共同配送を実施する事業者の事例まとめ
共同配送は複数の食品卸やメーカー、物流企業などが協力して同じルートや配送センターを経由することで、物流の最適化や運送における課題解決につながる。共同配送の取り組みは、「フィジカルインターネット」の一環として経済産業省や国土交通省も推進している。「フィジカルインターネット」とは、インターネットのように限られた回線で膨大なデータのやり取りを効率的に行う仕組みを物流に置き換えて実施することだ。
参考:経済産業省「フィジカルインターネット・ロードマップを取りまとめました!」
例えばトラックの荷台に空きスペースがある場合、そのまま輸送するのではなく、できる限り1台にまとめて運んだ方が積載効率は高まる。フィジカルインターネットでは、こうした荷台のスペースを最大限に有効活用する仕組みづくりを目指す。そのためにも、複数の企業が連携して行う共同配送は欠かせないものとなるだろう。
実際に共同配送を実施している事業者の事例を紹介する。
企業名 | 取り組み内容 | 実施時期 |
---|---|---|
ニチレイ | 味の素冷凍食品、テーブルマーク株式会社、株式会社ニッスイ、マルハニチロ株式会社の5社による共同取り組みを検討。 共同物流の拡大や冷凍食品特有の課題解決、物流DXの推進を目指す。 | 2025年予定 |
伊藤園・日清食品 | 配送車の往来で両社の荷物を運ぶ「ラウンド運輸」を開始。 トラックの使用台数19%削減、CO2排出量の17%削減を見込む。 | 2024年7月~ |
ローソン・ファミリーマート | 東北地方の一部地域において、アイスクリームや冷凍食品を対象とした物流拠点間の輸送を開始。 | 2024年4月~ |
イオンモール | 出店企業向けに「店舗配送」「店舗間配送」「返品配送」の3つのサービスを展開。 2024年度中に全国への展開を予定。 | 2023年2月~ |
岩田産業 | グループ企業内での共同配送を開始。それに伴い、従業員の運輸免許(緑ナンバー)取得を実施し51人が合格。 運行管理システムの構築により他社との共同配送を見据える。 | 2021年~ |
アサヒビール | キリンビール社やサッポロビール社、サントリービール社との4社による共同物流を開始。 運送手段として鉄道とトラックを利用。鉄道コンテナの活用や積載率の向上、長距離トラック運行台数の年間800台削減を見込む。 | 2017年9月~ |
F-LINE | 味の素やハウス食品など食品メーカー6社による物流ネットワークの構築。 外装サイズや外装表示の標準化、納品伝票の電子化などに取り組む。 | 2016年4月~ |
共同配送における現状の課題
食品企業が共同配送を行うメリットは大きいが、それと同時に取り組む際の労力やコストも高い。現状の課題を把握することで、取り組みへのコツと注意点について理解しておこう。
配送管理の複雑化
自社だけでなく他社の商品と一緒に積載するため、荷物の管理が難しくなるのが大きな課題の1つだ。配送する時間や回数、積載量なども検討の必要がある。加えて利用するコンテナやパレット規格の統一など、他社と協議しなければならない項目は多いため、綿密な計画を立てることが重要になる。
また追加の発注や時間変更などのイレギュラーが発生しても、臨機応変に対応しにくい点が挙げられる。他社の荷物管理に影響するので、急なスケジュール変更は難しくなる。
温度帯やにおい移りの管理徹底
食品の配送は冷凍や冷蔵、常温食品などの様々な温度帯で管理するものがある。さらに混載する食品によっては匂いが移ってしまうこともあるため、共同配送できるものとできないものを明確にしておく必要がある。他社がどんな商品を運ぶのかなど、事前に企業間で決めておくことが大切だ。
インフラの整備
地域によっては、共同で利用する物流拠点や配送車が整っていないケースがある。その場合、新たな配送拠点や設備の設置、冷凍・冷蔵用などの専用車両を用意しなければならない。しかし初期投資のコストも大きくなるため、取り組むハードルが高くなってしまう。
各企業の拠点が近ければ、トラックによる巡回のみで輸送できるケースもある。しかし、配送時間が延びることで起こる食品の品質低下などには細心の注意を払うことが必要不可欠だ。
配送元企業間のコスト負担
共同で配送する企業によって、輸送距離や積載量は異なる。そのため、各社の利用頻度や配送規模によって、コストの負担を明確にしておかなければトラブルの元になりかねない。運送業者へ依頼する際にも、各社の料金設定や支払い方法を見直す必要が出てくる。
共同配送で他社との信頼関係を構築するには、こうした料金やコスト分配も事前に相談して公平性を保つことが重要だ。
配送商品の情報共有システム
複数社が正確に商品を配送するには、受注情報を効率的に共有できる管理システムが必要になる。FAXや電話による受注方法では実現が難しいため、まずはデジタルデータで受注できるツールの導入を検討しよう。
共同配送のメリット
最後に具体的なメリットを3つに分けて見ていこう。
配送コストの抑制
共同配送では、様々な食品企業の商品を1つの物流拠点に集めてからの運送と、1台のトラックで荷主の元を巡回して同じ配送先へ届ける方法がある。これにより各社がそれぞれトラックやドライバーを用意するよりも、運行台数や人員を抑えられるのがメリットだ。
配送コストの削減は、最終的に商品を購入する消費者にも大きく関わってくる。近年の食品メーカーによる商品の値上げの1つの要因として運送コストの上昇が挙げられるためだ。帝国データバンクの発表によると、2024年の食品値上げの要因として「物流費:68.6%(前年58.4%)」の他にも「人件費:26.7%(前年9.1%)」などが前年と比べて大きく上昇している。
参考:帝国データバンク『定期調査:「食品主要195社」価格改定動向調査―2024年10月』
企業の競争力を高めるためには、配送コストの削減により商品価格を抑えることも重要なポイントとなる。
環境配慮によるSDGsへの取り組み
共同配送によりトラックの運行台数を削減できれば、CO2の排出量を抑えることが可能だ。これは単純な環境負荷の軽減だけでなく、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みにつながるため、社会貢献による企業価値の向上や社内外での評価を高めるメリットとなる。
関連記事:SDGsとは?2030年までに達成すべき目標と食品事業者・飲料メーカーの取り組み事例
物流の2024年問題への対策
物流の2024年問題とは、同年4月1日から施行された働き方改革法の1つである「ドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限」で起こりうる問題のことを指している。
例えばドライバーの労働上限が抑えられることで、従来よりも運送距離や時間が減少するため、必要な時に商品が届かず生産数が落ちてしまう。加えて物流業の売上が減少するとともに各ドライバーの収入が減り、企業の経営危機や離職率が増加してしまうなどの側面もある。
そこで、共同配送による積載効率の向上やドライバーのリソース削減は欠かせないものとなってくるはずだ。複数の商品をまとめて運ぶことで、配送先の荷捌きを効率化できるため、ドライバーの構内待ち時間を短縮することにもつながるメリットがある。
食品物流の課題解決には競合他社との協力も重要
物流業界では、時間外労働の制限やドライバーの高齢化、慢性的な人手不足や輸送費の高騰などの避けては通れない問題が数多くある。そうした課題解決につながる可能性を持つのが共同配送である。しかし共同配送は、業務の効率化やコスト削減などの直接的な利点も大きい一方で、物流の複雑化や食品の品質管理が難しくなるといった課題も出てくる。
とはいえ同じ悩みを抱えている食品企業は多くあり、競合他社であっても時には協力関係を結ぶことも可能である。自社と相性の良い企業が見つかるように業界全体に視野を広げ、協力できる企業探しをしてみよう。