FOODCROSS conference 2024 DXアワード外食・宿泊部門

特集記事2025.01.31

飲食店・ホテルのリピート率・売上アップ・コスト削減に成功したDX事例~FOODCROSS conference 2024 DXアワード外食・宿泊部門

2025.01.31

飲食店・ホテルのリピート率・売上アップ・コスト削減に成功したDX事例~FOODCROSS conference 2024 DXアワード外食・宿泊部門

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デジタルの活用で経営変革した飲食店・ホテル企業を表彰するFOODCROSS conference 2024 DXアワードが2024年10月に開催された。

登壇した外食やホテルの事業者は、顧客管理ツールでの顧客体験向上によるリピート率アップやWebサイト改善による注文率アップ、経理業務のテレワーク化、生産性向上による利益率アップの取り組みなどを発表した。その内容を紹介する。

目次

親子3世代にわたるリピーターを獲得~顧客管理・ポイントアプリ

焼肉ハウス大将軍(株式会社ガネーシャ)

富山県富山市を拠点に「焼肉ハウス大将軍」など直営・FC合計38店を展開する株式会社ガネーシャ。地方都市のため、飲食事業の継続には新規客はもとよりリピーター獲得が必須という状況だった。そこで予約・顧客情報管理ツールと自店舗のポイントアプリを活用し、お客様の飲食体験価値を高めてファンを育成する施策を実施。当人や子供、孫の3世代に利用され、地域に根付いたリピーターの獲得に成功したという。

株式会社ガネーシャ 福山 雄 氏
株式会社ガネーシャ
福山 雄 氏

1.予約管理システムで顧客との関係を強化

予約管理システム『TableCheck』でお客様一人ひとりの注文履歴や来店頻度を蓄積することで、次回来店時にきめ細やかな対応を実現。例えば、顧客が来店した際には「福山さん、いつもありがとうございます。最初はいつもの白ワインでよろしいですか?」といったパーソナライズされた対応だ。これによって顧客は「私は常連なんだ、大事にされている」と感じ、常連化につながるという。

福山「この施策では顧客情報の蓄積が前提になります。そのため、アルバイトスタッフが顧客とコミュニケーションを取り、顧客情報を収集・入力することで昇給する制度も導入しています。こうすることで、スタッフが顧客との関係を積極的に深め、記念日やお祝い事などのサービスに反映できるのです」

2.ポイントアプリで店外でも繋がり継続

ガネーシャの系列店舗で使えるスマホ用ポイントアプリ「ガプリ」では、お客様が利用金額に応じてポイントを獲得できる仕組みが整えられている。このアプリでは獲得ポイントに応じてシルバー、ゴールド、プラチナなどの会員ランク制度がある。お客様はランクアップの期待感を持てるほか、誕生日にはメニューのクーポンが届くなど、アプリをアンインストールされにくい工夫をしているという。

また、アプリでたまったポイントは店舗以外にガネーシャのECサイトでも使用可能だ。これにより、来店以外でも顧客に購入機会を提供している。飲食店では席数による売上の天井があるため、アプリとポイントを通じて新しい収益の柱を作る構想だという。

他にも、アプリにはポイントに応じた月間ランキングや総合ランキングがある。例えば幹事が客単価8,000円で20人分の利用をすると、16万円分の利用金額に応じたポイントを獲得できる。そうしてランキング上位に入ることで、顧客は達成感や承認欲求を刺激され、結果としてファン化につながっていく。

福山「新規顧客の獲得よりも既存顧客のリピートを促す方がコスト効率に優れています。当社は未認知の顧客が優良顧客になるまでの段階に応じた施策を打つことで、ロイヤルカスタマーを作り出す仕組みを整えています」

図:ガネーシャのDX経営によるロイヤル顧客化
ガネーシャのDX経営によるロイヤル顧客化

顧客体験の向上と業務効率化による競争力の確保

福山氏はDX導入の本質的な目的を顧客体験の向上と業務効率化を通じた持続的な競争力の確保にあるという。

福山「競争力の確保には、自分たちのボトルネックに適したDXを導入し、かけた費用や時間をどこに再投資するかが重要です。こうした再投資先の選択が、競争力を保つための戦略的な判断になり、飲食店が地方で生き残るためのDXの役割になります」

デリバリー注文4年で累計40億円~データ分析・活用法

DELISTATION(株式会社Wiaas)

株式会社Wiaas 盛永 哲志 氏
株式会社Wiaas
盛永 哲志 氏

Wiaas代表の盛永哲志氏は、同社のデータ活用によるゴーストレストラン事業成長の取り組みを説明した。2020年にゴーストレストラン事業を開始して以来、現在まで直営5店舗、FC200店舗、累計160ブランドを開発し、4年でデリバリーの流通総額が40億円を超え、コロナ禍の収束以降も売上を伸ばし続けている。その背景には、戦略的なデータ活用があると盛永氏は言う。

