HACCP制度化の背景
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point:ハサップ)とは、食中毒を予防するための衛生管理の手法である。その内容は、食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生するおそれのある微生物汚染などの危害をあらかじめ分析(Hazard Analysis)し、製造工程のどの段階で、どのような対策を講じればより安全な製品を得ることができるかという重要管理点(Critical Control Point)を定め、連続的に監視することだ。なぜ今、制度化が進められているのだろうか。
「厚生労働省のHACCP普及中央協議会は、2015年3月の第1回開催からHACCPの義務化を見据えて自治体の条例改正などを進めてきました。その背景には、社会的に食中毒事故がなかなか減らないこと、異物混入などによる製品回収が多いこと、食品の輸出拡大や東京オリンピック開催などで日本の食の衛生管理基準が世界的に求められていることなどが挙げられます」
特に厚生労働省が発表した2016年の食中毒発生状況をみると、その60%は飲食店で発生している。個店などを含めて衛生レベルを上げていこうというのが狙いのようだ。
事業者の無関心による、HACCPの誤解
日本は1996年にHACCP普及推進のため、食品衛生法で認証制度を開始した。それから20年ほどだった現在、事業者の普及率はどうなっているだろうか。
「農林水産省の調査によると、製造業では売上高が100億円以上の企業で8割超の導入率ですが、50億円以下の規模では、3割ほどとなっています。また、外食でも数十店以上のチェーン展開している企業はHACCPを導入しているところがありますが、中小企業はまだ普及していません。その大きな原因は、そもそも経営者や事業責任者がHACCP自体を知ろうとしないこと、つまり無関心にあります」
事業者が無関心なため、正しいHACCPの知識がなく様々な誤解も生まれているという。
「“HACCP導入には多くの費用がかかる”“専門知識を持った人材が必要”“利益につながらない”といった誤った先入観が広がっているのが実状です。しかし、HACCPを導入するにあたっては、低コストの運用が企業間で主流となっています」
HACCPの取り組みは、業務の効率化や従業員教育にも有効
HACCPの実務は、一般的衛生管理の5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)や7S(5S+洗浄・殺菌)を継続的に監視することだ。取り組んでいる企業は、様々なメリットがあるという。
「HACCPを正しく導入することで、品質管理による不良在庫(食材、器具など)の減少だけでなく、物を置く場所をきちんと決めるなどで職場環境が変わり、業務効率の向上や経費節約につながった例もあります。食中毒の予防以外にも、大きなメリットがあるのです」
また、HACCPは環境改善以外に、従業員教育の観点でも大きなメリットがあるという。