惣菜や中食も含めた外食の市場規模推計値は、2000年が約32兆円(公益財団法人食の安全・安心財団)。これを上回ったのが2017年だ。一方で、同年の飲食店の倒産は701件で前年比26.9%増(帝国データバンク)と、小売サービス業の中で最も多い件数だった。それまで10年近く年間600件前後だった倒産件数が急増した年だったのだ。これは何を意味しているのか。
「2017年は社会的に『人手不足倒産』が急増した年でもあります(前年比47.2% 帝国データバンク調べ)。
特に外食の人手不足は慢性的な課題です。また、食のスタイルも、テイクアウトやケータリング、各地で開催されるフードフェスなど多様化しています。旧来の店舗型の既存業態では厳しく、何か手を打たねばとの思いは常にあるはずです。拡大思考はあるので、既存のままではいけないと、メニュー開発に取り組み、そこから発展して業態開発になっていったのが背景ではないでしょうか」
では実際、2019年の新業態にはどのような傾向があったのだろうか。たとえば2018年にブームが続いていた肉業態の場合はどうだろうか。
「2018年に400店舗を超えるなど、急速に店舗拡大してきた『いきなり!ステーキ』(ペッパーフードサービス)も、自社の店舗同士で競合するなどして失速しています。同ブランド全体の約1割にあたる44店舗の撤退が発表されました。行き過ぎたブームは反動がきます。特に、ステーキ、焼肉といった単価が高い業態は、来店頻度が低い点も考慮が必要です。肉業態はある程度集約されてきたと見るべきでしょう」
ブームといえば、タピオカドリンク業態。新規参入は2019年も目立ち、出店数を増やしている店舗もある。
「ブームを牽引した『ゴンチャ』(ゴンチャ ジャパン)の人気は綿密なマーケティングの結果ですが、後発がここ2、3数年で一気に増えました。タピオカドリンク専門店は、極端にいえば1坪程度でも出店でき、原価は低く高回転率で人件費もかかりません。出店して半年ほどで資金は回収できるビジネスモデルです。ある程度市民権を得てきましたが、これから定着するのかどうか、見きわめていく必要がありますね」
2019年に増えた業態からみえてくる傾向
帝国データバンクによると、2019年上半期(1月~6月)の国内企業の倒産件数は2年連続で前年同期に比べ減少している。だが、飲食店は前年同期比3.6%増。表立って見えないものの赤字店舗がかなりあるだろうと原氏は見ている。
「社会的にそういった状態が続くと、企業は日常使いできる、来店頻度が高い業態を考えるようになります。小規模で運用でき、パッケージ化しやすい、高付加価値をつけやすいといった傾向もあります。一覧では、カフェレストランが目につきます。一時期のカフェブームは落ち着いたかに見えましたが、ここにきてまた増えてきました。セルフスタイルやテイクアウト中心ではなく、むしろ滞在型のゆったり時間を過ごす業態が特徴です」
同様に、2019年に目立って増えたのが日本らしさを押し出す和食業態だ。実は純粋な和食業態自体は数を減らしているが、日本文化が体験できる、コト消費型の業態が登場している。インバウンドニーズが確実に広がっていることが見てとれる。また、既存店や自社商品の強みをより先鋭化させ、付加価値とする「専門店化」もひとつの特徴といえるだろう。
「傾向として、多店舗展開を前提とした業態開発よりもコンセプト重視で1店舗1業態で業態開発に取り組んでいる企業が目立ちます。『カフェ・ガーブ』などのブランドを持つバルニバービの出店はまさに、商業施設などのロケーションにあわせた業態開発ですね。食事だけでなく場の提供を考え、いかにその場を生かすかに重きを置いています」
2020年、新業態を開発する際の心得
表を見る限り「生産性向上への取り組みがまだ足りないように見える」と原氏。
「今後ますます人手不足が深刻化する社会で、旧態依然とした店づくりをしていては何のための業態開発かわかりません。業態コンセプトは屋号やメニューの目新しさではなく、たとえば自動配膳、キャッシュレスといった省人化の切り口などでも見てほしいですね」
特に、チェーン店になるほど収益構造が変わらず、新業態のインパクトが小さくなってしまうという。極端にいえば、メロン味のジュースをみかん味に変えたところで、収益性は変わらない。目先の変化だけでなく、構造自体を変えて10年後20年後を見据えた業態を開発しなければ、既存店まで立ち行かなくなるおそれすらあると、原氏は警鐘を鳴らす。
「外食業はピープルビジネスです。働く人を集められる魅力がある、働きがいのある業態でなければ、再現性、持続性はない時代になっています。たとえば24時間営業から短時間営業モデルに業態変更し、労働時間は減ったが売上は上がった、という例もあります。業態開発の際は思い切り収益性の違うものに、真剣かつ抜本的に取り組んでほしいと思います」
取材協力:株式会社タナベ経営