盛永「コロナ禍で飲食業界が厳しい状況に置かれる中、当社ではデータに基づいて事業戦略を柔軟に変えてきました。その結果、新しいビジネスモデルを構築でき、成長に繋がっています」

KPI設計とPDCAで進化するビジネスモデル

Wiaasはデータ活用を事業の早期課題発見、PDCAの実行、組織への浸透の3つの観点から進めている。特に、ブランドごとのKPI設計とデータに基づくPDCAサイクルの実行が成長の要となっている。

ブランドごとに商品画像のクリック率、調理時間、セッション数、注文数、評価、リピート率などの指標を設け、四半期ごとに改善策を検討する仕組みを構築。売上が停滞していたブランド「ブロッコリー&ビーフブロビー」では、店舗名や写真、販売メニューの見直しを重ねた結果、半年で売上が240%増になり、人気ブランドへと成長した。Wiaasではこのようなサイクルを毎月6~8ブランドで実行し、ノウハウを蓄積している。

盛永「データを分析し、継続的に改善することで、売上やオペレーションの効率を高めることが可能です。失敗や成功パターンを学び、データの理解を深めるためにも、定期的なデータの観測は重要で、DXを推進する際の基本だと考えています」

強固なデータ基盤が生む包括的な成長戦略

Wiaasでは、UberEatsなどのサイトから得られる消費者データに加え、インフォマートから提供されるFC加盟店からの仕入れデータも活用している。これにより、事業運営に必要な包括的な分析が可能となり、意思決定の迅速化につながっている。Wiaasが構築したデータ基盤は、消費者データや仕入れデータ、店舗の販売データなど様々なデータを一元化し、分析用途に応じてダッシュボードを可視化し、様々な部署の意思決定を後押している。

盛永「社内にデータがあっても活用されないと意味がありません。WiaasではFC加盟店オーナー様にもダッシュボードを共有し、常に最新のデータを共有しています。オーナー様自身でデータをもとに改善する習慣を根付かせることで、お客様へ提供するサービスの質も向上していく。これからの飲食業の未来を見据えると、多様化するお客様のニーズや課題に向き合い、常に挑戦していく必要があります。DX推進におけるデータ活用はこれからもますます重要な位置付けになると思います」

図:WiaasゴーストレストランブランドでのDX事例
WiaasゴーストレストランブランドでのDX事例

顧客体験と生産性向上のためのDX

八芳園(株式会社八芳園)

株式会社八芳園 治部 隆宏 氏
株式会社八芳園
治部 隆宏 氏

八芳園は東京・白金台で約1万坪の敷地に江戸時代から続く日本庭園を擁する。創業から81年の歴史の中で培われた「継承と創造」を軸に、未来へと進むためのDX戦略について、BX(ビジネス・トランスフォーメーション)推進事業部長の治部隆宏氏が取り組みを発表した。

治部「DXの重要性は生産性向上と顧客体験の向上を両立することにあると考えています。生産年齢人口(15~64歳)の減少により労働力が確保しにくいという社会課題に直面していることがあります(総務省国勢調査)。また、物価の上昇も進んでおり、企業にとって生産性の向上と人件費の確保が喫緊の課題となっています。

[出典]2020年基準 消費者物価指数 全国 2024年(令和6年)8月分| 総務省 (soumu.go.jp)

デジタル化、IT化、DX化の3ステップで進めるDX戦略

八芳園では、DXの実現に向けてデジタル化、IT化、DX化の3フェーズに分けて取り組んでいる。まずは紙で管理していた社内申請や顧客情報をデジタル化して可視化し、次に蓄積したデータを活用して生産性を向上させるデータマイニングを実施。最終的にはクラウドサービスを用いた業務プロセスの見直しを進め、営業指標の改善と効率化を図っている。

LINE WORKS、kintone、CLOUDSIGNなどのツールによる効率化

DX推進にあたり、八芳園では複数のITツールを導入した。社内共通ツールとしてLINE WORKS、案件管理にはkintone、名刺管理にはSansan、人事管理にはSmartHR、電子契約にはCLOUDSIGNなど、あらゆる業務に適したツールを選定し、基幹システムを中心に統合。特にkintoneを軸に各ツールが連携し、契約書の作成や顧客へのアプローチ、業務自動化など、業務の効率化に貢献している。

