食品卸業界で人手不足が解決しない原因と対策~日本外食品流通協会 小田会長

最新ニュース2023.02.24

食品卸業界で人手不足が解決しない原因と対策~日本外食品流通協会 小田会長

2023.02.24

食品卸業界で人手不足が解決しない原因と対策~日本外食品流通協会 小田会長

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食品卸売業界を取り巻く環境は原材料やエネルギーコストの高騰、人手不足、生産性の低迷、2024年問題などの課題により、年々厳しさを増している。これらの課題に対して、外食用食材の卸売業者で組織される一般社団法人日本外食品流通協会では、政府への働きかけを積極的に行いながら、課題に対する解決策も幅広く提示し、業界全体の底上げを図っている。

外食品流通協会の会長であり、大阪に本社を構えるオーディエー株式会社の会長ならびに東日本支社長も務める小田英三氏は、特に人手不足が深刻だという。多くの食品卸が課題を解決できない原因と、今後の対策について伺った。

目次

人手不足を解消する、採用負けしない仕組み作り

日本外食品流通協会 会長
オーディエー株式会社
会長・東日本支社長
小田 英三 氏

原材料の高騰による製品価格の値上げ、エネルギー価格の高騰も電気代やガソリン代に重くのしかかる。さらに労働人口減少による慢性的な人手不足に加えて、物流の2024年問題も迫る。

日本が抱えるさまざまな課題の影響を大きく受ける食品卸売業界。一般社団法人外食品流通協会(以下、外食協)の小田 英三 会長は、そうした課題にあえて重要度をつけるとすると、1番目に人手不足、2番目としてエネルギーコストの上昇を挙げる。

「少子高齢化の現代、生産年齢人口はどんどん減っています。業務用食品の流通業としては、人手不足は大きな課題です。今後、働く方が減るなかで、流通業だけでなくあらゆる産業で取り合うようになります。そのため、私たち業務用食品流通業界も生産性を上げて、採用負けしないような仕組みを作っていかなければいけません」

採用負けしないための方法として、まず挙がるのは給与アップである。そのためには会社には利益が求められるが、現在の厳しい業務環境で利益を上げることは難しい。

「かつては売買差益で儲けを出していました。ところが今は私の会社でも、利益を出すには販売管理費を見直す以外に方法がない状況です。販管費で最も多いのは人件費ですから、いかに生産性を上げて省力化をしていくかが重要です」

生産性向上の施策を食品卸業界に発信

生産性の向上という課題に対しては、多くの企業がすでに取り組んでおり、小田氏もオーディエー株式会社の業務改革を進めている。

「大阪本社では、冷凍の自動立体倉庫を作りました。商品の荷受けと格納、出荷をマイナス20度という厳しい環境下で行わねばならず、これまで当社では30代、40代の社員が行ってきました。自動化の装置を入れる前は6人で担当していましたが、装置の導入後は2人で済みます。人件費は半分以下となり、省力化の効果はとても大きいと感じています」

このほかエネルギーコスト対策として冷凍車のハイブリッド化も実施し、3トン車の走行距離が1リットルあたり9kmから14.5kmに伸びた。大手冷凍機器メーカーとの協業で、どのメーカーのトラックにも搭載できるようにしており、すでに外食協の会員企業で導入した例もあるという。

さらに、オーディエー株式会社東日本支社では、自動化を追求した物流センターの構築を計画している。完成すれば、現在33人で対応している仕事は5人程度で済むという。小田氏は自ら生産性向上の取り組みを実践し、外食協の会長として会員企業だけでなく業界全体に向けて発信し、業界全体の底上げを図っている。

「外食協は北海道から九州までの各地区の大手事業者の集まりです。各地区の有力企業の方々に生産性向上の仕組みの導入を働きかけ、その企業が今度は各地区のリーディングカンパニーとなってもらうことで各地へ波及し、会員全体の底上げへとつながると考えています」

農林水産省との連携を通じた、業界ニーズの政府への提言

外食協は、農林水産省をはじめとする政府と連携を図り業界が抱える課題を政府へ提言し、また政府が発表する業界支援策などの施策の周知を図るといった重要な役割も担う。

「外食協の会長として、農林水産省から指導を受けながらさまざまな助成策をお願いしています。2022年春に農林水産省から発表された『みどりの食料システム戦略』では、食料・農林水産業の生産性向上と持続性の両立をイノベーションで実現するため、幅広い施策が打ち出されました。この中で、物流センターの構築についても大幅な助成金が策定されています」

