「『KAMINASHI(カミナシ)』というサービスは、食品工場の品質管理などに関する作業記録を、紙ではなくiPadなどで操作し、クラウド上に保存するものです。その名のとおり紙をなくすことができます。この特徴は、作業のチェック項目を自由に設定できる点です。また、記録されたデータは自社のルールに基づいているか自動でチェックされます。ルールに違反した記録があれば、すぐにアラートが通知されます」(澤山氏)
食品製造業においては、品質管理の記録はほぼ必ずとるものだ。さらに今後はHACCP(ハサップ:Hazard Analysis and Critical Control Point)の制度化などもあり、現場が記録をとる負担は一層増える。にもかかわらず、大手や中小問わず当然のように作業記録は紙で行われている。
「『KAMINASHI』は飛行機の機内食やコンビニの食品を製造する工場で使用されています。データチェックの自動化によって3割ほどあった記載ミスがゼロになった、紙を管理する時間がなくなり、ほかの課題に取り組めたという事例もあります」(株式会社カミナシ 諸岡氏)
「ドイツの『RE’FLEKT』という企業はiPadやAR(拡張現実:実空間にCGなどを投影して相互影響させる技術)を用いて、現場作業員の業務を効率化する製品を提供しています。作業員は専用メガネをかけることで、経験豊富なオペレーターによる指示がリアルタイムにメガネ内に投影されます。作業員は作業をしながら的確な指示を受けられ、ミスも減らせます」(澤山氏)
人材教育には人手がかかるが、オンラインでベテラン作業員が指示を出せるため、指示者がつきっきりになる必要がない。食品製造現場では、ベテラン作業員の不足や高齢化も進んでいる。同時に外国人労働者の雇用も増えているため、こうした人材教育分野でのファクトリーテックの活用は大いに期待できる。
「また、MIT(マサチューセッツ工科大学)から独立した企業『TULIP』では、現場で必要な作業マニュアルを簡単に作るサービスを提供しています。工場内の現場では、作業内容や安全管理などが日々変わっていくこともあるため、作業員がリアルタイムに対応するには限界がありました。
写真や文字を使ったマニュアル作成は、時間もコストもかかりますが、『TULIP』はマニュアル作成を現場の管理者が簡単にできるソフトを提供しています。様々な工程に応用が可能で、機械のアップデートにもすぐに対応することができるのです。また工場の稼働状況のデータ収集と分析も行っており、作業員の作業状況をモニタリングし、作業効率の改善を図ることもできます」(澤山氏)
食品製造工場においても、新製品や社会のニーズにより、生産ラインの改修が必要だが、その度ごとに発生するマニュアル作成の負担を軽減できれば、生産に注力することができ売上の向上が期待できる。
この他にも、商品規格書を業界標準のフォーマットで作成し、インターネット上で送受信する『BtoBプラットフォーム 規格書』など様々なファクトリーテック関連のサービスがある。こういったものは改善が必要な部分に的をしぼって導入できるのが特徴で、すでに多くの食品企業で利用されている。大企業ではなくても、自社の製造現場をIT化のムーブメントに乗せることができるので、これからより注目していく必要がありそうだ。
取材協力:Coral Capital