治部「紙の管理をデジタル化し、RPAやMAツールで業務の効率化を進めることで、顧客との接点を増やすことができました。バックオフィスの効率化により、高付加価値な事業への時間も確保できています」

ロボット導入で接客時間を増やしホスピタリティを向上

八芳園では、新たな取り組みとして配膳ロボットを導入。ロボットが食器の片付けを担当することで、スタッフがテーブルを離れる時間を削減し、より充実したサービスの提供が可能になった。従業員が顧客と接する時間を増やすことで、ホスピタリティの向上と業務効率化の両立を目指している。

治部「スタッフがそのお客様のテーブルから離れる時間を大幅に削減します。これが、ロボットを導入する、そして、ホスピタリティを上げるという事の取り組みの一つです」

DXによるコスト削減と収益向上の実績

DX導入の結果、八芳園では管理費が5%削減され、メール開封率は20%上昇。さらに営業利益も36%増加するなど、実際の成果を実感。バックオフィス業務の効率化や営業指標の改善を通じて、さらなる価値創出の機会を見出し、持続的な競争力を確保している。

デジタル化で「おもてなしの達人チーム」を作る

ホテル椿野(有限会社ホテル昭和園)

有限会社ホテル昭和園
湯本 秀明 氏

湯本社長は、長野県湯田中温泉で20部屋ほどの宿泊施設を運営しており、2022年からデジタルツールの導入を積極的に進めている。その背景には、接客の質を高めるためにチーム全体の効率化が必要だとする現場での課題があった。

旅館業界では、伝統的に女将が接客の中心となり個人のスキルに依存するケースが多いとされる。しかし昭和園では、全員がもてなしの達人となるチームを目指し、デジタルツールの活用による情報共有の改善を決断した。

湯本「接客時間を増やすために、バックヤードでの作業時間を縮め、1人1人が1秒でも早く対応できるようにする。その積み重ねが、お客様との接触時間を増やし、結果的に満足度の向上につながると考えています」

スプレッドシートとChatworkで「おもてなし」の質を支える

昭和園がまず導入したのは、GoogleスプレッドシートとChatworkだ。スプレッドシートは表計算だけでなくチェックリストとして活用され、料理の提供状況や清掃の進捗をスタッフ全員がリアルタイムで確認できるように工夫されている。さらに、チェックイン対応や貸し切り風呂の清掃タイミングなど、従来は内線電話に頼っていた連絡を、タブレットによる共有でスムーズに行えるようになった。

湯本「お客様がいつでも快適に過ごせるよう、進捗状況の“見える化”を徹底しました。どのスタッフがどの作業をしているのか、全員が把握できるようにしたことで、対応の漏れや遅れがなくなり、サービスの質も安定しました」

インフォマートの受発注システムとPMSの導入で経理やバックヤードも効率化

インフォマートの受発注システムで商品の在庫や納品状況が簡単に把握でき、発注漏れやコスト管理がスムーズに行えるようになった。このシステムにより、調達業務が一元管理され、バックヤード業務が大幅に効率化したという。

こうした取り組みにより、接客業務の効率化だけでなく、経理業務の効率化も進んでいる。昭和園ではPMS(予約・客室管理システム)も活用し、経理業務や宿泊管理を一元化している。さらに、クラウド会計ツールとの連携によって経理業務を在宅で処理できる体制も整え、従来は全て紙の伝票で行っていた経理がスムーズにデジタル化された。請求書や納品書はクラウドに自動連携され、月次決算もスピーディに行えるようになっている。

データを活用した「見える化」でさらなる成長へ

DX導入を経て、昭和園は今後、BI(ビジネスインテリジェンス:データ収集・分析)ツールを使ったデータの見える化を進め、従業員全員が経営状況を把握しやすい体制を構築する予定だ。さらに、集客や価格設定の最適化にもデジタルを活用し、顧客満足度をより高めるための取り組みを進めていくとしている。

湯本「DXは特別なことではなく、誰もが扱いやすいツールをうまく活用することから始められます。当社では今後もデジタルの力を借りて、全体でおもてなしの達人チームを作り上げていきたいと考えています」

図:ホテル昭和園によるDXの経営効果
ホテル昭和園によるDXの経営効果

DXが拓く外食・宿泊業のデジタル変革の未来

今回のカンファレンスでは、外食・宿泊業の各企業がどのようにデジタルツールを活用して顧客との関係構築、作業時間短縮、正確性向上などの方法や効果が紹介され、デジタル化の必要性が語られた。

DXの取り組みは、外食・宿泊業における新しい潮流を象徴している。企業がデジタルを通じて顧客との深い絆を築くことで、競争力の向上や持続可能な成長につながり、外食・宿泊業全体に明るい未来をもたらすものになるだろう。

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