自己資金だけに頼らず、国からの支援を受けられることは業務改革に向けた追い風となる。

「『みどりの食料システム戦略』の基本政策の中で、販管費を現状の13~14%から、目標として10%程度まで下げていくようにと書かれています。3、4%の削減は大きいです。

農林水産省ではその部分を助成金などで応援するということですから、外食協としては食品卸売業界の現状を伝え、会員のニーズに合った補助政策の策定について、担当の部局と頻繁にキャッチボールをしています。窓口となる新事業・食品産業部の方が、とても熱心に取り組んでくださるので、外食協としても業界の底上げにつながると期待しています」

これからの卸売業界に不可欠なのは、ナンバー2の育成と企業間の関係づくり

外食協はこれまで生産性向上や省力化など、会員企業への周知と対応を促してきた。しかし、各企業の受け止め方には温度差があるという。

「例えば、インボイス制度が2023年10月から始まります。すでに対応済みの企業もありますが、地方の会員企業はまだ対応が進んでいない印象です。個々の企業が取り組むよりほかないので、外食協としても情報提供を続けていかなければなりません」

企業ごとに取り組み方に差があることについて、小田会長は「経営者の感度による」と分析する。

「経営者が仕事を抱えすぎていることが原因ではないでしょうか。経営者の元には社内のあらゆる相談事が持ち込まれます。それを組織で解決しているのか、経営者がひとりで抱えてしまっているかによって対応の早さも変わります」

現状の経営で手一杯となり、対応まで手が回らない企業も多いと推察する。では、経営者のリソース不足はどのように解決すればいいのだろうか。

「大切なのはナンバー2を育てることです。インボイス制度への対応だけでなく、生産性の向上にしても、自社の課題について相談できる相手がいれば、前向きな話をすることもできます。

外食協の会員企業のなかでも、経営を自身の子どもの世代へバトンタッチすることで、業務のIT化、自動化に成功しているケースがいくつもあります。親としてできることは、たとえば経営者の子ども同士で情報交換ができる場として、ゴルフ会を開くといったこともあるでしょう。ナンバー2の育成は、業務改革を進める上で欠かすことはできません」

人と人がつなぐ信頼関係で、卸売業界のあり方が変わる

長年に渡り食品卸売業界を見てきた小田会長は、現在の卸売業者と飲食店との関係性が希薄になったと指摘する。

「特に関東エリアで見られることですが、卸売業者同士が価格競争に走り過ぎてしまっています。というのも、お客様である飲食店が少しでも安く仕入れようと、価格のみで卸業者との取引を変える状況があり、卸売業者も飲食店を応援しようという気にはなれません。人と人とのコミュニケーションから生まれる信頼関係を構築していくことが、大切です」

さらに小田会長は、このような関係性の構築は飲食店とだけでなく卸売業者間にも必要だという。

「卸売業者同士の情報共有も希薄になってきていると感じます。例えば、エネルギーコストや人件費高騰に対する生産性向上対策やインボイス制度への対応など、卸同士が情報を共有することで業界が発展するスピードも上がります。これからは業者同士の情報共有と信頼性の構築で、もっと幅広いサービスが提供できると思います」

小田会長は最後に、これからの食品卸売業界に向けたメッセージで締めくくる。

「これからは業務の自動化で人手不足を乗り切ることで、販管費を下げ利益を出す必要があります。企業体質を変えるためにも、外食協としては政府と連携しながら、業界全体に向けた支援を続けていきたいと思います」


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日本外食品流通協会 会長 小田 英三 氏

オーディエー株式会社 会長・東日本支社 支社長
1994年オーディエー株式会社 社長に就任、2013年には会長に就任、後の2018年には当時の関東食材株式会社の代表取締役に就任し、5月に一般社団法人 日本外食品流通協会の会長に就任する。
2020年に関東食材株式会社を吸収合併、オーディエー株式会社東日本支社を開設し、支社長を務める。
日本外食品流通協会:http://www.gaishokukyo.or.jp/
オーディエー株式会社:https://www.foods-oda.jp/

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