誤記載、コンタミネーション…
そもそも、アレルギーの表示ミスはなぜ起きるのだろうか。人為的な情報の転載ミスなどもあるが、そのほかの理由の一つに、原材料情報のみに頼ったアレルギー表示作成という点が挙げられる。
多くの加工食品メーカー、外食・中食事業者は、自社製品やメニューのアレルギー表示を、仕入れた原材料の情報をもとに作成する。万が一、使用食材の原材料情報に記載漏れがある場合、情報が漏れたまま消費者に引き継がれてしまうのだ。
また、原材料情報が全て正確であったとしても、製造または調理中に意図せぬアレルギー物質の混入(コンタミネーション)が発生するケースもある。
「出荷前に社内外でアレルギー物質の検査をせず、原材料をもとにアレルギー表示を作成するというメーカーさんがいるとします。一つの商品しか作らない工場であれば、コンタミネーションは発生しないでしょう。しかし、工場内で複数の製品を作っている場合、隣の製造ラインから本来入っていないアレルギー物質が混入する可能性があります」
このように、取引先から提供された情報をもとにしたアレルギー情報管理・表示作成は、必ずしも正確だと保証できない状態だ。
ELISA法とイムノクロマト法
そこで有用なのが、科学的根拠に基づいた検査だ。現在食を扱う企業で採用されているアレルギー物質の検査方法には、食物中のアレルギー物質由来のタンパク質の量を検出する「ELISA(エライザ)法」、定性的にアレルギー物質の有無を検査する「イムノクロマト法」が代表的だ。
ELISA法は行政より指定されているスクリーニング検査方法。結果が出るまでに2日ほど時間がかかる。専用の検査設備が必要で、周辺機器も合わせて投資額は300万円になる。検査設備がない場合は検査会社に外注することもできるが、検査代の相場は特定原材料7品目分で1検体あたり約10万円と高額だ。
一方、イムノクロマト法は特別な検査設備はいらない。
「アレルギー物質由来のタンパク質が検出されると、妊娠検査薬やインフルエンザの検査薬のように試験紙にラインが現れるという仕組みです。製造現場で専門の知識がないスタッフでも、目視で確認できる、非常に便利な検査方法です」
検査にかかる時間も15分程度で、その日に作ったものを売る中食業態の事業者なども導入が容易だ。検査薬代は7品目分でも1検体あたり約1万円程度と低コスト。「すぐに始められる自主検査方法として、現在徐々に導入企業が増えています」
またメーカーは、最終製品の確認検査としてだけではなく、製造設備のアレルギー物質汚染度を確認するツールとしても活用できる。東京都健康安全研究センターは、「食品の製造工程における食物アレルギー対策ガイドブック」で、イムノクロマト法を利用して製造現場のアレルゲンマップを作る管理方法を提案している。
ELISA法 | イムノクロマト法 | |
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検査 | 定量検査 | 定性検査 |
検査時間 | 2日 | 15分(抽出操作含めて30分) |
使用目的 | 最終製品の最終確認検査 原材料の検査 | 最終製品・中間製品の確認検査 製造環境・器具の汚染検査 |
検査設備 | 必要 | 不要 |
検査キットは国内5社が製造
イムノクロマト法の検査キットは、国内では5社が製造している。
メーカー名(キット名) | 判別できるアレルゲン (表示義務7項目) |
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日本ハム株式会社(FASTKITスリム) | 卵、牛乳、小麦、そば、落花生 |
森永生科学研究所(ナノトラップII R) | 卵、牛乳(カゼイン)、小麦、そば、落花生 |
プリマハム株式会社(アレルゲンアイ未加熱用シングルステップ/アレルゲンアイ加熱用) | 卵、牛乳(カゼイン)、牛乳(ホエー)小麦、そば、落花生、甲殻類 |
日水製薬(FAテスト イムノクロマト-甲殻類) | 甲殻類(えび・かに) |
マルハニチロホールディングス中央研究所(えびかにキャッチャー) | 甲殻類(えび・かに) |
測定するアレルギー物質ごとに専用の検査キットがあり、同じアレルギー物質を検出するキットでも、各社ごと検出するアレルギー物質由来のタンパク質が異なる。
「例えば卵の検査キットの場合、日本ハム製のキットでは卵にある複数のタンパク質の有無を調べ、より見逃しにくい性質になっています。一方、他社製の場合、卵にある1種類のタンパク質のみを検査することで、特異性の高い検査となっています」
中には加熱用・非加熱用を用意しているメーカーもある。自社のメニューや食品が食べられる状態を想定しながら検査キットを選ぶと、より参考になる検査結果を入手できそうだ。
「原材料表示に書いていなかったのに、発症してしまった」
そんな事態は食の事業者として必ず避けたいところ。実際にお客様に提供する食品で検査し、お客様に提供する情報の正確性を検証できる検査キットは、食の事業者にとって心強いツールだ。メーカーだけでなく卸事業者、中食・外食事業者も、原材料情報に基づくアレルギー情報管理と組み合わせ、「アレルギー情報が間違っていないか」の確認ツールの1つとして活用し、消費者に提供する情報の精度を向上していただきたい。